RoyoleのFlexPai

スマートフォンの見どころがいっぱいだったCES2019|山根康宏のワールドモバイルレポート

1月頭にラスベガスで開催された「CES2019」は世界最大のIT関連展示会である。ここ数年は自動車メーカーの出展も増えており、「IT」のカバーする分野は以前にもまして大きく広がっている。家電メーカー各社のブースにはお揃いの「グーグルアシスタントジャケット」を羽織ったグーグルスタッフが常駐しており、「OK、Google」の掛け声で家電の操作を行っていた。TVやエアコンもいまや音声操作する時代なのだ。

スマートフォンの新製品は翌月2月にバルセロナで行われる「MWC」で各社から意欲的な製品が登場する。そのためCESではすでに発表済みな製品が展示されるにとどまり、目立った発表会が行われるケースも少ない。
ところが今年のCES2019ではすでに発表済みのスマートフォンに大きな注目が集まっていた。

CES2019のあらゆる出展物の中で最も話題となったのはRoyoleの「FlexPai」だった。
2018年11月にサムスンに先駆けて発表された、世界初の折り曲げ可能なディスプレイ=フォルダブルディスプレイを搭載したスマートフォンだ。開けば7.8インチのタブレット、閉じれば4.3インチ両面スマートフォンとなるFlexPaiは大型展示会への出展が初めてだったこともあり、CES2019関連の記事では取り上げないところがないほどだった。

RoyoleのFlexPai
RoyoleのFlexPai

Royoleは2012年創業の新興企業で、薄膜ディスプレイの開発に注力している。Tシャツや帽子にフレキシブルディスプレイを縫い込んだウェアラブルデバイスも発売済みだが、奇をてらった製品だけにあまり大きな話題にはならなかった。
しかしFlexPaiは数年前からサムスンがコンセプトを発表していた自由に曲げられるディスプレイを搭載した世界初のスマートフォンということから、CES2019では主役ともいえるほど注目を集める存在になったのだ。RoyoleはCESに初出展ながらも展示会場の入り口そばにブースを構えており、来場者が会期中に途切れる様子もないほどだった。

もう1つの注目スマートフォンはNubiaの「Nubia X」だ。Nubia Xはスマートフォンの裏面もディスプレイにしてしまった世界初の「両画面カラーディスプレイスマートフォン」である。
これまでも両画面スマートフォンは「Yota Phone」などいくつかの製品があったものの、裏面はモノクロディスプレイでスマートフォンとして使うには難点があった。過去の両画面スマートフォンは片面が電子ペーパーディスプレイで、裏面を電子ブックリーダーとして使うことを考えた製品だったのだ。
しかしNubia Xは裏面もカラーディスプレイとしたことで、裏返してもスマートフォンとして使えるだけではなく、裏面に時計や通知を表示するなどセカンドディスプレイとして使うこともできる。

両面がカラーディスプレイのNubia X
両面がカラーディスプレイのNubia X

NubiaもCESは初出展だ。Nubiaは以前はZTEの子会社であり、いまは出資比率が下がったため関連会社となっている。ZTEは2018年にアメリカ総務省から制裁を受けたことからアメリカ市場のみならず全世界でスマートフォンの販売に大きな影響を受け、その結果CESへの出展は見合わせている。
一方Nubiaは中国中心に製品展開を行っていたが、Nubia Xをひっさげ海外市場への展開を狙っている。

ZTEのスマートフォンは2017年発表の折りたたみ式端末「AXON M」以外に特徴的な製品も少なく、国際的な競争力も弱まっている。NubiaはいわばZTEと入れ替わるような格好でグローバル市場を狙おうとしているのだろう。

Nubiaはゲームに特化したゲーミングスマートフォン「Red Magic Mars」も展示していた。Snapdragon 845にRAM10GB/ROM256GBモデルも備えスペックは十分、本体側面のソフトキーや背面の1680万色に光るLEDライトなどゲーム操作やビジュアルエフェクトにも優れた製品だ。
Nubia X同様、まだ中国語圏でしか販売されていない端末とあってこちらも来場者からの注目は高かった。

NubiaのRed Magic Marsはゲーミングスマートフォン
NubiaのRed Magic Marsはゲーミングスマートフォン

ゲーミングスマートフォンとしてグローバル市場に出回っているのはRazerの「Razer Phone」くらいだが、この分野の製品はまだ知名度も低い。Nubia以外にシャオミやASUSなどがゲーミングスマートフォンを製品化しているが、いずれはゲーム関係の展示会にもこれらのスマートフォンが出展される時代が来るかもしれない。
ゲーミングスマートフォンはこれから注目度を高めそうだ。

Razerはゲーミング端末のみでスマートフォン市場に参入している
Razerはゲーミング端末のみでスマートフォン市場に参入している

さて2017年9月に登場した「iPhone X」以降、ディスプレイの上部にフロントカメラや顔認証センサーを集めた「ノッチディスプレイ」を搭載したスマートフォンがあっという間に広がっていった。ディスプレイ上部の欠き取り部分も今では違和感なく消費者に受け入れられている。
ところがこの「ノッチ」を無くす動きが2018年後半から急激に進んでいる。

