「余剰データを個人が販売」「料金先払いで無料データゲット」香港キャリアの面白いサービス|山根康宏のワールドモバイルレポート

日本のMVNOのmineoが利用者の余剰のデータ利用分を集め、それを自由に各ユーザーが再利用できるサービス「フリータンク」を開始した。また日本を含む世界中の通信事業者は、毎月の無料利用分を家族間などで自由に譲渡できるサービスも提供している。だが香港の通信事業者は、さらに一方進んで余剰データを個人間で売買できるサービスを提供している。

未使用データを他人に販売できる中国移動香港のサービス

だが香港の通信事業者、中国移動香港はさらに一歩進んで、自分の使わないデータ利用分を他の利用者に個人が販売できるサービスを2013年から始めている。例えば「今月は海外出張が多くて国内にほとんどいなかったから無料データ利用分が余っている」というケースや、「いざという時のために5GBのプランに入っているが、今月は1GBしか使っていないから4GB余っている」といった場合、余剰分を自分の好きな値段で販売できるのだ。

販売方法は簡単で、中国移動香港の「2cm(2nd exchange market)」にログインし、自分の売りたいデータ利用をGB単位で入力、またその価格も入力する。あとは買い手が付けば、その金額が自分のアカウントに入金され次の基本料金支払いの時に利用できる。なお1回あたり15香港ドル(約223円)の手数料がかかるが、現在はプロモーションで無料だ。

中国移動香港のデータ販売ページ。
中国移動香港のデータ販売ページ。売りたい量と金額を自分で決められる

一方データを買いたいユーザーは、同じく2cmのWEBサイトで「データ購入」ページを開く。すると1GBあたりの売り値とその値段で売られるデータ量が一覧で表示される。購入時は自動的に一番安い料金のものをシステム側が選ぶので、間違って高い料金のデータを買ってしまうことはない。

中国移動香港の利用者は、月の途中でデータ利用が多すぎた時に一つ上の料金プランに変更することが可能だ。だが翌月にもとのプランに戻すのを忘れてしまった場合、余計な料金がかかってしまう。また2cmで売り出されている料金は上のプランにするよりも安上がりなため、プラン変更するよりもその都度追加分を買ったほうが得なケースが多い。

たとえば中国移動香港の4G料金の1GBデータ込みプランは168香港ドル。上の2.5GBデータ込プランは218香港ドルで、その差は50香港ドルだ。2cmを見てみると、1GBが最低22香港ドルで売りに出されている。つまり2GBで十分ならば、基本料金168+2cmで1GB購入22=合計190香港ドルで済むわけだ。

ちなみに売り側は高い値段で提示した場合、他のユーザーに買ってもらうことが難しくなる。一方最安値で出されているデータ数が少なければ、それより一つ上の料金で出しても売れる可能性が高くなる。オークション感覚で自分の不要データ分を売りに出すこともできるのである。

こちらは購入ページ。
こちらは購入ページ。売買どちらのページでも現在の販売値ごとのデータ提供量が出ている

日本や他国では毎月の余ったデータ利用分を家族や指定したユーザーに無償譲渡できるサービスが多い。しかし香港ではそもそも携帯電話の料金が非常に安い。そのため家族間で同じ通信事業者を利用する「家族割り」という概念も無い。自営業の父親はビジネスサービスに強い事業者に入り、証券会社勤務の母親は会社契約の携帯電話を使い、大学生の息子は若者向けプランが充実している事業者と契約。そして高校生の次女は自分の小遣いでプリペイド、といったケースも香港では一般的だ。元から料金が安いので「後から割引をする」といった必要が無いのである。

そのため余剰データ分は使われずに無駄になることが多い。翌月繰り越しを提供している事業者もあるが、そもそも無料データ利用分を余らすユーザーは、繰り越したところで翌月も余らせてしまうだろう。ならば余った分を販売できれば、その分は実質的に毎月の基本料金の割引にもなる。また他のユーザーもデータ利用分を手軽に追加できる。売り手にも買い手にもメリットのあるこのサービス、他の国でも導入するところが出てくるかもしれない。

