ルワンダの子どもたち

IchigoDyhook(イチゴダイフク)開発秘話―プログラミング言語「BASIC(ベーシック)」を子どもたちにー|上松恵理子のモバイル教育事情

IchogoDyhook

これが新商品の「IchigoDyhook」。イチゴダイフクと呼ぶが苺大福ではない。
IchigoDyhookはOSを起動するのにインターネットも必要ない。BASIC(ベーシック)でプログラミングを学ぶ小学生のために開発された商品である。
持ってみると軽くて、なんだか小学校の頃に戻って、算数のお道具箱をもらった時のようにワクワクする。

IchigoDyhook開発のきっかけとなったものは何か、この商品の開発者である松田さんと、販売元 株式会社アイ・オー・データ機器(注1)の土肥さんにインタビューした。

そもそも、松田さんと株式会社アイ・オー・データ機器で、“IchigoJam(イチゴジャム)”と“Raspberry Pi(ラズベリーパイ)”の教育への取り組みをスタートしたのだったが、初めて体験するプログラミングにどの小学生も目をキラキラさせ、すごい反響だった。
プログラミング教育には色々な要素が絡んでいるため、アイ・オー・データ機器の会長の細野さんと「これは2社でやっていてはダメだ」という想いで一致。そして、もっと大きな取り組みにしたいということで、日本の最前線で活動している人を集める会を開催した、ということだった。

ちなみに筆者も第1回からこの会に毎回呼ばれている。はじめはアカデミックな文教の方も多かったが、今はICTを中心にプログラミングに特化した会となっている。

IchigoJAM BASICプログラミングの取り組みは松田さんがPCNというNPO団体を作って早くから取り組まれており、段ボール製の教材を手作りして全国の子どもたちにBASICプログラミングを教えて回っていたそう。段ボールのため分厚くて大きかったため、これを使いやすく商品化する形で出来あがったものが現在のIchigoDyhookだ。先述の会があったおかげで生まれたものである。

土肥さんは、
「当初はPCNさんにRaspberry Piで動作するIchigoJAM BASICを開発してもらい、プログラミング教育に対するマーケティングを兼ねて、全国を松田さんと1年間かけて回りました。Raspberry Piを使ってプログラミング教室をやりましたが、やればやるほど課題が見つかります。モニターが必要で電源も必要だし、専用の教室なら可能ですが、45分で授業が入れ替わる一般教室の中でRaspberry Piを使ってプログラミング授業をすることは現実的ではないと思いました。かねてより、松田さんから段ボール教材をもっとスマートにできないかというご相談をいただいており、これならRaspberry Piで抱えていた課題が解決できると思い、開発に至ったんです。」

と語った。松田さんも、

「一般的にプログラミング教育に使われている“Scratch”よりも、BASICの方がやりやすいと思っています。プログラミング的思考を伝えるには、BASICの方がビジュアル形式よりも伝えやすい。教える側の立場を考えて、私たちはBASICの言語を選んでいます。」

と語る。松田さんは、さらに

「ビジュアル系の言語には、実際には使わないものがありすぎます。要するに、色々と親切に準備しすぎているように思いますね。中には、プロが使う機能まで備えているし、できあがったパーツまで準備されています。
その点、BASICは何も準備されていません。プログラミングを効率化することが目的ではなく、プログラミングの教育なのだから、その本質を学んでもらいたいと思っています。
例えば、“ループ”というのはどういうことか?、5回ループと100回ループの違いは何か?、という本質を学ぶのに、あらかじめ用意された便利なものを使っていては、理解することが難しくなります。
また、多くの子どもたちにプログラミング教育を広げるためには、高機能なものや高価格なものは必要ないと思っています。」

と語った。

まだ、当分は1人に1台、2台は与えられない環境において、現実的に買える値段のハードウェアを狙っているようだ。IchigoDyhook本体は、なんと9,800円。IchigoJAM BASICが入った基板「IchigoDake(イチゴダケ)」は980円である。IchigoDakeは生徒一人一人が所有し、IchigoDyhookは学校が設備としてクラスの人数分+2、3台の予備を持っていれば十分だ。
IchigoDakeにはBASICプログラムの他にストレージの機能も持っていて、個人の学習した内容が保存できるようになっている。自分がプログラミングをしたいときは、どのIchigoDyhookでも自分のIchigoDakeをいれればよい。
プログラミング教育を安価に行うことができ、インターネットも必要ない。先生が教えるスキルも限られているためとても効率的である。また、子どもの創造力を活かすために、環境を整えすぎるということもしていない。

