「最近のスマートフォンは同じようなデザインのものが増えたなあ」と思っている人も多いでしょう。iPhoneが2007年に登場してから、各メーカーはタッチパネル操作を主体にしたスマートフォンの開発に注力していきました。一時は人気のあったキーボード付き端末もいまではブラックベリーが数機種残っているくらいです。
ところがiPhoneが登場する以前は、様々な形の携帯電話やスマートフォンがありました。
携帯電話やスマートフォンのデザインはどう変わっていったのか、まもなく平成が終わり新時代を迎える今、過去を振り返りこれからの将来を展望してみたいと思います。

平成の幕開けとともに携帯電話がデジタル化
携帯電話は「携帯する」「電話」、つまり通話するための通信機器です。初期の携帯電話は通信方式がアナログでした。そのため通話の品質はあまりよくないものだったのです。
やがて1990年ころから世界各国でデジタル方式に変わっていきます。それはちょうど昭和から平成に変わったころでした。ヨーロッパやアジアでは共通の「GSM」方式が採用されたため、国を超えて同じ端末を使うことも可能になりました。日本はここで「PDC」方式を採用したため、その後しばらく独自の道を歩むことになります。

当初は巨大だった携帯電話の大きさも年々小型化されていきます。折り畳み式にしたりアンテナをなくすなど様々なデザインの変更がされていきました。
また携帯電話どうしでメッセージをやり取りするために、数字キーは電話番号を打つだけではなく文字の入力デバイスとしても使われたのです。そのため数字キーを押しやすい形状や配置することは必須でした。
その後日本でiモードが始まり、携帯電話は情報収集やエンタメツールへと変わっていきます。ディスプレイはモノクロからカラーに、さらにサイズも大きくなっていきました。そしてこの動きは海外にも広がっていきます。写真メールが日本で普及し始めると海外端末にもカメラが搭載されていきました。

日本のケータイが世界一だった平成10年代
日本の携帯電話は次々と性能が高まっていき、大きいディスプレイを持ち運ぶため折り畳み式デザインが主流となっていきました。高画質なカメラの搭載により日常の写真はデジカメを使わなくても済むほどになっていったのです。
携帯キャリアが端末をほぼ無償で提供し、後から通信料金で回収するビジネスモデルも成功し日本はどんどん「ガラパゴス」化が進んでいきました。
海外ではiモード対抗としてWAPが登場しましたが、エントリーモデルとハイエンドモデルの間の端末の機能差が激しく、日本のようにすべての携帯電話で同じサービスを受けることは難しい時代が続きます。
携帯電話は手のひらサイズまでコンパクト化され、むしろ持ちやすい大きさが好まれたりしました。日本とは逆の動きです。
やがて海外でもスマートフォンが登場します。2002年頃の動きでした。今のスマートフォンと比べれば非力でしたが、当時としては大型の2インチディスプレイにアイコンが並び、好きなアプリを入れたりネットにつなぐこともできたのです。今と違うのはSNSがなかったためメールやショートメッセージ(SMS)がコミュニケーションの主流だったことや、動画を流せるほど通信回線が早くなかったため、「マルチメディアコンテンツ」といえば写真でした。

この黎明期のスマートフォン時代に世界市場を席捲したのはノキアでした。毎月のように新製品を投入していきます。3Gサービスの開始で通信速度も劇的に早くなり、スマートフォンを使って仕事することも実用的となり、各社からキーボード付きスマートフォンもたくさん登場しました。
勢いのあるノキアは今では考えつかないような形状のスマートフォンも数多くだしていきます。
「閉じると携帯電話、数字キー部分を持ち上げると画面が中央にくるフルキーボードスタイル」「ディスプレイの裏側、本体の下半分が両サイドにスライドする」「閉じると大柄な携帯電話スタイル、横から開くと大画面とフルキーボードが現れる」などなど。
ノキアが世界の携帯電話のデザインにも大きな影響を与えていきます。

iPhoneの登場で世界が一変した平成20年代
ノキアは一時世界シェア40%を握る圧倒的な強さを見せていました。ところが2007年にiPhoneが発表されると、時代の流れは急変します。そして平成20年代に入るとiPhoneは毎年のように改良されたモデルを出していき、気が付けば先進国では一番人気の製品となっていったのです。
「少数のモデルですべてのユーザーをカバーする」iPhoneの製品展開は、スマートフォンのデザインを「平板」スタイルへと導いていきます。

