Lenovoは2015年10月26日、中国でMVNO事業(Mobile Virtual Network Operator仮想移動体サービス)参入を発表した。また世界シェアトップの仲間入りを果たした同じ中国のXiamiもこの秋にMVNOを開始している。相次ぐメーカーのMVNO参入の狙いはどこにあるのだろうか。
スマホ低価格化の波にのまれたLenovoとXiaomi
世界最大のスマートフォン市場となった中国。毎月の携帯電話全体の出荷台数は平均して400万台に達している。だが右肩上がりに成長を続けていたのは2013年までで、それ以降出荷数の伸びは前年比横並び、あるいは前年比を割り込む月も増えている。中国でもある程度スマートフォンが市場に行き渡っており、これからの需要は新規購入ではなく買い替えが大半となっているのだ。ここ数年メーカー数も急増したが、各社から発売される新モデルの数は以前よりも減りつつある。
しかも各社の新製品は価格の下落が続いており、高価格モデルよりも低価格モデルの割合が増えているのだ。日本でSIMフリースマートフォンとして販売されている3万円前後の製品とほぼ同じスペックの製品が、今や中国ではそれよりも安く1000元(約2万円)以下のモデルも珍しくない。市場参入したメーカーが増え、各社が毎月のように新製品の販売合戦を繰り返したことでスマートフォンの価格はどんどん下落しているのだ。しかもスペックは価格下落しつつもむしろ上がっており、「安かろう・よかろう」というコストパフォーマンスに優れた製品が次々に登場しているのである。
LenovoのスマートフォンはハイエンドのVibeシリーズを筆頭に、ミッドレンジからエントリーモデルまで手広いラインナップを提供している。だが圧倒的に売れているのは低価格モデルで、Lenovoはいわば薄利多売でボリュームと利益を確保していた。ところがここ1年ほどで各社からLenovoと競合するモデルが多数登場し、しかもLenovoの製品よりも安くて高性能なスマートフォンが次々と販売されていった。その結果Lenovoはスマートフォンの中国国内シェアを一気に下げてしまったのだ。2014年のLenovoの中国国内スマートフォンシェアは3位。ところが2015年上半期終了時点では8位まで落ちてしまったのである。

一方、新興メーカーとして一躍有名になったXiaomi(シャオミ)も今は一時期ほどの勢いを感じられない。2014年は年間で6112万台を販売し、2015年は通年で1億台を売るとぶち上げたが、2015年7月に発表した上半期の販売台数は3470万台だった。下半期もこのペースだとすれば7000万台ちょっととなり、当初の目標に届かないどころか昨年からの成長も急激に鈍化した格好となる。
このXiamiが9月に、そしてLenovoは10月からMVNO事業を開始した。これらスマートフォンメーカーがMVNOを提供するのは端末以外の事業を強化するだけではなく、スマートフォンそのものの販売増を狙ったものと見られている。

オンラインでスマホもSIMも提供
中国のMVNOは現在はまだ正式に免許が交付されていないが、約40社ほどが仮運営という形でサービスを展開している。MVNOの顔ぶれは家電量販店やWEBサービス企業など様々だが、端末メーカーも数社がサービスを提供している。各社のサービスはまちまちだが、スマートフォンメーカーが考えているのは端末と回線のセット販売や、自社製品利用者に対する優遇だ。
LenovoのMVNOは開始当初、Lenovoのユーザー会員だけが先行して無料で使用サービスを体験できた。お得なサービスを使いたければLenovoのスマートフォンをまずは買ってから、というわけだ。中国の携帯電話は基本的にプリペイド方式のため、LenovoのMVNOサービスもオンラインで申し込みができる。電話番号も選ぶことができ、いわゆる良番は毎月の基本料金が約7500円と高値だ。電話番号を自由な価格で販売できるのもMVNOならではのサービスであり、好きな番号や誕生日を優待価格で提供する、といったプロモーションも可能だ。

またXiaomiのMVNOサービスは思い切った低価格の2つのプランで攻めている。ハイスペック・低価格スマートフォンでシェアをあっという間に拡大した戦略を繰り返しているのだ。最近の中国のプリペイドSIMは使っただけ払うのではなく、毎月無料利用分が一定量利用できる月額制のものが大半だ。Xiaomiはそれを逆手に取り、基本料金無料SIMを大々的にアピールしている。またもう一つの料金は59元(約1200円)で3GBというわかりやすい料金を提供。中国の大手通信事業者の料金プランは音声、SMS、データを自由に組み合わせられるものの、パターンは何十通りもありわかりにくくなっている。「毎月無料維持」「3GB」という明瞭な2つのプランでXiaomiは通信事業での価格破壊を起こそうとしている。
さてこの両者は現時点ではまだSIMカードの販売しか行っていない。だがいずれはスマートフォンとSIMのセット販売も始めるだろう。なぜならそれは、すでに中国の大手通信事業者が行っているからである。

前述したように中国の携帯電話サービスはプリペイド方式の提供がほとんどである。そのため回線契約もオンラインで簡単に行える。そしてスマートフォンの価格も今や安いことから、日本のように24回払いと言った面倒な買い方をしなくても、一括払いで手軽に買える値段の製品がほとんどだ。そのため新しくスマートフォンを買いたい場合、通信事業者のオンラインショップを開いて自分の電話番号でログインし、好きなスマートフォンを選んで購入、翌日には自宅に届く。届いた後は今まで使っていたSIMを入れ替えればよい。非常に簡単だ。
通信事業者のオンラインショップでは、各メーカーのスマートフォンを単体でも買えるし、お得な割引プランを適応して通信費もスマートフォンもより安く買うこともできる。通信事業者側は売れ筋モデルや在庫処分したい製品の価格を自由にコントロールして販売できるわけだ。
それに対して各メーカーもオンラインストアを用意し、最新モデルをいち早く提供したり、旧モデルの思い切った割引販売などを行っている。だがメーカーの店舗で買えるのはスマートフォンだけだ。通信事業者の店舗なら携帯電話回線と一緒に割引も受けられ、しかもメーカー同士の競争もあり5000円を切るような低価格でスマートフォンが販売されることもある。またメーカーが新製品を発売しても、事業者側で他のモデルを売りたければ優待などが提供されないケースもある。通信事業者のオンラインストアでは、メーカー自慢の製品が必ずしも売れるとは限らないのだ。
しかしメーカーがMVNOとして通信回線を提供すれば、大手通信事業者のように回線と端末のセット販売を自由に提供することが可能になる。最新製品にプロモーションで無料データを増額したり、売れないモデルならば無料通話を増やして売る、といったことも可能だ。またLenovoは買収したMotorolaがスマートフォンをカスタマイズして注文できる「MOTOMAKER」とういサービスも提供している。オンラインでスマートフォンの外装などをカスタマイズして自分好みの製品を購入することができる。このMOTOMAKERにMVNOのSIMを組み合わせれば、たとえば「一つ上のプランに加入すれば、オプションの背面カバーの交換が無料」といった売り方もできるだろう。
今後両者がどのようにMVNOサービスを展開していくかはわからないが、今まで通信事業者側にコントロールされてきた端末の価格コントロールを、MVNO回線を提供することによってメーカー側が奪い返すことができるかもしれない。また今後はHuaweiなど同業他社もMVNOへの参入を始める可能性もあるだろう。中国メーカーの国内MVNO展開はこれから面白くなりそうだ。