ハイセンスの「U30」はノッチの代わりに、ディスプレイの左上にフロントカメラの穴をあけた「パンチホールディスプレイ」を採用している。これによりぱっと見はフロント部分全体がディスプレイに見える、全画面化を実現しているのだ。
ノッチがないため、ディスプレイを保護するガラスも特殊な加工がいらなくなるし、なによりもデザインはすっきりして見える。

ハイセンスはパンチホールディスプレイを採用
ハイセンスはパンチホールディスプレイを採用

TVメーカーとしても大手のTCLは、子会社のディスプレイメーカーによるパンチホールディスプレイを出展。スマートフォンのディスプレイを自社で賄っているのはサムスンやLGくらいであり、一般的にはディスプレイメーカーから部材を調達する。
TCLがCESでパンチホールディスプレイを展示したということは、すでに多くのスマートフォンメーカーからの注文や依頼を受けており、2019年はこれが主流になると見込んでいるのだろう。

TCLのパンチホールディスプレイ
TCLのパンチホールディスプレイ

そのTCLはブラックベリーブランドのスマートフォンや、アルカテルブランドの端末を手掛けている。だが同社のブースではどちらの製品も存在感は薄く、ミッドレンジや低価格モデルに注力していた同社の製品開発戦略は裏目に出ている。
やはりハイエンドスマートフォンが無ければメーカー全体のブランドイメージも高まらないのだ。QWERTYキーボードを備えたブラックベリー端末もニッチな存在にとどまっている。

ブラックベリー人気が今一つなのは、QWERTYキーボードユーザーが激減しているからだろう。だがそのQWERTYキーボード端末であえて勝負に出ている新興メーカーもある。
Planet Computersがクラウドファンディングで資金調達に成功し、現在製造を行っている「Cosmo Communicator」はノートPC代わりにも使える本格的な大型キーボードを備えたスマートフォンだ。

開けばキーボード端末、閉じても使えるCosmo Communicator
開けばキーボード端末、閉じても使えるCosmo Communicator

胸ポケットにもすっぽりと入る大きさのCosmo Communicatorは開くと6インチのディスプレイと1つ1つが独立したQWERTYキーボードが現れる。
それぞれのキーは断面が台形をしており、左右のキーとのすき間もあるため誤タッチも少なく、机の上に置いたり手に持ったりして快適なタイピングが行える。そして閉じた状態でも、上蓋に内蔵された2インチのディスプレイを使って通話など簡単な操作が行える。

Planet Computersは2017年にもほぼ同じスタイルの「Gemini PDA」を発表しており、Cosmo Communicatorはそれからわずか1年で上位モデルとして登場した。ニッチなターゲット向けながらも中途半端なキーボード製品ではなく、実用性をしっかり備えた端末を作り上げることで新たなユーザー層の獲得にも成功しているのだ。
日本人にもファンは多く、日本語キーボードモデルも存在するほどだ。

そして最新技術の「5G」に対応したスマートフォンも数多く展示されていた。サムスン、OPPO、Vivo、シャオミとスマートフォン販売台数で世界上位を占める各社がこぞって5G対応端末を展示していたのだ。
それぞれショーケースの中の展示で実働状態は不明だが、ブーススタッフの説明では5Gモデムを実際に搭載し、動作可能なモデルを展示しているとのこと。

5Gスマートフォンがいよいよ登場。サムスンもGalaxyベースのモデルを展示
5Gスマートフォンがいよいよ登場。サムスンもGalaxyベースのモデルを展示

クアルコムは同社の5Gモデム「X50」を実際に搭載したスマートフォンのリファレンスモデルを展示し、5Gの通信速度で4Kビデオのストリーミング受信デモを行っていた。
なお5Gでは28GHzや38GHzといった高い周波数帯、通称「ミリ波」の電波を使う。ミリ波は遠くへ飛ぶが建物の陰に回り込みにくく、スマートフォンでは利用しにくい周波数帯だ。クアルコムはそのミリ波の感度を高める専用アンテナも展示し、5Gスマートフォンの感度問題への対応技術もアピールしていた。

クアルコムの5Gリファレンスモデム。ミリ波対応アンテナも4つ内蔵している
クアルコムの5Gリファレンスモデム。ミリ波対応アンテナも4つ内蔵している

このようにCES2019を振り返ると最新トレンドや次世代技術を搭載したスマートフォンが数多く出展されており、MWCを前にスマートフォンの最新状況をチェックすることもできたのだ。
中にはスマートフォンの背面にキャノンのEFレンズマントを搭載し、デジカメレンズが装着できるYonguno「YN450」のような、飛び道具ともいえる機能を搭載したスマートフォンも展示されていたが、CES2019の巨大な会場の中から筆者は同社ブースへたどり着く時間がなかった。

CESはメーカーの出展数も世界最大規模であり、スマートフォン視点で会場を回るだけでもまだまだ掘り出し物や未知なる製品が見つかっただろう。
大手メーカーの華やかな新製品発表会を見るのも海外大型展示会の醍醐味だが、行ってみるまで何か見つかるかわからない、CESはそんな宝探しができる展示会でもあるのだ。

RoyoleのFlexPai
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