ハードウェアとソフトウェア、2つの進化に挑戦するファーウェイMate 30|山根康宏のワールドモバイルレポート

ハードウェアとソフトウェア、2つの進化に挑戦するファーウェイMate 30|山根康宏のワールドモバイルレポート

2019年9月19日に新製品発表会を行ったファーウェイMate 30シリーズは翌9月20日に販売が始まった「iPhone 11」に対して優位性を持つだけではなく、未来への新たな挑戦を高々と打ち上げた製品だ。

ファーウェイが発表したMate 30シリーズ
ファーウェイが発表したMate 30シリーズ

Mate 30シリーズには6.53インチディスプレイの「Mate 30 Pro」、6.62インチディスプレイの「Mate 30」の2種類があり、それぞれに5G NR方式に対応した5Gバージョンも存在する。さらには例年のポルシェデザインとコラボレーションした5G対応の特別モデル「Mate 30 RS Porsche Design」も販売される。5G対応はもはや当たり前といわんばかりに、今回の発表会でも5Gの性能が大きくアピールされた。

たとえば「iPhone 11」シリーズは5Gに対応しない。5Gのまだ始まっていない日本などでは「5Gスマートフォンはまだ無くてもいい」という声も聞かれる。しかし一度でも5Gを体験してみると、もう4Gにもどることはできないだろう。アメリカでは各都市で5Gがはじまっており、それらの都市で最新のiPhoneで5Gが使えないのは残念としか言いようがない。また8月に発売になったサムスンの「Galaxy Note10+5G」も5G対応スマートフォンだが、5G性能はMate 30シリーズが勝っている。それに加えMate 30シリーズはiPhone 11同様にWi-Fi 6にも対応。現時点で最高速のワイヤレス通信に対応しているのだ。

Mate 30シリーズの5G対応状況。サムスンGalaxy Note10+ 5Gを上回る
Mate 30シリーズの5G対応状況。サムスンGalaxy Note10+ 5Gを上回る

しかもMate 30シリーズの採用する5GモデムはNSA(ノンスタンドアローン)とSA(スタンドアローン)の両方式に対応。NSAは4Gネットワークの上に5Gを構築する現在の方法で、他社の5GスマートフォンもNSAのみに対応する。一方SAは5Gのみで構築されるネットワークのため、超高速・超低遅延・同時多接続といった5Gのパフォーマンスを最大限生かすことができる。まだSAのみで構築された商用5Gネットワークは無いものの、今後のインフラ側のアップグレードに対応できるわけだ。

Mate 30シリーズの心臓部分、チップセットは「Kirin 990」を初めて搭載し、AI機能の高速化や全体の省電力化がすすめられている。つまり「パワフルなのに電気を食わない」という優れたチップセットなのだ。さらにイメージプロセッサも高速化されており、複数の動く人物を背景から切り取って、別の背景に張り付ける、なんて動画処理もリアルタイムでできるのである。

Mate 30シリーズの心臓といえるKirin 990
Mate 30シリーズの心臓といえるKirin 990

カメラそのものもセンサーサイズが大型化されたことでより暗いシーンでの撮影に強くなった。さらにはフロントカメラは肌の表面を流れる血流を判断することもできるため、特殊なセンサー不要でカメラを使うだけで心拍数の測定もできる。とにかくMate 30シリーズのハードウェアはもはやiPhoneでは追いつけないほどの高性能化がすすんでいる。

現在、iPhone 11のカメラ性能について高い評価が出回っているが、そのほとんどはすでにファーウェイが1年以上前に実現した機能でもある。ナイトモード、超広角レンズ、フロントカメラの高画質化などは、ファーウェイのスマートフォンユーザーにとっては当たり前のものだろう。

現在スマートフォンの販売台数・出荷台数で世界2位のファーウェイ、ここまでパワフルな新製品を送り込めば、トップのサムスンとの距離を大きく縮めることが可能になるだろう。ところが事はそう簡単に行きそうにないのだ。

ファーウェイのリチャード・ユーCEOは自信を見せるが、大きなウィークポイントがある
ファーウェイのリチャード・ユーCEOは自信を見せるが、大きなウィークポイントがある

スマートフォンにはOSが搭載され、その上で様々なアプリが動いている。ファーウェイが採用しているのはAndroid OSだ。Android OSそのものはどのメーカーも開発元であるグーグルに利用料を払わず自由に使うことができる。しかしAndroid OS上で動くグーグルサービスの利用は許可が必要だ。たとえば中国国内で販売されているAndroidスマートフォンにはグーグルサービスが乗っていない。

