2014年6月にLTEサービスが始まり、各社のハイエンドスマートフォンが続々と販売されている台湾。その陰で高速通信サービスを謳っていたWiMAXがいよいよ終焉を迎えることになる。この冬に事業免許が切れるWiMAX事業者が更新不可の通達を受け、これにより6社ある全WiMAX事業者は事業継続の道を事実上閉ざされたことになった。
基地局稼働率半分以下で免許更新をはく奪
台湾の国家通信放送委員会(NCC)は2014年8月20日、WiMAX事業者のうちの1社である大同電信の免許更新申請を却下した。同社は今年12月3日に事業者免許が切れるため、免許更新を申請し引き続きWiMAXサービスを提供する予定だった。NCCによればWiMAXの事業免許はサービス開始後5年間であり、自動継続はされない。とはいえ免許の先有権があることから事業継続基準を満たしていれば免許延長が許可される。
だがNCCが大同電信のネットワーク設備を調査したところ、現在設置されている681基から抜き打ち検査を行った結果、90基のうち47基しか電波を飛ばしていなかった。つまり半数以上が基地局として稼働していなかったのだ。また事業計画では台湾南部に1837の基地局を設営する予定だったが、事業開始から5年でその1/3にも達することは無かった。そのため今後の事業継続は不能と判断し、免許更新を取り下げ免許をはく奪することになったのだ。
この結果は他の5社のWiMAX事業者にとっても大きな痛手となった。サービス5年で加入者数は6社合計で12万人規模、しかも周波数の帯域は90MHz分を利用している。これに対して6月から大手3事業者がサービスを開始したLTEは2ヶ月で30万人を獲得、年内には100万人に達する勢いだ。台湾でのWiMAXの事業継続は「電波の無駄な利用」に等しい状態になっているのである。
6社のうちの1社、遠傳電信(FarEastTone)は2G/3G/LTE事業者でもあるため、WiMAX免許切れの後に保有免許はそのままLTEへと転用する予定だ。
これに対して他5社はLTEへの転換も困難だ。2013年にはFDD-LTE方式の免許が交付され、既存の大手4事業者と新規2事業者が免許を落札したが、新規事業者はLTEだけではサービス継続は難しく、既存の携帯電話事業者と合併の道を選んだ。これはWiMAX事業者が今後LTEへ事業転換する際にも同じことが言える。つまりデータ通信だけではサービス展開は難しく、WiMAX各社が単独で生き残ることは難しいのだ。

NCCはWiMAX重視路線で他国に後れを取ってしまった高速モバイルブロードバンド環境を一気に改善するために、WiMAX事業者が利用している周波数をLTEに転用する考えを持っている。そして今回、大同電信のWiMAX免許更新にNGを出したことで、来年以降の他WiMAX事業者の免許更新時にも「加入者増の可能性」「エリア拡大の可能性」「健全な事業継続」が出来ないことから免許の更新を与える見通しは無くなった。すなわちWiMAXを含む周波数帯域を新しいLTE向けの免許オークションとして早々に開放することが可能になったと言えるわけだ。
なお台湾のWiMAXで利用されている2600MHzの周波数は、国際的に見ても重要な帯域だ。世界のLTEの状況を見ると、FDD-LTE方式の周波数で最も利用されているのが1800MHz(Band 3)である。そして次に利用されているのが2600MHz(Band 7)なのだ。海外からの国際ローミング受け入れや自国の設備メーカーが海外向けに機器輸出をするためにも、自国内で2600MHzのLTEを提供することは必要なのである。
また隣国中国ではTD-LTE方式が始められているが、そちらでは2500MHz(Band 38、Band 41)が利用されている。NCCは2015年に新たにオークションにかける2600MHz帯の周波数のうち、50MHzをTD-LTEに、90MHz(45MHzx2)をFDD-LTEへと割り当てる予定だ。これにより台湾は中国やインドなどとの互換を得ると共に、既存の1800MHzと新たな2600MHzというFDD-LTEの国際標準ともいえる周波数を提供することになる。出遅れていた高速モバイルブロード環境で一気に巻き返しが可能になるのである。

すでに崩壊しているWiMAX事業
では台湾のWiMAXの現状はどうなっているのだろうか?6社のうち威達雲端(VeeTIME)は威邁思電信(VMAX)と大同電信を買収し3社連合に、さらに全球一動は台北市などで威達雲端と設備を共有するなど各社間で相互に協力を行っている。ちなみに大同電信の加入者は3万5000人とのこと。エリアは台湾南部だけとはいえ、人口約2400万人の台湾でこの加入者数だけで事業が成り立っているとは思えない状況だ。

各社のカバレッジも大都市中心にとどまっており、営業所を設けているがそこには「4G」の文字が目立つ。開始されたばかりのLTEへの対抗手段としたいのだろう。また料金や端末などは「無料」の文字が目立つ。もはやお金を払ってWiMAXに加入してもらうのは難しく、「まずは無料で加入、機器も貸し出し、使っただけ払ってもらう」という料金が増えている。全球一動は固定契約期間も無く「いつでも解約可能」という太っ腹な料金を提供中だ。しかしこれでは安定した収益は見込めない。

またPHS事業者であった大衆電信はWiMAXへの事業変換をうまく進めていたが、2014年6月に営業所を全て閉鎖。この冬に事業を改めて再開予定とのことで、WEBサイトも閉鎖されている。同社はPHSサービス時代にも資金繰りの悪化でサービス継続が危ぶまれる時期もあっただけに、今回もこのまま事業停止する可能性もある。
すでにWiMAXの基地局を製造しているメーカーもわずかであり、端末も国産メーカーが撤退に等しい状況だ。これはまさに台湾でのPHSの終焉時と同じ状況になっている。LTEへの転換は遅れたものの、これから台湾の関連メーカーが力をつけ、国際展開を広げていくことに期待したい。
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