iPhoneに対抗すべく、グーグルはAndroid OSをひっさげてスマートフォン市場に参入しました。その1機種目「T-Mobile G1」(HTC Dream)はディスプレイ部分が回転するように上にずれ、キーボードが現れるという複雑なギミックを持った製品だったのです。おそらく世界初のAndroidスマートフォンを買う層はギークやアーリーアダプターなので、ただのiPhoneもどきでは満足しないだろうという考えがあったのでしょう。
その後はHTC、そしてサムスンが次々とAndroidスマートフォンを出していきます。参入メーカーも増えていき、気が付けば世界のスマートフォンのほとんどはAndroidが占めるようになっていきます。
画一的な端末が増える一方、スマートフォンの種数が増えれば様々なデザインの端末も出てくるものです。
キーボード付きスマートフォンはブラックベリースタイルの縦型だけではなく、ディスプレイの下のキーボードが横にスライドして出来る横型も登場します。
しかしスマートフォンの画面サイズが大型化し、タッチパネルの感度も高くなっていくと画面上に表示されたソフトキーボードでも十分な高速入力ができるようになります。スマートフォンの大型化とともにキーボード付きスマートフォンが衰退してしまったわけです。

一方ではスマートフォンとカメラを融合させ、背面に大型レンズを搭載した製品もいくつか出てきました。
その中でもサムスンの「Galaxy Camera」などは見た目はコンパクトデジタルカメラ、しかしモニター部分を見るとAndroidが走っているという「デジカメスマホ」でした。スマートフォンでより高画質な写真を撮りたいユーザーのためにこのようなスマートフォンもいくつか登場しましたが、カメラセンサーの小型化と高画質化が急激に進み、またこの手のレンズを供給するメーカーがコンパクトデジタルカメラ市場の衰退とともになくなってしまいます。
今や普通のデザインのスマートフォンでも4800万画素といった超高画質なカメラを搭載するに至っています。

このようにスマートフォンの性能が上がるにつれ、ハードウェアで後付けが必要だった機能もスマートフォン本体に内蔵されるようになっていきました。
いまではスマートフォンにアタッチメントを合体させることのできる製品もモトローラの「Z」シリーズくらいになっています。スマートフォン1台あればなんでもできる時代になっています。
平成30年、スマートフォンデザインに変革が起きる
ところが2018年、つまり平成が30年を迎えるとスマートフォンのデザインに大きな変化が生まれます。しかも他社製品に右に倣えというものだけではなく、各メーカーが独自にアイディアを生み出したことで、次々と新しいデザインの製品が生まれていったのです。
最初の変化はフロントカメラ周りのデザインです。2017年にiPhone Xが画面上部に切り欠きのある「ノッチ」デザインを採用したところ、あっという間にその流行はほかのメーカーにも広がっていきました。
しかし2018年になると「ノッチ廃止」とばかりに、フロントカメラですら隠すデザインの製品が次々と登場したのです。そしてそんな変化を生み出したのは中国メーカーでした。
OPPOとVivoはフロントカメラを沈胴式にして、使わないときは本体の上から内部に収納できるデザインを採用。シャオミのMi MiX 3とファーウェイのサブブランド、HonorのMagic 2は本体を上下スライド式として下半分側にフロントカメラを搭載しました。
これによりいずれのモデルも普段はスマートフォンの前面がすべてディスプレイという「全画面化」に成功しています。

