アマゾンとグーグルが2分しているともいえる世界のスマートスピーカー市場。日本でもAmazon Echoの一般販売が3月末から始まった。当初はITリテラシーの高い層をターゲットにしていたスマートスピーカーだが、今や一般消費者にも広く使ってほしいとアマゾンは考えたのだろう。スピーカーと対話するだけでユーザーのビックデータを収集できるスマートスピーカーは、情報配信やECサービスの提供側にとってこれからなくてはならないものになる。スマートスピーカーを必要としているのは、実はユーザーよりも企業側かもしれない。
そのスマートスピーカーが中国でも今年はブレイクしそうだ。EC大手のJD.com(京東)が「DingDong」の名前で2016年から製品を投入し、その後はスマートフォン大手のシャオミが「小米AI音箱」、アリババが「天猫精霊」を出すなど、IT系大手企業が相次いで製品を投入している。検索大手バイドゥも、2017年に新たな「Raven」シリーズを出すなど中国のスマートスピーカー市場は急激な成長を始めている。

調査会社Gfkによると、中国のスマートスピーカーの販売台数は2016年が6万台、2017年が35万台と6倍に拡大し、2018年は120万台と推測されている。スマートスピーカーの製品数が増えていることと、価格の下落が普及を後押ししているとのこと。販売価格を見ると300-500元(約5000円‐8000円)で全体の7割を占めている。
2018年の成長は、これまで目立った動きをしていなかった大手家電メーカーの参入によるところが大きいかもしれない。中国人ならだれもが知っている、ハイアールとメイダが相次いでスマートスピーカー市場に本格参入をはじめたからだ。一家に一台はどちらかの家電が必ずあるといえるほどメジャーなこの2社は、IT系企業にユーザーデータを奪われまいと、スマート家電と絡めてスマートスピーカーの展開を始めようとしている。

家電メーカーの強みの1つが、スマートTVだ。中国ではもはや販売されているTVのほとんどがスマートTVになっている。IPTVが普及していない日本からは考えにくいだろうが、中国のTVはネットにつながる製品があたりまえだ。そもそもTVの視聴はIPTVが主流である。ハイアールもメイダもスマートTVを販売しているため、スマートスピーカーと接続してTVのコントロールが可能だ。しかもチャンネルの切り替えだけではなく「コメディ番組が見たい」といった、番組選択も可能になる。
スマートTVの販売時にスマートスピーカーを販促でつけたり、スマートスピーカー購入者にスマートTVを割引販売する、といったプロモーションを行えば、スマートスピーカーに興味をあまり示していなかった消費者も「では使ってみよう」と思うようになるだろう。家電メーカーのスマートスピーカーは、潜在ユーザーの発掘にもつながると考えられる。
ちなみに中国のスマートTVは、すでに音声コントロールに対応した製品が増えている。スマートスピーカーほど高機能ではないものの、ネット検索や番組検索程度のことはできる。スマートスピーカーをまだ販売していない家電メーカーは、スマートTVそのものをスマートスピーカー化させる動きを起こすかもしれない。

さて各社の競争が激しくなる中で、業界のトップリーダーであるJD.comはモニタ付きのスマートスピーカーを投入する。海外でもスマートスピーカーへのモニタ搭載が進んでいるが、中国でも進化の方向性は同じようだ。実はバイドゥの音声AIエンジンを使ったスマートスピーカーの中にはすでにモニタを搭載したロボット型の製品もある。
ニュースや天気予報なら音声での案内でも不自由しないが、地図やお店情報などの確認はディスプレイ表示に勝るものはない。JD.comの動きを受けて2018年は他社からもモニタ搭載型スマートスピーカーが次々と登場するだろう。前述したスマートTVのスマートスピーカー化も、ある意味ではモニタ付きスマートスピーカーへの進化とも言える。

そのバイドゥはロボットアーム型でメッシュ状のLEDライトを搭載する「Raven R」を発表している。LEDライト部分はドット表示のディスプレイのようで、簡単なアイコンなどを表示できる。受信したメッセージや情報に応じてアーム部分が稼働し、ロボットのような動きをするのだ。このスタイルの製品はまだ海外でもまだほかには無い。加速する中国のスマートスピーカー市場からは今後、このRaven Rのような全く新しい製品が生み出されてくるかもしれない。
