スマートフォンの値段も気が付けば10万円を超えるものが珍しくなくなった。「格安スマホ」と呼ばれるSIMフリーの低価格モデルが日本でも増えているが、せっかく数年間使うものならばなるべくいいものを、と考える人も多いだろう。とはいえ10万円のスマートフォンを買ったとしても、その機能を全部使いこなすのは難しい。SNSと検索程度しかしない、なんて人にとって、実は最新のハイエンドスマートフォンはオーバースペックなのだ。
とはいえ2万円程度のスマートフォンでは動きもやや不安だし、使っているうちに不満も出てくるかもしれない。2年程度ならまだしも、3年、4年と使い続けるのであれば、ハイエンドな製品を買っておいたほうが安心かもしれない。
ところがそんな高価なスマートフォンを買わずとも、ある程度の日常的なことが十分できる携帯電話が登場している。価格は1万円ちょっと。これでGoogle検索もできるしSNSの利用も可能だ。スマートフォンのライトユーザーにも向いている製品なのである。
それは「スーパーフィーチャーフォン」と一部で呼ばれる、スマートフォンライクなOSを搭載した携帯電話である。日本でも単機能なストレートタイプの3Gフィーチャーフォンはいくつか販売されている。通話とショートメッセージに機能を絞っており、カメラもない。最低限のコミュニケーションを図るのであれば、単機能携帯電話でもなんとかなるだろう。とはいえ今やSNS全盛時代であり、通話ですらメッセンジャーの音声通話機能を使う人が多い。またグループメッセージなど、SNSでなくては利用できないサービスもある。今の時代、通話とメッセージだけの単機能携帯電話は時代遅れになりつつある。

ではスーパーフィーチャーフォンとはどんな端末なのだろうか。それはスマートフォンほど高機能ではないものの、アプリを入れたり高速なデータ通信にも対応し、従来型の携帯電話ではできないことのできる端末のことだ。OSとしてはKaiOSが有名で、少ないメモリでも十分に動く。メニュー画面はスマートフォンのようにアイコンが並ぶので操作もしやすい。タッチパネル非対応のスーパーフィーチャーフォンでも、十字方向キーを使って快適に操作が可能だ。1万円程度の激安スマートフォンよりも動きははるかにサクサクしている。
KaiOS搭載のスーパーフィーチャーフォンで有名なのは、今年(2018年)2月に発表されたNokia 8110 4Gだ。通称「バナナフォン」と呼ばれる、ノキアの往年のヒットモデルのリバイバル版で、2.4インチ240×320ピクセルのディスプレーを搭載する。ぱっと見はただの携帯電話だが(黄色いボディーカラーと湾曲した本体デザインそしてスライド式の10キーカバーは「普通の」携帯電話には見えないが)、通信方式は4Gに対応し、Wi-Fiも搭載。ブラウザを使ってWEBの閲覧もスムーズだ。

KaiOS搭載のNokia 8110 4Gの特徴は、まずフィーチャーフォンなのに4Gに対応していること。通話もVoLTEを利用可能で高品質な音声通話ができる。またWi-Fiを使いテザリング機能をONにしてほかのスマートフォンやPC用の4Gモデムとして使うこともできる。またGoogleマップなどグーグルのサービスも一部利用できる。そのため一般的なスマートフォンでできることも、ある程度操作が可能。フィーチャーフォンにして性能は高い。
また最新のKaiOSではアプリの追加も可能になっている。FacebookやTwitterアプリが登場予定で、こうなるとスーパーフィーチャーフォンは簡易的なスマートとフォンとして十分使えるだろう。

