2014年12月24日にKDDIから発表されたスマートフォン「Fx0」はFirefox OSを搭載しスケルトンボディーを採用した特徴的な端末だ。クリスマスに発表されたということもありこのFx0には世界各国からも注目が集まっている。KDDIはFx0を日本でしか販売しないようだが、海外でも十分通用する出来の製品だけにグローバル展開を行うべきだろう。なぜならKDDIのスマートフォンはすでに一部の国で人気になっているからだ。
日本のスマホが海外でも人気
スマートフォンが登場するはるか以前から、携帯電話は裏マーケットも含め世界中で流通していた。2Gの時代は独自方式を貫いた日本に対し、海外はGSM方式でほぼ統一されていたため端末は国を超えて流通されていたのだ。SIMロックがかかった端末でも、業者などがあの手この手でロックを外して他の事業者のSIMカードを利用できるようにして輸出や再販を行っていた。日本の端末も他国には無いデザインなどが受けて、3G導入後はアジアを中心に裏ルートで輸出販売され人気となったこともあった。
そして現在。ドコモは有償ながらも自社販売するスマートフォンのSIMロックを解除するサービスを行っている。そのため日本で格安販売されたスマートフォンが、正規にSIMロックをはずして海外に輸出され販売されるケースも増えている。アジアの携帯電話を売る雑居ビルの中には日本のスマートフォン専門店も多い。なお韓国はスマートフォンにSIMロックがかかっておらず、そのまま海外で利用できる。そのため「日韓スマホ屋」を名乗り、日本と韓国の輸入端末を並べて販売する店がアジアでは急増している。

それらの店の品ぞろえを見ると、サムスン電子、LG、ソニー、HTCといった海外でも人気のモデルの日韓版がずらりと並べられている。日本も韓国もスマートフォンが激安販売されることが多く、海外の正規販売価格を大きく下回る例も多い。例えば2014年12月末からドコモのSO-02G(Xperia Z3 Compact)は契約が必要とはいえ新規一括0円で販売され、アマゾンなどでは本体のみが3万円台で販売されている。これに対して海外でのXperia Z3 Compactの価格は日本円で約5万円台と、大きな価格差がある。日本で白ロムを買って海外で転売しても輸入ショップは利益が出るわけだ。
このように海外では高価なモデルが日韓で安く仕入れられ海外で販売されているほか、日本や韓国でしか販売されていない製品も輸出され販売されている。韓国国内限定モデルの多いパンテックの製品はスタイルがいいこともありアジアでも人気だ。またサムスン電子やLGの韓国向け限定モデルも珍しさもあり購入者は多い。そしてそれらの製品に混じり、最近人気なのがKDDIが販売するisaiの各モデルである。

なぜisaiが海外で輸入販売されているのか
KDDIとLG、そしてKom&Coが共同開発した初代のisaiモデル、LGL22はブルーを基調としたカラーが特徴のスタイリッシュな製品だ。その本体デザインは5.2インチという大きさながらも女性が持ちやすい形状をしている。パッケージの美しさと相まって、他社の製品にはない独特の世界を提供したモデルでもあり、発売時はアジア各国のメディアにも大きく取り上げられた。
とはいえ日本向けの製品であり海外で販売されることはなかった。だが初代モデルは発売がら時間がたったこともあり、最近は日本国内で安価で購入することができるようになっている。それに目を付けた海外の輸入業者が、独自ルートで日本から単独輸入して現地販売を始めているのだ。しかもisaiは他社の製品にはない本体デザインということで、意外にも女性を中心に人気になっている。

香港の日韓輸入ショップでも、訪れるたびにこのisaiを購入している客の姿を見かける。最近はLGL24など後継モデルが輸入されるケースも増えている。これらの製品は非正規輸入品であり保証は一切ないが、携帯電話の輸入販売はアジア各国では当たり前のことになっている。すなわちこの手の店で売られている製品が非正規品であることは購入者はわかりきっていることなのだ。そして日本でしか販売されなかった限定かつレアな製品を欲しがる客がわざわざ買いに来ているのである。
つまりisaiは海外でも「欲しい!」と思われるだけの、魅力のある製品なのである。ちなみに香港での販売価格はLGL22が2万5000円から3万円前後、LGL24が3万円から3万5000円程度(2015年1月現在)。
ところでKDDIのスマートフォンにはSIMロックがかかっており、有償のロック解除サービスも行われていない。だがそのあたりは専門の解除業者がおり、ロックを外してしまうのだ。逆に言えばロックの外れない製品は海外輸出されることも無いのである。
KDDIはグローバルに端末販売を行うべき
筆者は以前、日本のとある通信事業者の関係者に「日本向けの携帯電話を海外に販売してはどうか」と聞いたことがある。だがその時の回答は「我々はネットワーク会社であり端末メーカーではない」だった。昔から日本では海外から見ても魅力的な端末が多数販売されており、それらを欲しいと願う海外の消費者も一定数いたというのに、勿体ない話である。
だいぶ前の話となるが、2000年台初期にヨーロッパの通信事業者のO2はWindows Mobile OSのスマートフォンを自社ブランドで販売していたことがあった。O2のロゴの入ったスマートフォンは最新スペックを搭載したハイエンド製品が揃っており、ノキアなどの大手メーカーにいきなり対抗する新興メーカーとしてその名前を広げることに成功した。当時のO2は今でいえばアップルやグーグルのような、非常に最先端を行くブランドでもあったのだ。

KDDIは以前からもau design projectやiida projectを通じて特徴的な製品を数多く送り出してきた。その範囲は端末だけに留まらず、葉っぱのついたケーブルなどおしゃれなアクセサリにも広がっている。これらの製品が日本以外にもKDDIの名前、あるいはiida projectを通して海外展開されれば、KDDIのブランド力はグローバルでより高まることが期待できる。しかも日本メーカーの海外展開が苦戦する中で、KDDIの独自製品は日本の製品開発力を海外に大きく誇示できるものにもなるだろう。

もちろん海外での販売と一言で言っても、販路、サポートなどクリアすべき課題は山積みだ。だがスマートフォンのコモディティー化が進む中、差別化された優れた製品を求める声は世界中で高まっている。まずはFx0の限定数を、SIMロック解除したうえでオンラインで海外向けに限定販売してみるのはどうだろうか。恐らく一瞬で売り切れるほどの人気になることは間違いないだろう。様々な事業展開拡大を行っているKDDIだが、そろそろ端末事業の国際展開を考えてもいいのではないだろうか?