Windows 10スマートフォン登場で消える、第三のスマホOS|山根康宏のワールドモバイルレポート

「第3のスマートフォンOS」合戦が盛り上がったのはまだ1年ちょっと前のこと。GoogleやAppleに対抗すべく、新たな勢力としてFirefoxやUbuntuといったOSを搭載したスマートフォンがいくつか登場した。だがこれらは今、ひっそりと消え去ろうとしている。

Windows 10スマートフォンがついに登場

2015年11月下旬から、日本でもあまり知られていないメーカーのスマートフォンの発表・販売が相次いだ。マウスコンピューター、フリーテル、ヤマダ電機、NuAnsといずれも国内企業が新製品を相次いで投入したのだ。しかもいずれの製品もOSにはWindows 10を搭載。2015年夏にパソコンやタブレット向けに登場したWindows 10 OSが、正式にスマートフォンにも対応しその製品がいきなり4モデルも登場したのだった。

新しいWindows 10 OSは、今までのパソコンと同様に利用できる「デスクトップモード」だけではなく、タブレット利用時に使いやすいようにタイル状のアイコンを並べた「タブレットモード」へ切り替えできる。タブレットモードではWindowsストアから提供されるアプリが利用可能だ。Windows 10スマートフォンは、このうちタブレットモードだけを備えたスマートフォンと考えるとわかりやすい。つまりスマートフォン専用アプリが動くというよりも、PC向けアプリのうち、タイルアイコンの並ぶタブレットモード向けのアプリ(ストアアプリ)が利用できるわけだ。画面のユーザーインターフェースは通知バーを備えるなど、スマートフォン向けのものになっているが、Conitnuum機能を使えばTVに接続して簡易PCとしても利用できる。

日本メーカーからもWindows 10スマートフォンが登場(MADOSMA)
日本メーカーからもWindows 10スマートフォンが登場(MADOSMA)

AndroidはノートPCスタイルの端末にChrome OSを開発しているものの、最新のキーボード分離式タブレット「Pixel C」ではAndroid OSを採用。またAppleはノートやデスクトップPCのMac OSと、iPhoneとiPadのiOSは別のものとして統合はしないと話している。両陣営のスマートフォンとPCのOSの今後に対する考えは、Googleがまだ混迷しており、一方のAppleは分離としている。だがMicrosoftは「全てを同一OSで」という戦略をとったのだ。

Windows 10スマートフォンの以前のバージョンはWindows Phone 8.1 OSだった。そのWindows 8.1を搭載したスマートフォンの販売数の割合は、Gartnerの調査によれば2015年第3四半期(7-9月)でシェア1.7%。Androidが84.7%と実質上世界を制しており、2位のiOSですら13.1%であることを考えると実質「その他少数」にしかならない数字だ。しかも1年前の同期はシェア3.0%だったことから、この1年で半分程度まで落ち込んでいる。

とはいえWindows 10をOSに搭載することで、Windowsスマートフォンは「超小型のパソコン」として使えるようになる。PCメーカーも続々参入を行うだろう。なぜならPCメーカーの多くはAndroidスマートフォンを出しているが、そのシェアは低い。企業向けに販売が見込めるWindows 10スマートフォンは、PCメーカーにとってもスマートフォン再参入のチャンスと言えるのだ。コンシューマー向けスマートフォンはAppleやSamusungといった強力なライバルがいるが、Windows 10スマートフォンならば各社今はスタートラインに横並びの状態だ。Windows 10 PCやタブレットとのセット販売も見込めるだけに、2016年以降Windows 10スマートフォンを投入するメーカーは増えるだろう。

スマートフォンOSシェア。Windowsは今が一番の底値となるか
スマートフォンOSシェア。Windowsは今が一番の底値となるか

第三のOSの誤算と今後の動き

KDDIから日本でFirefox OSを搭載したスマートフォン「Fx0 LGL25」を発売したのは約1年前の2014年12月末。「第三のOS」として大きくもてはやされた。しかし今から思い起こせば、実はその時点でもはやOSの優位性をアピールする時代は終わっていたのだ。

