スマートフォンのカメラ競争は中国メーカー同士が激しい争いを行っている

次々登場する高画質ズームカメラスマホ、新たなサービス展開に期待|山根康宏のワールドモバイルレポート

スマートフォンのカメラの高性能化はいまもまだ続いている。すでにコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)はスマートフォンにその市場を食われてしまい、観光地へ行っても風景や記念写真を撮影するのに使われる「カメラ」はスマートフォンにほぼ置き変わっている。

スマートフォンのカメラ画質はすでにコンデジを上回っているが、撮影してすぐにSNSでシェアすることを考えると写真撮影にスマートフォンを使わない理由は一つもなくなってしまう。いまや写真はリアルタイムにシェアする時代なのだ。

ちなみにCIPAによると世界のデジカメの出荷台数は2018年が1940万台。2017年は2500万台で前年までの減少が下げ止まったものの再び下落している。

観光地でも記念撮影はスマートフォンを使うのが当たり前だ
観光地でも記念撮影はスマートフォンを使うのが当たり前だ

とはいえスマートフォンのカメラにも弱点がある。中でもズーム・望遠は弱く、遠くを撮影する用途には適していない。鉄道写真や野鳥の撮影などには、超望遠レンズを取り付けた1眼レフカメラに勝るものはないのである。
デジカメ全体の出荷台数は年々下がっているものの、それがゼロになることは無く、これからもプロユースを中心に高級・高性能デジカメは生き残り続けるだろう。

ところがスマートフォンの弱点だったカメラの望遠領域もついに克服される時代になってしまった。ファーウェイとOPPOが相次いで採用した「ペリスコープレンズ」が、スマートフォンの薄い本体内に高倍率ズームレンズの搭載を可能にしたのだ。
ペリスコープとは潜水艦の潜望鏡の意味でもあり、長い鏡胴の先に90度映像を回転させるプリズムを取り付けた構造になっている。スマートフォンのペリスコープレンズも同様で、本体内に横向きにレンズが並んでいるのだ。

ペリスコープレンズの構造(ファーウェイP30 Pro)
ペリスコープレンズの構造(ファーウェイP30 Pro)

ファーウェイの「P30 Pro」は5倍、OPPOの「Reno 10x Zoom」と「Reno 5G」は8倍のズームレンズを搭載している。どちらもデジタルズームと組み合わせたハイブリッドズームでは10倍が可能だ。従来のスマートフォンではせいぜい数倍程度のズームしか実現できず、10倍ともなればエッジが目立つ記録用の写真しか撮影できなかった。しかしファーウェイとOPPOのペリスコープレンズは10倍でも十分美しい写真を撮影できるのだ。

日本でも発売になったOPPO Reno 10x Zoom
日本でも発売になったOPPO Reno 10x Zoom

たとえばOPPO Reno 10x Zoomで上海の有名な東方テレビタワーを撮影してみた。標準で全体を収めるのもいいが、10倍にきりかえるとここまで拡大できる。

Reno 10x Zoomを使った標準(左)と10倍ズーム(右)
Reno 10x Zoomを使った標準(左)と10倍ズーム(右)

今までの感覚であれば、スマートフォンで遠くのものを写そうとは思わなかっただろう。しかし画面からワンタッチで10倍ズームに切り替えるだけで、ここまで寄った撮影ができるのである。動く被写体の撮影は難しいだろうが、風景写真ならば手持ちでも十分これくらいの絵が撮れる。
「旅行に行くし、望遠撮影をしたいからデジカメも持っていこう」と思っていた人も、これならもうスマートフォンだけで済ませられるかもしれない。

ファーウェイとOPPO以外の動きを見ると、シャオミがペリスコープレンズの特許を出すなど、中国メーカーがこぞって高倍率レンズのカメラを搭載する動きを進めていることがわかる。これに対してアップルの2019年iPhoneは超広角レンズを含むトリプルカメラとなる予定で、中国メーカーより周回遅れとなっている。

スマートフォンのカメラに関しては中国メーカーが市場をけん引している、というよりも、中国メーカー同士の競争が市場の中で際立って抜きんでているのだ。

スマートフォンのカメラ競争は中国メーカー同士が激しい争いを行っている
スマートフォンのカメラ競争は中国メーカー同士が激しい争いを行っている

さてスマートフォンで望遠撮影が可能になるとどうなるだろうか。スマートフォンの利用用途が拡大することは当然のことだろう。これまで撮影できなかったものを手軽に写せるようになるとなれば、スマートフォンでカメラを使う機会もさらに増えるはずだ。特に旅行時のスマートフォンの撮影は今まで以上に進むだろう。
その結果デジカメを使っていた人の「デジカメ離れ」も加速化しそうだ。

さらにはスマートフォンを落とさないようにするためのストラップ付きケースや、スマートフォン背面に貼り付ける指輪型の落下防止リングの売れ行きも伸びるだろう。タフな仕様にも耐えうるハードケースも出てきそうだ。スマートフォンのカメラの望遠領域が拡大するだけで、アクセサリ業界にも新製品開発の刺激を与えそうだ。

また望遠写真を使う新しいサービスが生まれるかもしれない。近年中国などで主流の、ライブストリーミング配信で投げ銭による収益を得るサービスなどは、スマートフォンのフロントカメラ性能が上がったことから実現したサービスだ。フロントカメラがメインカメラとそん色ないカメラ画質になったことで、自分の姿をライブで流しファンをつかむことができるようになったのである。
ショートムービーサービスのTikTokも、フロントカメラで自分の動画をきれいに撮影できるようになったから生まれたといえる。

フロントカメラの画質向上が自分で語るライブ配信サービスを加速化させた
フロントカメラの画質向上が自分で語るライブ配信サービスを加速化させた

ではメインカメラを使った望遠側の写真を使うサービスはどのようなものが生まれるのだろうか。例えば美しい風景写真をスライドショーのように流し、そこにBGMをつけた「環境ムービー」のようなものを投稿しあう、なんて動きが生まれるかもしれない。
インスタグラムなら身近なものを美しく写した「インスタ映え」な写真や動画が人気だが、10倍以上の望遠レンズを使った写真はインスタグラムにはまだほとんど投稿されていない。

インスタグラム以外のサービスで、望遠写真を使った新しいサービスが始まれば、今度は逆に1眼レフと超望遠ズームレンズをあえて購入してより美しい風景を撮影する、なんて動きも起きるかもしれない。
意外なことに、デジカメのライバルになる望遠カメラスマートフォンが、逆に望遠撮影の魅力を引き出し、デジカメの新規購入者を増やすかもしれないのだ。

今の時代はハードウェアが単体で完結するのではなく、WEB・ネットを通してあらゆる情報や価値観が共有される時代だ。その共有のためには使うハードウェアは何でもよく、「使いやすいこと」が一番重要となる。
高画質ズームレンズ搭載スマートフォンの登場は、今までには無い新しいサービスを生み出す可能性を秘めているのである。

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