2016年9月にベルリンで開催された家電とIT関連展示会「IFA2016」では多くのスマートウォッチが登場したが、そのほとんどがデザインを重視した製品だった。スマートウォッチは機能で売るにはまだ時期早々の製品であり、円形の文字盤を持った普通の腕時計デザインの製品開発に各社はフォーカスしているようだ。そのあたりは先日こちらのコラムで執筆させていただいた。
とはいえApple Watchのように、スクエアな形状の画面のほうが情報を表示するには有利である。また画面をタッチ操作するとなると、円形では指先を動かせる範囲が狭くなり、タッチしにくい。デザインを取るべきか、あるいはスマートウォッチとしての使いやすさを取るか、各メーカーの悩みはまだまだ続きそうだ。
ところがそんな悩みを一気に解決してしまうスマートウォッチが、中国のメーカーから登場しようとしている。WIDOが開発中のスマートウォッチは、アナログ時計の風貌をしながらも、スマートウォッチとしても使いやすい製品に仕上がっているのだ。その秘密は単純明快。なんと腕時計が両面仕上げになっており、片面がアナログ時計、もう片面がスマートウォッチになっているのだ。

使い方は単純明快で、時計として使う時はアナログ画面側だけを表に出しておけばよい。「今日は重要な連絡が多いので、スマートフォンの通知を逃したくない」と思った時は、腕時計本体部分をベルトからスライドさせて抜き出し、それを反転させて再びベルトにはめればよい。これによりスマートフォンの通知を受けたり、画面をタッチしてスマートウォッチとして操作することができるのである。
いちいち画面を反転させるのは面倒なようで、例えば電車に乗ってスマートフォンを操作している時は、スマートウォッチを使うことは無いだろう。そんな時はアナログ時計側にしておけば、ファッションとしての腕時計を楽しむことができる。そもそもスマートウォッチはスマートフォンのコンパニオンであり、スマートウォッチ単体で出来る機能はそう多くは無い。スマートウォッチがあればスマートフォンは不要、そうはならないのである。


また時計部分をスライドさせて取り外せるのであれば、ベルトの交換も簡単にできる。ベルトは専用品にはなってしまうが、工具も使わずその日の気分で家を出かける直前に自分の好きなベルトを取り付けることができるわけだ。腕時計として考えたときも、この機能は意外と悪くないのかもしれない。
現在、各社のスマートウォッチは背面側に心拍数計測用のセンサーを搭載している。また充電端子や無線充電のためのアンテナを内蔵しているものも多い。しかし心拍計を必要としているのは一部のユーザーだけだろうし、最近ではスマートフォンに心拍計を搭載した製品も増えている。またリストバンド型の活動量計なら1ヶ月以上も電池が持つものもあり、健康データの計測はそちらを使うという人もいるだろう。スマートウォッチに心拍計が無くとも、多くの人は困らないはずだ。
スマートウォッチで計測した心拍数や運動データを積極的に活用しようと考えた製品も登場しようとしている。Philipsのスマートウォッチは、活動量計としての機能をメインとした製品だ。他のスマートウォッチのようにスマートフォンからの通知を表示できるほか、歩数、睡眠状態、心拍数を計測できる。計測したデータはスマートフォンアプリで管理も可能だ。そしてそれに加え、毎月基本料金を払えば健康状態のアドバイスを医者やトレーナーから的確に受けることができる。「ここ数日運動していませんよ」とか「あと20キロメートル走れば目標の体重を維持できます」といった通知を受けることができるのだ。

スマートウォッチに心拍計などを搭載しても、ただ計測し、それをグラフで管理するだけではほとんどのユーザーが使わなくなってしまうだろう。Philipsの取り組みのように、取得データを使ったサービスの提供まで行えばユーザーは活用するだろうし、メーカー側も新しいビジネスを構築できる。スマートウォッチは年々機能が増えているが、その機能を使いたいと思わせるための仕組みがまだまだかけているのが実情だ。
WIDOの両面時計は高機能化とは逆の方向を向いた製品であり、「たまにスマートウォッチを使いたい」と考える人に向いた製品だ。とはいえ時計の切り替えのためにいちいち本体を抜き差しするのは面倒かもしれない。しかしWIDOはそこも考えており、すでに時計の画面を180度反転させることでアナログ時計とスマートウォッチ画面を切り替えできる製品を販売している。ただしこちらの製品は、スマートウォッチ側ではスマートフォンの通知を受けるだけであり、アプリの利用など高度なことは利用できない。

WIDOの両画面スマートウォッチが発表されたのは1年前。その後中国のクラウドファウンディングサービスで資金調達に成功しているが、現時点でもまだ製品化は行われていない。今の技術を考えれば製品化は難しくないはずなのだが、スマートウォッチ市場全体がまだまだ盛り上がっていない状況から、製品化が先送りされているのかもしれない。自分の好みや必要性に応じて切り替え可能なスマートウォッチ、ぜひとも製品化してほしいものである。