全画面化の利点はディスプレイの無駄な空間がなくなるため、コンテンツもより広いエリアで表示できます。SNSのタイムラインもノッチのあるディスプレイより1行は多く表示できます。また動画も最大画面サイズで見ることができます。
2017年ころから流行の兆しを見せた「Tiktok」のように、スマートフォンを縦画面にして動画を流すサービスを使ってみると、全画面ディスプレイのほうがより没入感を得られることがわかります。
一方でSNSにアップするセルフィー需要は以前よりも増しており、フロントカメラはなくてはならない存在です。そこで「必要な時だけ」「高画質なフロントカメラを引き出す」デザインの端末が増えてきているのです。
ファーウェイやサムスンが投入したディスプレイの片隅にフロントカメラを埋め込んだデザインも、同様の効果が得られます。パンチホールディスプレイとも呼ばれるこのデザインも、スマートフォンのフロント面上部の無駄な空間をなくしました。
さらには両画面スマートフォンも本格的な製品が登場します。Nubiaの「Nubia X」はスマートフォンの裏面にもカラーディスプレイを搭載することで、通知表示だけではなく動くスクリーンセーバーなどを表示して「動きのある背面」を演出します。両面スマートフォンはそれまで裏面がモノクロ画面でしたが、カラー化したことで表示できる情報の質が高まったのです。
そしてサムスンが数年かけて製品化を図っていた「折り曲がるディスプレイ」を搭載したスマートフォン「FlexPai」がRoyoleから登場。開けばタブレットサイズで映画や読書も楽しめ、閉じれば片手操作できるスマートフォンへと早変わりします。

5Gの開始がスマートフォンデザインを変える
2019年になると本体から一切のボタンや端子をなくしたスマートフォンも発表されます。完全な1枚の板となったスマートフォンは、防水設計も楽になります。またケースの開発も自由度が増します。
Meizuがクラウドファンディングで出資を募った「Zero」は残念ながら資金調達に失敗しましたが、次世代のスマートフォンのデザインとして今後どこかのメーカーから製品化されることは間違いないでしょう。
そして2月にはサムスンとファーウェイが相次いで折り曲がるディスプレイのスマートフォンを発表。同月にスペイン・バルセロナで開催された世界最大の通信関連イベント「MWC19」ではTCLが同じ形状のコンセプトモデルを展示。マイナーメーカー製のEnergizer「Power Max P8100S」もモックアップを出展示するなど、曲がるディスプレイの搭載がトレンドと感じられるほどでした。

この30年間の携帯電話やスマートフォンデザインの変革を見ると、消費者の端末の使い方の変化に合わせるように様々なデザインのモデルが登場していきました。時にはハードウェアの追加で高性能化を図ったりしたものの、スマートフォンの使いやすさを考えれば片手で持てるサイズ・重量の製品にまとめるのが正しい方向性です。
しかし5Gがこれから始まると、ギガビットの高速通信を利用できることから動画ですらダウンロードする必要はなく、見たくなったらいつでもストリーミングで視聴することが可能になります。電車の中で移動中ならより大きい画面で見たいものでしょう。
スマートフォンとは別にわざわざタブレットを持たなくとも、折り曲がるディスプレイのスマートフォンなら1台で「迫力の大画面」「片手で持てるコンパクトサイズ」を両立できます。
また5Gには遅延も低い特性があります。つまり反応速度が高まるのです。これとエッジコンピューティング、クラウドを組み合わせれば、高度な3Dゲームもスマートフォン本体にアプリやデータを保存しておくことなく、リモート側に置くことで快適なプレイが可能になります。そうなればやはりカフェでコーヒーを飲みながら大画面で対戦ゲームをしたい、と思うようになるでしょう。この分野でも折り曲げできるディスプレイのスマートフォンは有用なのです。
もちろんすべてのスマートフォンが、画面が折り曲がるデザインになることはないでしょう。しかし少なくともより快適にコンテンツを楽しみたいのであれば、少しでも大きいディスプレイが好まれるようになります。フロントカメラを隠すデザインもこれから各社が採用するでしょうし、新しいアイディアが生まれてくるかもしれません。
これから10年のスマートフォン市場は、5Gの開始でコンテンツ体験が大きく変わります。また身の回りのあらゆるものが遅延なくストレスを感じず相互につながるようになります。スマートウォッチの電池が切れたらスマートフォンに重ねるだけで充電できる、なんて機能も実現されていますから、そうなるとスマートウォッチとセットで本体デザインを考えた製品がでてくることも考えられます。

次の10年はハードウェアの進化だけではなく、アプリやサービス、コンテンツに合わせてスマートフォンのデザインも変わっていくことでしょう。5G時代ならではの新しいサービス、それがどんなものになるかはわかりません。スマートフォンメーカーには使いやすさだけではなく、持つこと・使うことでワクワクできるような製品の開発にいそしんでほしいものです。
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