
2019年11月1日、中国で5Gサービスが開始された。これまで中国は3G、4Gの開始で他国より大きな遅れを取ったが、5Gでは日本など先進各国に先駆けトップ集団でのサービスインとなった。携帯電話加入総数約16億を誇る中国が、最新の通信技術で世界をけん引する日がやってきたのだ。
中国の5Gは中国移動(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)、中国電信(チャイナテレコム)の既存3社に加え、新たに中国広電(チャイナブロードキャスティングネットワーク)が免許を取得した。今回5Gを開始したのは既存3社で、サービスインと同時に主要都市を中心にカバレッジを広げている。

3Gや4Gではネットワークや端末の準備を待たずにサービスを始めたことから消費者に混乱を招いたこともあったが、5Gでは主要都市の繁華街をほぼカバーしたことに加え、スマートフォンも大手メーカー数社が製品を投入しており5Gの利用に不自由することは無さそうだ。とはいえ屋内や地下など5Gエリアであってもカバーされていない場所はまだ多い。5Gのフル体験はしばらくは屋外を中心にしたものになるだろう。
5Gスマートフォンはファーウェイ、ZTE、Vivoが5Gサービスに先駆けて端末を発売し、サムスンやシャオミの製品も出そろった。中国移動(チャイナモバイル)は自社ブランドの5Gスマートフォンも提供、複数モデルを展開するメーカーもあるなど多彩な製品から選ぶことができる。

このようにネットワークのカバレッジや端末のラインナップは3Gや4Gを開始した時よりも充実しており、非5Gカバレッジエリアでも4Gでそれなりの速度が利用できるため既存の4G利用者が5Gへ移行する際の障壁はかなり少ない。とはいえ5Gの利用をためらう消費者もまだ多そうだ。
たとえば通信料金は3社ほぼ横並びで、最低プランが128元(約2,000円)/月でデータ利用分が30GB、無料通話が500分となる。日本に比べれば十分安く、4Gの料金もそう変わらない。またデータ利用が多いプランは4Gよりも割安だ。とはいえ4Gには低利用者向けに100元以下のプランもあるため、4Gより高価な5Gのスマートフォンを買い、なおかつ100元以上を払う余裕のある消費者にまずは5Gの利用は限られるだろう。
ただし中国移動(チャイナモバイル)一社で約9億4,000万人もの加入者を有しているので、その1割が5Gに移行しただけでも約1億人となる。中国が世界一の5Gユーザーを誇る国になるのはあっという間だろう。中国の人口の多さがわかるというものだ。

一方5Gならではのサービスはまだ充実していないのが実情である。これは5Gで先行する韓国やアメリカも同様であり、高速・大容量・低遅延という5Gの特性を生かせるサービスは今のところ4K/8Kビデオや複数カメラからのマルチビデオ配信といった程度だ。5Gスマートフォンを使って8Kビデオを受信し、それをTVに出力して高解像度な映像を楽しむ、といった使い方もまだまだ現実的ではない。少なくともスマートフォンとTVが自動で接続するくらい、シームレスに連携できなければこの用途の利用は進みそうもない。5Gの普及には何かしらのキラーサービスが求められている。

その一つとして期待されているのがスポーツ中継だ。中国では2022年に北京で冬季オリンピックが開催される。公式スポンサーの中国聯通(チャイナユニコム)はオムニビューといった5Gならではの放送が展開される予定だ。2018年の韓国・ピョンチャン冬季オリンピックでは韓国のキャリア、KTが5Gを使った様々なスポーツ中継を行ったが、端末がサムスン製の施策タブレット機しかなく利用できる人は限られていた。しかし2022年冬季オリンピックでは多くの消費者が5Gスマートフォンを持っているだろうから、家の中に限らず外出先でも白熱した試合中継を楽しむことができるようになっているだろう。
「5Gは便利」「5Gは楽しい」あと2年後には誰もがそう思うようになっているはずだ。

ところで現在の5Gサービスは5Gとはいうものの、コアネットワーク部分は4Gを使うNSA(Non Stand Alone)方式となっている。そのため基地局からスマートフォンまでは5Gで繋がりながらも、その大本は4G回線となっており5Gのメリットを生かしきれない。
5Gの完全単独なSA(Stand Alone)方式へは今後ゆるやかに移行される予定だが、中国で販売される5Gスマートフォンは今後すべてのものがNSAだけではなくSAにも対応することになっており、新しいネットワークへの対応も早い段階で行われる。「真の5G」といわれる5G SAネットワークへの拡充でも、中国は他国を一歩リードすることになるだろう。
海外に目を向ければ、米中貿易摩擦の影響を受けファーウェイとZTEの5Gインフラ導入をキャンセルする動きもある。通信インフラ市場でシェアだけではなく技術力も高い2社のビジネスは今後大きな影響を受けるだろうが、海外に出られない分、この2社は中国国内に注力することになるだろう。そしてその結果、中国の5G技術力がより高まり他国では追いつけないほど市場をリードする存在になるかもしれない。中国の5Gの動向はこれから目が離せないモノになるのだ。