次から次へと生まれるIoTデバイスは我々の生活を便利なものにしてくれる。だが気が付けば、寝ている時以外の時間はスマートフォンの画面を見ていてばかり、そんな状況になってはいないだろうか。スマートフォンを取り出さなくても情報をチラ見できるデバイスとしてスマートウォッチが出てきたが、市場は停滞したままだ。結局スマートフォンを取り出したほうが手っ取り早く、得られる情報も多いということなのだろう。
とはいえスマートフォンさえ持っていれば、見知らぬ街へ行っても道を迷うことなく目的地にたどり着くことができるし、地元の美味しいレストランを教えてくれる。海外旅行に重たいガイドブックを持っていく時代は過去のものとなり、スマートフォンの電池が切れないようにモバイルバッテリーを用意することが旅の準備の常識になりつつある。
だがスマートフォン片手に旅行をしてみると、実は記憶がところどころ断片的になってしまう。それは歩きながらスマートフォンの画面に見入ってしまうためだ。「いいホテルに泊まり、美しい観光地を訪問したものの、街の中を歩いた記憶が一切ない」。せっかく旅行に出かけても、それは勿体ないというものだ。しかしスマートフォンの地図アプリが無ければ、街中を自由に歩くことも難しい。

「スマートフォンの画面を見ずに、街歩きを楽しむことができる」。日本のYEAAHが開発した「Compass Stone」は、そんな面白い体験を提供してくれるIoTデバイスだ。手のひらに収まる小型の石のような形をしたデバイスには、表面に12個のLEDライトが放射状に内蔵されている。このCompass Stoneを手に持てば、目的地まで迷うことなく歩くことができるというのだ。
使い方は簡単で、Compass Stoneのスマートフォンアプリで目的地の場所をセットする。するとCompass StoneのLEDライトの一つが点灯する。あとはスマートフォンをポケットやカバンの中に入れてしまえばよい。Compass Stoneを手に持って、ライトの光る方向に向かって歩いていけば目的地まで到着できるというわけなのだ。
もちろん道路はまっすぐではないだろうし、行く手には建物が立っているかもしれない。だがCompass Stoneは目的地への方向がずれていけば、自動的に別のライトが光り目的地の方向を自動的に修正してくれる。歩きながら途中で気になるお店を見つけたり、あるいはネコを見かけて追いかけてしまったとしても、Compass Stoneは常に目的地の正しい方向のLEDライトが光るため、方向を見失うことが無いのだ。

街を歩きながら、風景を眺め、気になる建物や風景を見かけたらスマートフォンで写真を撮る。そうして歩きながら、たまにCompass Stoneを見れば自分がどちらの方向に向かって歩けばいいかを常に導いてくれる。これがスマートフォンの地図アプリの場合だと、地図の東西南北がわからずどちらに歩き出していいか迷ってしまうこともあるだろう。また時たまGPSの場所がずれてしまい、自分の位置がどこなのかさえわからなくなってしまうこともある。
Compass Stoneは常に目的地の方向を教えてくれるが、途中のルートは教えてくれない。道に沿ってあるくなり、方角に向かって進むなり、自由に歩けばいいのだ。そうすることで、普段住んでいる町やよく行く場所でも、時には一度も通ったことも無い道を歩く、そんな新たな体験も提供してくれる。逆に言えば仕事のアポのため目的地に急ぐ場合に使う用途には向いていない。だがそんなときはそれこそスマートフォンの地図アプリを使えばいいだけのことだ。

YEAAHの代表取締役の森 圭司氏と実際に街を歩いてみたが、スマートフォンの画面に頼らず目的地へ向かってみると、たしかに街の中の風景が自然と目に入ってくる。途中で道を間違ってしまっても、Compass Stoneのライトが切り替わり正しい方向を教えてくれるので、道に迷うということもないのだ。石に導かれて歩く様は、テクノロジーの進化の中で人間がどんどん忘れてしまおうとしているアナログ的な感覚を呼び戻してくれる。
このように「歩くことの楽しみ」を教えてくれるCompass Stoneだが、イベント会場で使ったり、子供に持たせて親子で楽しむなど、様々な応用展開も出来るだろう。日本人らしい発想から生まれたデジタルとアナログを融合させたCompass Stone、2017年夏には製品化予定とのことである。
