世界のスマートフォン市場のけん引役でもあるアップルのiPhone。毎年9月に発表される新型iPhoneに対抗するように、ライバルメーカーたちは8月下旬から新製品を次々と投入するのが毎年の常だった。ところが今年、2018年の中国市場はその状況が大きく変わった。もはや各社はアップルの動きに同調せず、独自に新製品を次々と送り出しているのだ。
まずはここ数年の中国メーカーの動きの中で、急成長したOPPOとVivoを見てみよう。両者は春と秋に大型新製品を投入し、お互いがフロントカメラを強化したモデルを送り出すことで販売数を急増させた。OPPOは「R9」「R9 Plus」のようにディスプレイサイズの大小モデルを用意し、iPhoneと同じような端末展開を行っていた。

一方世界シェアでもサムスンとアップルに次ぐ販売量を誇るファーウェイは、春に「P」シリーズ、秋に「Mate」シリーズを出すことで、春は対サムスン、秋は対アップルという対抗製品を出してきたのだ。ところが2016年の秋に発売されたのは「nova」というモデルだった。novaはフロントカメラを強化した製品で、ライバルはiPhoneではなくOPPO、Vivoだったのだ。そしてその年の秋のフラッグシップモデル「Mate 9」が発表されたのは11月で、iPhoneの新製品登場から約1か月半もあとのことだった。
毎年最もスマートフォンが売れるのはクリスマスシーズンである10月から12月、すなわち第4四半期だ。中国でも11月11日は独身の日として大々的なセールが行われ、スマートフォンも数多く売れる。ここで販売数を伸ばすためには、これまではiPhoneに対抗する製品をぶつけ、製品の知名度を上げることが得策だったのだ。
しかしファーウェイはアップルと直接の競合を避け、11月11日に合わせるように新製品を発表した。それは新製品に対しての大きな自信があったからなのだ。

2017年もファーウェイは秋のフラッグシップモデル「Mate 10」を10月16日に発表している。AIプロセッサの内蔵は世界初となるチップセット「Kirin 970」を採用し、カメラもライカに切り替えた意欲作だ。鳴り物入りで発表された「iPhone X」から1か月も後に発表会を行いながら、このMate 10は年末年始に中国で爆発的に売れまくった。
2017年の秋を見ると、OPPOも夏モデルを7月に出した後、9月には新製品を投入せずに、11月になって「R11s」を発表。OPPO初の18:9のワイドサイズディスプレイを採用したモデルで、iPhone X対抗ともいえる製品だ。だが発表はファーウェイ同様に独身の日をにらんで行われたのである。自社製品を売るためには、iPhone対抗モデルという他社に頼った戦略を行っている場合ではなくなっているのだ。
その傾向がはっきりと見えたのが2018年の秋冬市場だった。アップルは「iPhone XS」「iPhone XR」という強力な2モデルを9月に発表したが、中国上位メーカーはそれに対抗する製品を出す動きは見られなかった。10月になるとファーウェイが「Mate 20」シリーズを発表。3つのカメラを1つのフラッシュを正方形にまとめた背面デザインはiPhoneとは全く異なるデザインを採用しており、そこには「iPhoneみたいな」という形容詞は一切あてはまらない。
しかもMate 20シリーズは4つものラインナップを発表。iPhoneが「大画面、小画面、スペックダウン」の3モデル展開を行ったのに対し、Mate 20シリーズはすべてのモデルに超広角カメラを搭載したうえで、「Mate 20 Pro」は4000万画素カメラを搭載、「Mate 20 X」は7.2インチの特大画面、「Mate 20 RS」はポルシェデザインとコラボしたブランド高級モデルと、iPhone2018年モデルとは全く異なる製品展開を行っている。

中でもMate 20 Xは比較になんと任天堂の「Switch」、つまりポータブルゲーム機をライバルとして製品説明が行われたのだ。ターゲットユーザーは全く異なるが、「iPhone XS Maxより大きい」といった説明は一切なく、市場の成長がこれから見込めるモバイルゲーム市場向けの製品としてアピールを行ったのだ。それだけではなくスタイラスペンが使えることで、サムスンの「Galaxy Note」シリーズへの対抗もちらりと見せた。
10月末にはシャオミがスライド式ボディーの「Mi MiX 3」を発表すると、すぐさまファーウェイのサブブランド、Honorから同じ機構の「Magic 2」が発表。どちらも世界初のスライド機構であり、独身の日に向けてメーカーのブランド力をアピールする目的も兼ねた新製品だった。この月にはNubia(ZTEの関連企業)から世界初の両面カラーディスプレイ端末「Nubia X」も登場している。これら3機種にはiPhoneの面影は一切見られず、すべてが中国のライバルメーカーに対抗する製品として仕上がっている。

そして12月になると、VivoがNubia対抗のデュアルディスプレイスマートフォン「NEX Dual Display」を発表。さらには11月にディスプレイ内にカメラを内蔵したノッチレスディスプレイ端末の登場を示唆したサムスンに対抗すべく、ファーウェイが「Nova 4」として製品を発表。サムスンの同ディスプレイ搭載モデル「Galaxy A8s」の発表の数時間前にNova 4は発表され、「世界初」の栄冠を手にした。ファーウェイはさらに12月26日、クリスマスも終わった年末に同じディスプレイを搭載した「Honor V20」も発表している。
こうしてみると、中国メーカーは各社が競い合って新製品を次々と送り出していることがわかる。そしてこれが中国メーカーの躍進を支えているのだ。古くはサムスンとLGが競い合いながら携帯電話・スマートフォンを開発し、販売数を増加させていった。ファーウェイも当初はZTEと大きなライバル関係だった。そして近年はOPPOとVivoがライバルとして戦い、お互いの製品の魅力を高めていった。
アップルはそもそも製品のエコシステムから他社とは全く異なる戦略を持っている。アップルが売るのは製品ではなくライフスタイルだ。しかもブランドを大事に育て、ユーザーの満足度を常に考えた製品展開を行っている。OSをグーグル頼りにしている時点でAndroid陣営の他社がアップルに打ち勝つのは難しい。

アップルと同じ製品を目指したという中国のスマーティザンは、2018年になって経営が悪化し製品展開の変更を余儀なくされた。アップルが好調の時はアップル対抗製品も売れただろう。しかしファーウェイがアップルを抜き世界シェア2位に躍り出た2018年、もはやアップルを見て新製品開発を行う意味は薄れている。
毎年右肩上がりに成長を続けた中国市場も、2017年から成長に陰りが出てきており、中国大手メーカーはインドや新興国など中国以外にも販路を広げている。それでも年間4億台を超える中国市場は無視できない大きさだ。中国での販売数を維持しつつ、海外展開でさらなる成長を得るためには、同じ中国国内のメーカーに対抗できる製品を送り出す必要があるのである。
中国ではファーウェイ(華為)、シャオミ(小米)、OPPO、Vivo、この4社をまとめて「華米OV」と呼ぶことも多くなった。2019年は華米OVの競争がより激しさを増し、大々的な新製品ばかりではなく、カラバリや仕様変更などマイナーチェンジモデルの投入を増やすなど、ほぼ毎月毎週のように新製品発表会が開催されるだろう。それにより中小メーカーが窮地に陥るのはもちろんのこと、サムスン、アップルもじわじわと影響を受けることは必須だ。果たしてどんな新製品が出てくるのか、2019年の華米OVに注目したい。