スマホカメラの歴史に残る、セルフィースマホメーカー「Meitu」|山根康宏のワールドモバイルレポート

スマホカメラの歴史に残る、セルフィースマホメーカー「Meitu」|山根康宏のワールドモバイルレポート

スマートフォンのカメラの指標に、デジカメの性能指標だった「DxOMark」が使われるようになるなど、いまやスマートフォンの機能で最も気になるのがカメラの性能です。
気が付けばトリプルカメラは当たり前となり、ボケを利かせるために被写界深度測定用のサブカメラを取り付けるモデルも数多く出回っています。

いまや背面カメラはトリプル仕様も当たり前になりつつある
いまや背面カメラはトリプル仕様も当たり前になりつつある

一方ではここ数年、フロントカメラもその性能を急激に高めていきました。スマートフォン黎明期のころはフロントカメラすらない端末も多く、あってもTV電話で相手の顔が見れればいい、という程度のものもありました。通信回線が3Gのころは、3GのTV電話品質も悪く、それで十分だったのです。

しかしやがて、SNSの普及と共にアジアを中心に自撮り、すなわちセルフィーを撮影してシェアする動きが活発となっていきます。特に女性は自分を理想通りに写してアップしたいもの。BeautyPlusなどの美顔加工アプリが爆発的に人気になるなど、フロントカメラは特定のマーケットで毎日使われるようになっていきました。
その流行に合わせるように中国のOPPOやVivoはフロントカメラ性能を年々引き上げていったのです。

フロントカメラをアピールしていたころのOPPOの広告
フロントカメラをアピールしていたころのOPPOの広告

しかし2018年ころから、セルフィーに新しい概念が加わり始めます。それまではいかに肌を「自然に」「美しく」見せることを各社は競い合っていました。ところが美顔加工が一定のレベルまで達すると、差別化も難しくなります。

そこで次に各社が取り組んだのがボケを利かせたポートレート写真。背面の複数カメラを組み合わせて、人物が浮き上がるような写真を自在に撮れる機能が加わります。そしてそれは当然のことながらフロントカメラにも搭載されるようになっていくのです。サムスンのGalaxy S10+のように、フロントがデュアルカメラのモデルも増えています。

フロントカメラもデュアルの時代になった(Galaxy S10+)
フロントカメラもデュアルの時代になった(Galaxy S10+)

さてセルフィー需要の高まりとともに成長したスマートフォンメーカーがありました。中国のMeitu(美図)です。
iPhoneなどでも人気の前述したアプリBeautyPlusなどはこのMeituのもの。もともとはアプリからスタートした企業ですが、スマートフォン製造の敷居が低くなると共に、自社でスマートフォンの製造に乗り出しました。それが2013年5月に発表された「Meitu Kiss」です。

セルフィーに特化したスマートフォンを送り出したMeitu
セルフィーに特化したスマートフォンを送り出したMeitu

ちなみに、中国の新興スマートフォンメーカーであるシャオミ(小米)が最初のスマートフォンを発表したのは2011年でした。シャオミはもともと、HTCやサムスンのAndroid OSをより使いやすくするためのカスタムROMを作っていた会社でした。シャオミのカスタムROM「MIUI」はマニアの間で大人気となります。
やがてスマートフォンを自社で作ってそのROMを搭載すれば売れるだろうと、スマートフォン市場に参入。結果は目論見通りの大ヒットとなりました。

シャオミは改変OSからスマートフォンへ鞍替えしたメーカーだ
シャオミは改変OSからスマートフォンへ鞍替えしたメーカーだ

シャオミのスマートフォン市場参入も、スマートフォンの製造が「パーツを集めれば誰でもできる」状況になっていたからです。Meituもシャオミに倣ってスマートフォンを手掛けたといえます。

Meituのスマートフォンは当時としては珍しく、フロントカメラが800万画素と高画質でした。他社を見てもこれだけの高画質なフロントカメラを搭載したモデルは中国メーカーに2社しかなく、無名な新規メーカーが「世界最高フロントカメラ画質」で市場に参入したのは驚きに値するものでした。
また画像処理エンジンとして富士通(当時)のイメージングプロセッサ、Milbeautが搭載されました。これも贅沢な仕様です。