料金の先払いで1GBずつ無料データの進呈サービスも提供

中国移動香港は他にも面白いサービスを提供している。2015年12月に行ったのが「料金先払いで無料データの進呈」だ。これは500香港ドル(約8000円)単位で料金を先払いすると、1GB/月の無料データがもらえるというものである。

同社のユーザーは500香港ドル、1000香港ドル、2000香港ドル、3000香港ドルのいずれかを12月中に先払いする。するとそれぞれ、1GB(2016年1月)、2GB(同年1月と2月1GBずつ)、4GB(同年1月から4月まで毎月1GBずつ)、6GB(同年1月から6月まで毎月1GBずつ)の無料データを獲得できる。先払いした分は毎月の基本料金の支払いにあてがわれるので、追加料金を払っているわけではない。

料金先払いで無料データをゲット。
料金先払いで無料データをゲット。喜んで先払いするユーザーが多いだろう

このようなサービスを提供したのは、顧客の料金未払いを防ぐためのようだ。中国移動香港は世界最大の加入者数(約7億人)を誇る、中国大陸の中国移動の香港の子会社だ。香港の人口は約700万人、同社は4社ある事業者の中で加入者数約200万人の三番手の事業者だ。以前は別の会社だったが中国移動に買収され、香港と中国のシームレスなサービスを提供している。たとえば毎月の無料データ利用分は香港と中国どちらでも利用できる。

とはいえ中国移動香港の前身の事業者は低料金を武器にしており、同社の加入者はARPが他社よりも低くプリペイド利用者も多い。また香港は日本のように毎月の料金の支払いは銀行自動引き落としが一般的ではなく、請求書を受けてから小切手払いも多い。例えば誤課金があった場合、自動引き落としでは支払い後にクレームするのは面倒だし返金まで時間もかかる。小切手払いなら問題があれば支払い前に解決することができるため、請求書を見てから払うという考えも一般的だ。

そのため毎月請求書を受け取り、支払期日ギリギリになってから料金を支払うユーザーも多い。特に低ARP客はその傾向が多いようで、中国移動香港の店舗窓口も、月末などは支払い客が長蛇の列を作っている。香港では支払期日が過ぎてしまっても携帯電話は利用できるが、期日を10日過ぎると回線は一時停止される。自分の携帯が使えなくなったら、それから料金を払いに行く、なんてユーザーも結構いるのだ。

未払い客への支払い催促はコストもかかる。そこで中国移動香港は、先払い客に無料データ利用分を提供することで料金未払いを防ごうとしているのだ。ユーザーにしてもどうせあとから料金を払うなら、先に払っておいて無料利用データ分を獲得したほうが得だろう。

料金支払いに並ぶ客の列が多い中国移動香港。
料金支払いに並ぶ客の列が多い中国移動香港。先払い客が増えればこれも減少する
なおここで獲得した無料データ分は、最初に紹介した他のユーザーへの販売はできない。とはいえ毎月の基本料金で1GBプランに加入しているユーザーが、その1GBを他のユーザーへ販売し、この先払いで入手した1GBを自分で使う、ということもできる。このあたり香港人は抜け目がないが、今回紹介した2つのサービスを組み合わせれば基本料金をさらに安く抑えることができるのである。

各国の通信事業者はいかにして収益を上げるかを常に考えている。中国移動香港は追加料金のかかる付加サービスを提供し一人の顧客からの収益を増やすのではなく、ユーザーが使いやすいサービスの提供で、他社からのMNP移転を含む、加入者数の増加を図り収益を上げようと考えているわけだ。顧客増に頭を悩ます日本のMVNOにとっても、これらのサービスは参考になるものかもしれない。

最新情報をチェックしよう!