IchigoJAM BASICが入った基板「IchigoDake(イチゴダケ)」
IchigoJAM BASICが入った基板「IchigoDake(イチゴダケ)」

松田さんは

「プログラミング教育にハマった子は学校外のクラブに行ったり、サンタさんにお願いして高機能のパソコンを買ったりしてもらえばよいと思います。」

と語った。

IchigoDyhookの初注文は、ミャンマーのインターナショナルスクールだったそうだ。その他、アフリカのルワンダなどもIchigoDyhookに興味を持っているそうだ。単3電池のほか、モバイルバッテリーなどをMicroUSBで接続しても動作するので、ソーラーパネル付きの充電器を接続すれば、アフリカのサバンナでもプログラミングができるのだ。

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ところで、松田さんは13歳からプログラミングを始めたそうだ。父が中古のNEC9801を買ってきたのがキッカケとのこと。そして、PCでゲームを作ろうと思ったのが13才。プログラミング人生、30周年になるとのこと。周囲の仲間はみんな小学校からプログラミングをやっているそうで、もうちょっと出会いが早かったらな、と語っていた。

その後、福井高専電気工学科に進学。なお、その時からの親友、株式会社jig.jp 創業者&会長の福野泰介(注2)さんは電子情報を専攻したとのこと。福野さんと食事をしながら子供にプログラミングできる環境を作らないとね、ということでPCNを作った。今、PCNは国内で60拠点、全部で70拠点を超える数となっている。北陸の地から世界に広がっていくネットワークに期待したい。

PCN(プログラミング クラブ ネットワーク)とは

PCN(プログラミング クラブ ネットワーク)は「すべてのこどもたちにプログラミングの機会を提供する」を理念におくサークル活動です。こどもパソコン「IchigoJam」シリーズをはじめ様々な教材やコンピュータを活用してこども達にプログラミングを体験する場を提供し、ICTリテラシーの向上を図るとともにものづくりへの関心を高め、地域人材の育成に寄与します。(公式サイト https://pcn.club/about/ より抜粋、閲覧日:2020,2,4)

今年はバンコク、カンボジア、インドなどにも行くそうだ。
日本でBASICのプログラミングをしたいという声も出ている。また、金沢市、加賀市、鯖江市もIchigoJAM BASICでのプログラミング教育に取り組んでいるという。
鯖江市はネットで先生向けの教室を開き、その内容を全学校に配信しているそう。

IchigoDyhookは特に小学校5〜6年生をメインターゲットとしており、「イチゴンクエスト」という、RPGゲームのようなプログラミング教育言語も選択できる。ネットにも繋がらないので安心の環境だ。このプログラミング言語も含めて、IchigoDyhookに入っているのはプログラミング的思考のみ。それ以外はそぎ落とされている。

また、PCNでは「PCNこどもプログラミングコンテスト(プロコン)」というプログラム作品のコンテストを毎年やっており、これは主に小学生が応募しているコンテスト。3月29日に福井県で最終審査会と表彰式が行われるそう。日本で一番規模が大きいコンテストとのことで、こちらも要注目である。

松田 優一 氏

松田 優一 氏

福井高専電気工学科を卒業後、福井大学工学部、同大学院を経て、 ITベンチャー企業へ就職。2006年、29歳で『株式会社ナチュラルスタイル』を立ち上げ、「まずやってみよう」を信条とし、世の中にない数々のソフトウエアを生み出す。世界と比較して極端に遅れている日本の子供プログラミング教育の環境を憂い、2014年にPCN(プログラミングクラブネットワーク)を設立。以降、初心者向けに開発されたこども用プログラミング専用パソコン「IchigoJam」を携え「すべてのこどもたちにプログラミングを」をテーマに世界各国を奔走中!

・株式会社ナチュラルスタイル代表
・PCN(プログラミングクラブネットワーク代表)

参考サイト

株式会社アイ・オー・データ機器社屋と細野 昭雄会長
株式会社アイ・オー・データ機器社屋と細野 昭雄会長

(注1)株式会社アイ・オー・データ機器 https://www.iodata.jp/
(注2)福野泰介 https://fukuno.jig.jp/

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