中国では今やシェア自転車がどの都市でも利用できる。1回あたり10円程度とわずかな金額で利用できるシェア自転車を使えばちょっとした距離の移動も歩く必要は無い。中国の地図アプリを使って場所検索をすると、「シェア自転車で駅まで5分、地下鉄10分、シェア自転車で3分」のように、自転車に乗ることを標準で道案内してくれる場合もある。サービス開始からわずか2年ちょっとで、シェア自転車は中国の生活になくてはならないものになっているのだ。
その中国初のシェア自転車が、海外展開を本格化させている。ofo、Mobikeの2社がヨーロッパやアジア各国へ進出を始めているのだ。ヨーロッパでは古くから各国でシェア自転車がサービスされているが、それら地元企業に交じってofoの黄色い自転車や、Mobikeのオレンジ色の自転車が街の中を自在に走り回っている。

シェア自転車サービスの基本構成は課金システムとアプリ、そして自転車をロックする鍵と、自転車の位置情報を発信するGPSで成り立っている。その中で最も重要なのが自転車の位置を把握するためのGPSだ。各国のシェア自転車の置き場を見ると、自転車が専用のスタンドに整然と整理されて並べられている。よく見るとスタンドと自転車はなにかしらの接点で接続されており、待機中は常に充電されているのだ。GPSとその情報を送るモデムの電力を賄うために、シェア自転車は常時充電しておく必要があった。
ところがofoもMobikeも充電するためのスタンドはいらない。道端に乗り捨てていいのである。そのため自転車の乗り捨て場所もどこでもよい(国や都市によって、乗り捨て禁止個所もある。日本は専用ポートに返却が必要)。街を歩いて自転車があればその場で乗って、目的地についたらそこで乗り捨てできる、この気軽に利用できるスタイルが世界各国の消費者に受けているのである。

ofoもMobikeもGPSの通信にNB-IoTを利用することで、実質的に電池交換や充電が不要なのだ。NB-IoTのサービスが各国で始まったことにより、中国と同じシステムをそのまま海外でも展開できるのである。どちらのサービスも当初はGSM方式の通信モデムを搭載していたが、普通の携帯電話とあまり変わらぬ消費電力であるため頻繁な充電が必要だった。しかしNB-IoTなら一般的に10年は電池交換が不要だ。シェア自転車の自転車本体に寿命が来ても、設置された鍵からはまだまだ電波が飛んでいるのである。
海外での料金体系は各国で物価が異なることから統一はされていない。Mobikeならばイギリスで0.5ポンド、日本で50円、そして本家中国では1元などだ(それぞれ30分)。そのため国ごとにアカウントを作ったり、その国の通貨で料金をチャージする必要があるように思われた。ところがアプリは世界共通であり、1つのアプリをいれ、どこかの国でアカウントを作れば、それを別の国で使うこともできるのだ。
筆者は実際に2018年3月にパリに行った際、ホテルの目の前にMobikeが置いてあるのを発見したので、スマートフォンのアプリを起動してみた。筆者のMobikeは中国でアカウントを作っているが、アプリではパリの地図が表示されそのまま自転車を使うことができたのである。料金はユーロだが、人民元に換算されチャージしている金額から引かれた。

このようにどこかの国でサービスを使い始めていれば、別の国でもそのまま使えるのである。普段日常的にシェア自転車を使っている消費者が、世界各国に旅行や出張で行った際、自国にいる感覚で自転車に乗ることができるというわけだ。
もちろん日本の一部都市でサービスが始まったMobikeのアカウントを作っておけば、中国やヨーロッパでそのまま利用することができる。Mobikeにしろofoにしろ、中国でアカウントを作る際の最大の難点が料金の課金。クレジットカードが使えず、モバイルペイメントと紐づけて人民元をチャージする必要がある。ところが日本のアカウントならばクレジットカードで課金可能だ。その課金したお金をつかい、中国でそのままシェア自転車が乗れるのである。中国へよく行く人は、日本でシェア自転車に乗らなくとも、中国用に日本のアカウントを作っておくといいだろう。
中国国内でどんなに素晴らしいサービスが展開されていても、「所詮はほかの国のこと」と興味がわかない人も多いだろう。しかしこのように中国のシェア自転車が世界中で使えると聞けば話は変わるのではないだろうか?中国のシェアサービスは国内でのサービス内容の向上だけではなく、これからは世界各国へのグローバル展開を始めるステージに入ろうとしている。モノだけではなくサービスも中国発のものが世界中で利用される、そんな時代が目前まで迫っているのだ。