Meituは美顔スマートフォン市場を切り開いた
Meituは美顔スマートフォン市場を切り開いた

翌2014年4月には、後継モデル「Meitu 2」を発表します。このモデルはただのセルフィーカメラ強化モデルではなく、ファッション端末という位置づけでもありました。本体デザインは他社にはない縦長の六角形で、持つだけでMeituのスマートフォンとわかる特徴になりました。
なおこのデザインは中国で人気だったカシオのセルフィーカメラ「TR」シリーズをインスパイアしたものでしょう。つまりそのころ、六角形のデバイスを持っている中国の女性たちはこぞってセルフィーを撮っていたのです。

カシオのTRシリーズは六角形のボディーが特徴
カシオのTRシリーズは六角形のボディーが特徴

Meitu 2はフロント、メインどちらも1300万画素カメラを搭載し、発売前の予約数はなんと1000万台を突破しました。セルフィーカメラの需要があることを証明したMeituは、その後次々とモデル展開を行っていきます。

メインラインを「M」シリーズとし、背面を革風に仕上げた「V」シリーズも投入。2つのラインナップとマイナーチェンジモデルを半年おきに投入し、さらにはドラえもんなど日本のキャラクターをあしらったモデルも展開するなど、Meituのファンを増やしていきます。

六角形ボディーのMeitu 2
六角形ボディーのMeitu 2

さてMeituの成功に合わせるように、OPPO、Vivoもセルフィー機能を強化していきますが、両社の美顔機能の性能差は1世代以上の差があったと筆者は記憶しています。Meituはフロントカメラに特化した端末を作り続けていましたから当然でしょう。年々その差は縮まりつつありましたが、2019年の今でもMeituの最新モデルのフロントカメラ性能は他社を大きく上回っています。

セルフィーのボケ写真もMeituが他社に負けじと先駆けて投入していました。しかし気が付けば各社ともに「美顔」「ボケ」が当たり前になると、Meituのスマートフォンは差別化が難しくなります。

Meituは美顔アプリも主力ビジネスでしたがマネタイズはうまくいかず、収益のほとんどをスマートフォンに頼っていました。2016年12月には香港で上場し、約5000億円を集めましたが、これで新たにECへの展開を図る予定でした。美顔アプリ、セルフィースマートフォンから化粧品やファッション製品の販売へ誘導し、新たな収益の柱を立てる計画だったのです。

しかしスマートフォン市場の競争激化からMeituの端末も販売数は伸び悩み、またECも大手2社(TmallとJD.com)が市場の約9割を握っているところへ、後から参入する余地はなかったと思われます。美顔機器にも進出しましたが、そちらもすでに多数の家電メーカーが製品を出しているだけに勝算は無かったかもしれません。

2018年にはシャオミと提携し、シャオミにスマートフォン事業を譲渡。女性ユーザーの少ないシャオミがMeituブランドのスマートフォンを出せるようになれば、シャオミにとっても大きなメリットになります。

そして2019年3月にはMeituによる最後のスマートフォン、V7の製造が終了。これでMeituの歴史は一度幕を閉じることになります。

Meituの最新モデル、V7はMeitu最後の製品になった
Meituの最新モデル、V7はMeitu最後の製品になった

ここ数年は中国を中心にショートムービーサービスのTicTokなどが人気になっています。セルフィーからショートムービーへ、と若い世代のコミュニケーション手段も変わりつつあります。実はMeituも美拍(Meipai)というライブ配信サービスを持っていたのですが、後からやってきたショートムービーサービスに人気を奪われていきました。
SNSの流行の移り変わりが、Meituというスマートフォンの立ち位置を微妙なものにしていったのでした。

今後シャオミがMeituブランドのスマートフォンを出すかどうかはわかりません。シャオミは低価格モデルのRedMi(紅米)を分社化し、2ブランド戦略を進める予定です。

一歩先が読めないスマートフォン市場。しかしMeituの存在がスマートフォンのフロントカメラ性能を高めたのは事実であり、今後全く新しいアプローチでフロントカメラを生かす製品としてよみがえってほしいものです。

この記事が気に入ったら
いいね ! をお願いします

Twitter で

山根康宏のワールドモバイルレポートカテゴリの最新記事