横折スタイルで本格的なキーボードを搭載した「Cosmo Communicator」

キーボード付きスマホは受け入れられない?TCLがブラックベリーから撤退|山根康宏のワールドモバイルレポート

小型のフルキーボードを搭載しメッセージ端末として有名だったブラックベリー。現在は中国のTCLがそのブランドを利用してスマートフォンを展開している。

しかしTCLによるブラックベリー端末の製造が2020年8月に終了することになった。つまりキーボード付きスマートフォンの代名詞だったブラックベリーのスマートフォンが終焉を迎えようとしているのだ。

ブラックベリーがいよいよ市場から消えようとしている
ブラックベリーがいよいよ市場から消えようとしている

ブラックベリーはもともとはページャー(ポケベル)端末としてスタートし、その後フルキーボードを内蔵し長文のメッセージも簡単に入力できる端末としてメジャーな製品になっていった。やがてディスプレイの大型化やスマートフォンOSの搭載により、キーボード付きスマートフォンとして唯一の製品になっていく。
逆に言えばノキアやサムスンなどが次々とキーボード付きスマートフォンの開発を停止する中、最後までキーボードにこだわり続けたのだ。

数あるブラックベリースマートフォンの中にも、キーボードを廃止した普通のスマートフォンと同じデザインの製品があった。しかし「キーボード無しブラックベリー」はブラックベリーのブランドを好むユーザーには受けたかもしれないが、それ以外の多くの消費者はアップルやサムスンなど大手メーカーの製品を選んだことだろう。

2016年にリリースした「DTEK」シリーズはアルカテルのスマートフォンをブラックベリーブランドに変えて(本体デザインも変更)出しただけという、「名前だけ」ブラックベリーな製品だった。とはいえブラックベリーのセキュリティーサービスを搭載しており、高セキュアなスマートフォンであることも売りの一つではあった。

キーボードの無いブラックベリー「DTEK 50」、ベースモデルはアルカテルの「IDOL 4」
キーボードの無いブラックベリー「DTEK 50」、ベースモデルはアルカテルの「IDOL 4」

現在販売されているブラックベリーのキーボード付きスマートフォンは、TCLが製造する「KEY」シリーズのみ。「KEY2」と「KEY2 LE」の2機種が販売されている。
しかしTCL以外を見ると、キーボード付きスマートフォンを製造している大手メーカーは無い。ブラックベリー以外のメーカーのキーボード好きスマートフォンは、2014年にLGが発売した「Optimus F3Q」が最後という状況だ。つまり市場では最近ではなく、5年以上も前からキーボード付きスマートフォンに対するニーズが無くなっているということになる。

それでもサムスンは自社のスマートフォンに装着できる、キーボードカバーを継続して販売していた。このカバーはディスプレイ面の下に取り付けると、メニュー画面などがキーボードを隠さないように表示エリアを自動的に調整してくれる、ユーザーインターフェースを考えた製品だった。
しかしこれも最後に市場に出てきたのは2016年秋に発売された「Galaxy Note8」用で終了。その後のモデルには出てきていない。

サムスンが出していたスマートフォン用のキーボードカバー
サムスンが出していたスマートフォン用のキーボードカバー

日本でも過去にはドコモがスマートフォンOSを搭載する前のブラックベリーをメッセージ&Eメール端末として販売したことがあった。その頃はフルキーボードを使ったローマ字入力で高速にタイピングできるブラックベリーはビジネス層を中心に大きな人気となったのだ。
しかし今では誰もがスマートフォンの大画面を使い、フリック入力で片手ながらも高速な文字入力を行っている。「物理的なキーボード」で「ローマ字入力」する人の数は大幅に減ってしまい、日本でキーボード付きスマートフォンが主力製品になることは二度とないのだろう。

ブラックベリー以外を見ると、キーボード付きスマートフォンはいずれもクラウドファンディングから生まれている。すなわち「欲しい人がいたら出資してもらい、それが製造コストに見合うなら生産する」という、ギリギリの数しかユーザー数を集められないのである。Planet Computersの「Gemini PDA」「Cosmo Communicator」、FX TechnologyのF(x)tec Pro1はどちらも横向きスタイルのキーボード付きスマートフォンで、ノートPCのように画面を横方向の向きで使いたいユーザーにも受けがいいようだ。どちらも2018年-2019年と、つい最近に製品が出てきている。

横折スタイルで本格的なキーボードを搭載した「Cosmo Communicator」
横折スタイルで本格的なキーボードを搭載した「Cosmo Communicator」

なおPlanet Computersによると初代モデルのGemini PDAの全世界の注文のうち、日本からが一番多い(全体の約25%)だったとのこと。日本でわずかに残されたキーボード愛好者にとって、市場に出てきたキーボード端末は「それ以外、選択肢がない」貴重な製品となるわけだ。それゆえスタートアップ企業の製品であっても注文が集中するのだろう。

さてTCLがブラックベリーから撤退するのは、実はキーボード製品需要の落ち込みだけではないと考えられる。TCLの製品はTVが有名で、スマートフォンはアルカテルのブランドで世界展開を行っている。日本でも一時アルカテルのスマートフォンが売られていたことを覚えている人がいるかもしれない。しかしアルカテルのスマートフォンは価格を抑えた低コスト品が多く、中国の新興メーカーが同じクラスの製品を出してくると、競争力を失い販売数も減少してしまっている。

そこでTCLはブランドイメージも一新すべく、2019年9月にTCLの名前を付けたカメラフォン「TCL PLEX」をグローバルに投入。アルカテルよりも上の機能を持った製品とし、機能とコストバランスに優れた製品として拡販を目指している。2020年1月には500ドルを切るスマートフォン3機種を発表。うち「TCL 10 5G」は5Gに対応、超低価格5Gスマートフォンとして人気になるかもしれない。

TCLの2020年は「500ドルスマホ」で世界展開を図る
TCLの2020年は「500ドルスマホ」で世界展開を図る

TCLはブラックベリースマートフォンを通じて自社やアルカテルブランドのイメージ向上を図ったものの、結果としてその効果は得られなかった。スマートフォン市場で自社の社名を使った製品を改めて展開すると方向転換したということは、ブラックベリーのブランドに頼る必要もなくなったわけだ。

長年のブラックベリーファンや、細々ながらも定期的に新製品が出てくるブラックベリーの製品に期待していた人も世界中にはまだ多い。しかしブラックベリーのスマートフォンが市場から無くなってしまうのは、時代の流れを考えると仕方ないことなのかもしれないだろう。

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