Androidスマートフォンを利用する際はGoogleのアカウントが基本的に必要だ。アプリのダウンロードストア「Google Play」を利用する際もGoogleアカウントを必要とする。Google Playはそれまで通信事業者経由で販売していたアプリやコンテンツも配布しており、Androidスマートフォンの利用者は事業者ではなくGoogleからサービスを受ける。これに焦りを感じた通信事業者が集まり、OSに支配されない新たな陣営としてFirefoxへの参入を進めた。アプリの開発もオープン、事業者の課金も可能とあって第三のOSの将来には明るい未来が待っているはずだった。

通信事業者の期待も大きかった第三のOSの一つ、Firefox OS
通信事業者の期待も大きかった第三のOSの一つ、Firefox OS

だがふたを開けてみれば、Firefox OSを採用したスマートフォンは新興国向けのエントリーモデルに留まった。先進国の消費者は、実はスマートフォンのOSではなくアプリやサービスを第一に考えスマートフォンを購入しているからだ。使いたいアプリ、使いたいサービスがあるスマートフォンを選ぶとなると、結局はAndroidかiOSになってしまうわけだ。

そのため先進国向けのFirefox OSスマートフォンはFx0以外はほとんど話題になることは無く、もっぱら新興国向けの簡単スマートフォンしか登場ししえなかった。その結果、第三勢力として対抗しようとした通信事業者の夢は破れてしまったかに思えた。

ところが今や「すべてのサービスをGoogleやAppleから受ける」時代では無くなった。音楽はSpotifyでストリーミングで聞き、動画はNetflix、電子書籍はAmazon、そしてコミュニケーションはLineやFacebookを使うことは当たり前になっている。端末の使いやすさや本体デザインの好みはあれど、利用しているスマートフォンがAndroidであるか、iPhoneであるかを気にする必要もない。通信事業者が恐れいてた「すべてをスマートフォンOSメーカーに持っていかれる」状況は変わりつつあるのだ。

たとえばヨーロッパでは通信事業者がSpotifyのプランを提供することも多い。アジアではFacebookやLineの利用をセットにした通信事業者の料金プランもある。これらのいわゆるOTT(Over-The-Top)サービスも、当初は通信事業者の敵と見られていた。しかし通信回線が無くてはOTTは使うことすらできない。結局は両者が手を組み、新しいビジネスモデルが次々と生まれているわけだ。

もはや直接GoogleやAppleのサービスを受けなくてもいい時代になった
もはや直接GoogleやAppleのサービスを受けなくてもいい時代になった

Windows 10スマートフォンは、Firefox OSスマートフォンが得意としていた新興国や途上国でも販売数を伸ばしてきた。Windows Phone 8.1時代、ハイスペックなCPUをOSの制約上利用することができなかったことから、100ドル以下の低価格なWindowsスマートフォンが多数販売されてきたのだ。新興国ではWindowsスマートフォンもFirefox OSスマートフォンもできることはほとんど変わらなかった。だがこれから、新興国でも売られるWindows 10スマートフォンは簡易PCにもなる最新モデルへと置き換わっていく。時にはPCライクにも使える低価格なスマートフォンが新興国にも登場し、そして通信事業者も第三OSに注力する必要が無くなった今、Firefox OSを推進する意味は無くなってしまったと言えそうだ。

Firefoxは今後、組み込みOSなどへの道を探る予定だという。すでにSamsungが主導するTizen OSは、スマートフォン数機種を出しながらカメラやIoT機器向けのOSとして採用が広がっている。例えばSamsungが販売するスマートウォッチは、Android WearよりTizen OS版のほうが電池の持ちがいい。Androidスマートフォンとより密接な連携をするならスマートウォッチのOSはAndroid Wearが優位だろうが、時計としての使いやすさを考えるとUIも自由に設計できるTizen OSのほうにも利点が多い。Firefox OSも今後Tizen OSと同じ道を歩むのだろう。

これからもスマートフォンで利用できる新しいサービスやアプリが次々と生まれてくるだろう。一昔前なら「まずはiPhone向けに開発」あるいは「iPhoneだけ対応」というものが多かった。しかし今やどのOS向けにもサービス、アプリが提供される時代だ。今後はWindows 10スマートフォンに対応するアプリも増えてくるだろう。いずれは、スマートフォンのOSを意識することなく、誰もが自分の使いたいサービスを自由に使える、そんな時代がやってくることを期待したい。

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