ファーウェイは中国メーカーであるが、スマートフォンは全世界(厳密にはアメリカではほぼ販売数はゼロだ)で販売されている。もちろんグーグルと協業しながら最新のAndroid OSを搭載し、それを使いやすくするためのユーザーインターフェース「EMUI」を自社開発している。日本でファーウェイのスマートフォンを買っても、ソニーのXperiaと使い勝手は変わらない。

ファーウェイのスマートフォンはAndroid OSの上にEMUIユーザーインターフェースが乗っている
ファーウェイのスマートフォンはAndroid OSの上にEMUIユーザーインターフェースが乗っている

ところがMate 30シリーズは、最新のAndroid OS 10を搭載しながら、グーグルのサービスは非搭載となった。すなわち中国で販売されている製品と同じ状態でグローバルにも販売されるのである。これはもちろん、米中貿易摩擦の影響を受けたものだ。

グーグルのサービスは「GMS」(Google Mobile Service)とよばれる。Mate 30シリーズはこのGMSを搭載せず、代わりにファーウェイのアプリケーションエコシスエムである「HMS」(Huawei Mobile Serivice)を搭載している。アプリ画面を見ると普通のスマートフォンで見慣れたグーグル関連のアプリアイコンは見当たらず、アプリストアも「AppGallery」という名前のものが搭載されている。

アカウント設定を見てもGoogleがないことからGMS非対応であることがわかる
アカウント設定を見てもGoogleがないことからGMS非対応であることがわかる

つまりMate 30シリーズは、ファーウェイのアプリストアからのアプリしかインストールできないのである。とはいえファーウェイのアプリストアに参加しているアプリメーカーは多くはない。中国国内ではほとんどのアプリが対応しているが、海外でメジャーなSNS系のアプリは今のところ非対応だ。

ファーウェイはHMSへの参加企業数を増やすために、これから10億ドルもの資金を提供する予定だ。スマートフォンのアプリといえばアップルの「App Store」かグーグルの「Google Play」が事実上の標準であり、アマゾンのアプリストアなど他社のストアは利用者数も登録アプリの数も圧倒的な差をつけられている。ファーウェイはいわばアマゾンのような形で新たなアプリストアを構築し、グーグル抜きでもユーザーが快適に使えるスマートフォンを実現しようと目論んでいるのである。

これは新たなOSを構築するよりは容易なことだろう。だが「第三のOS」ともてはやされた新たなOSがアプリの数を増やすことに失敗し、アップルとグーグルの前に敗退してきた。Firefox、Ubuntu、Tizenなどの新興勢力のみならず、マイクロソフトとノキアが組んだWindows Phoneですら市場からの撤退を余儀なくされた。

ファーウェイも同じ困難の道を歩むだろうということに誰も異論をはさまないだろう。しかしファーウェイの状況は過去のOSたちとは状況が大きく異なっている。

まずファーウェイは世界2位のスマートフォンメーカーであり、2018年は2億台以上のスマートフォンを出荷している。世界のスマートフォンの10%以上がファーウェイのスマートフォンなのだ。特に新興国でのシェアはより高く、ファーウェイのスマートフォンを使っているユーザーの総数はかなりの数に上がる。またファーウェイはすでに中国でグーグル抜きのスマートフォンを展開しており、アプリストアの運営も含めたノウハウを持っている。つまり全くのゼロからことを始めようとしているのではなく、ある程度の基盤を持ったうえで自らのエコシステムを構築しようとしているのだ。

Mate30のAppGallery。中国のメジャーアプリはほぼ完全対応している
Mate30のAppGallery。中国のメジャーアプリはほぼ完全対応している

スマートフォンのアプリは、以前であればスマートフォンをより便利に使うためのユーティリティー系が多かった。しかし今ではWEBサービスを使うためのアプリが主流だ。「LINEと検索と地図だけ使えればいい」というユーザーも意外に多く、必須アプリさえHMSに揃えることができれば、ファーウェイにも勝機はあるだろう。

一方では昨今盛り上がりをみせるゲームアプリをどれだけ揃えられるかも大きなカギとなるだろう。モバイルゲームは他のアプリと比べてユーザーからの課金が期待でき、アプリビジネスを成功させるためにははずせない分野の製品だ。

Mate 30の発売は2か月以内程度、年内にはヨーロッパ市場に登場するはずだ。果たしてどこまでアプリが用意されるのか、大きな期待がかけられている。

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