実はグーグルはこのKaiOSへの出資を行った。グーグルとしても世界中に検索サービスや将来の音声AIスピーカーの拡大を目指したいところだろうが、インドやアフリカなどの新興国ではまだまだフィーチャーフォンの人気が高い。既存のフィーチャーフォンではグーグルサービスを使うことはほとんどできず、新興国ではサービスの分断が起きてしまうのだ。しかしKaiOSを搭載したフィーチャーフォンを新興国で販売してもらえれば、スマートフォン向けに提供しているサービスをすべての消費者に使ってもらうことができる。
IDCの調査によると、2017年のインドのフィーチャーフォン出荷量は1億6400万台で、2016年の1億4000万台よりも増加している。スマートフォンの出荷量も年々増えているものの、2017年は1億2400万台とフィーチャーフォンより少ないのだ。スマートフォンの低価格化が進んだとはいえ、フィーチャーフォンならさらに安い価格で買うことができる。しかも通話とショートメッセージで困らない、という消費者がまだまだ多いのだろう。

そのインドでシェア1番のフィーチャーフォンが、通信事業者のリライアンス・ジオが販売する「Jio Phone」だ。価格は本体が実質無料。契約時に1500ルピー(約2600円)をデポジットとして預ける。毎月の料金は153ルピー(約260円)でネットと通話が使い放題だ。インドではここまで低価格な製品・料金に飛びつく消費者がかなり多いのだ。
このJio Phoneが実はKaiOSを採用しているのである。こんなに低料金でありながらも、グーグルサービスを使えるとなればスマートフォンユーザーとのコミュニケーションも敷居がなくなるし、地図検索などフィーチャーフォンでは難しいことも楽にこなすことができる。グーグルがKaiOS投資を決めたのも、おそらくJio Phoneの爆発的なヒットにその影響力を感じたからだろう。インドでの2017年の販売台数は1000万台以上に達している。
一方、アメリカではプリペイドユーザー向けにKaiOS搭載のフィーチャーフォンが販売されている。アルカテルの「Quickflip」がAT&TやMVNOから販売されている。大手家電量販手のBestBuyでは、オンラインストアの端末選択肢に「KaiOS」をわざわざカテゴリとして作ってあり、ほかのフィーチャーフォンよりも高性能であることをアピールしている。

Quickflipのアメリカでの価格はSIMロックがあるものの4000円から1万円程度。前述したNokia 8110 4Gも海外での価格は1万円ちょっとだ。この価格でSNSや検索ができるなら、スマートフォンがなくてもいい、と考える消費者が先進国でも増えるかもしれない。
KaiOS以外にも、少ないメモリで動作しスーパーフィーチャーフォンを実現するものとしてSailfish OSが存在する。こちらも同OS搭載のフィーチャーフォンが登場する予定だ。
最近は「スマホ疲れ」すなわち24時間SNSを使った他人とのコミュニケーションにつかれている人も増えている。とはいえ通話とメッセージしかできないフィーチャーフォンでは、いざという時の連絡が取れず困ってしまう。しかしスーパーフィーチャーフォンであれば、SNSの通知を切って通話専用機にしつつ、必要があればSNSの利用もできる。SNS疲れしている人にも最適だ。

もちろんこれらスーパーフィーチャーフォンは画面が狭いうえに、カメラも200万画素と物足りないスペックだ。しかしカメラは一眼レフを持ち、電子書籍用にアマゾンのタブレットを持つ、なんて機能の使い分けをするのもいいのかもしれない。スマートフォン1台で何でもするのではなく、ベーシックな携帯電話にほかのデバイスを付け加えるというわけだ。
フィーチャーフォンの利用者はこれからも完全にゼロになることはないだろう。日本でも折り畳み式で10キーを備えた「ガラホ」などと呼ばれるフィーチャーフォンスタイルのスマートフォンも出てきているが、電池の持ちが悪く多機能すぎる。簡単操作で動きが軽く、電池の持ちもよく価格も安いスーパーフィーチャーフォンは、既存のフィーチャーフォンユーザーの代替端末として最適な製品になるはずだ。今後サムスンやノキアなど、新興国に強い大手メーカーの参入も増えるかもしれない。そして先進国へもスーパーフィーチャーフォンが上陸する時代がやってくるに違いないだろう。
