アップルから2020年モデルのiPhone SEが4月15日に発表された。最低価格は4万円台と、これまでのiPhone中でも突出して安く買えるモデルとなっている。
カメラ性能は今の時代のスマートフォンとしては不満が残りそうだが、チップセットはiPhone 11と同じ最新のものを搭載、またeSIMにも対応するためオンラインで通信キャリアを切り替えることも可能だ。

eSIMはスマートフォンに装着するSIMカードをソフトウェアで内蔵したもので、2017年にアップルが率先して採用を決めた。ところが通信キャリア側の対応はなかなか進んでおらず、またアップル以外でeSIMを採用するメーカー・製品の数もあまり増えていない。大手キャリアにとっては簡単に他のキャリアに乗り換えられてしまうということもあり本格的な導入はなかなか出来ないのが実情だ。
とはいえ2020年は大きく状況が変わりそうだ。まずは前述したiPhone SEがeSIM対応したことで、手軽にeSIMを使えるスマートフォンが世界各国に普及することになる。プリペイドSIMをeSIMで提供するキャリアもあり、安価なiPhone SEとの組み合わせは最強だ。iPhone SEはSIMが2枚入るので、1枚はメインのSIM、もう一枚はMVNOキャリアの安価なeSIM、なんて組み合わせもできる。
ちょうど日本ではIIJがeSIMを提供しているし、楽天が正式に開始したサービス「Rakuten UN-LIMIT」は1年間無料なうえにeSIMも発行している。iPhone SEでもおそらく使えるだろうから、eSIM側を楽天のeSIMにする、なんて使い方もできるわけだ。海外でも新規キャリアが無料サービスを行う例はいくつかあったが、おそらくそれをeSIMでも提供しているのは楽天くらいだろう。
その楽天はeSIM専用のスマートフォン「Rakuten Mini」を2万円強で販売している。4月からはiPhone SEに合わせるように本体カラーがレッドのモデルも追加された。サイズが小さすぎるためメインとして使うのは難しいが、サブ用途や予備には充分使える。
このRakuten Miniを買った場合はeSIMしか使えないので、必ずeSIMを使わねばならない。Rakuten Miniは価格が安いことから、「とりあえず買っておく」というマニア層もいるだろう。数は多くないかもしれないが、eSIMが使えるスマートフォンが日本でさらに増えるわけだ。

こうしてeSIMが使えるスマートフォンが増えれば、キャリア側の対応も変わってくるだろう。
今までは「eSIM対応キャリアが少ないから、スマートフォンのeSIM対応が進まない」「eSIM対応スマートフォンが少ないから、キャリアのeSIM対応が進まない」と、卵が先か鶏が先か、という状況が続いていた。
Rakuten Miniは日本国内だけの販売だが、グローバルで4万円台のiPhone SEが販売されることで、プリペイドSIMやMVNOキャリアのeSIM対応が一気に進みそうだ。

プリペイドSIMは使い捨て感覚で利用できる。オンラインで販売し即座にQRコードでスマートフォンに番号を書き込んでもらえば、その手軽さから購入者もより増えるだろう。またMVNOキャリアは手厚いサービスではなく価格が勝負だから、プロモーションなどで思い切った料金を出し顧客を増やしたい。
しかしSIMを渡すのに店舗へ来てもらったり郵送では、興味を持った客が考え直して契約を思いとどまるかもしれない。そこでネット上でeSIMを発行すれば、その場で即座にSIM(回線契約と番号)を提供できるわけだ。

もしもeSIM対応のMVNOキャリアが増えていけば「キャリアは手軽に乗り換えらえるもの」という意識を持つユーザーが増えていくだろう。2年契約などの長期固定契約を嫌う客や、SIMカードそのものを入れ替えることが面倒と思う消費者も増加するはずだ。その結果、料金が安いことよりも自分の好きな時に好きなキャリアを使える、という手軽さからeSIMを出しているMVNOを使い続けるユーザーが増えていくかもしれない。
そうなれば大手のキャリアも黙って見ているだけではなく、率先してeSIM化を進めざるを得なくなるだろう。しかしeSIMを提供するだけではすぐに他のキャリアへMNPで移転されてしまうかもしれない。そうなると大手キャリアはサービスで顧客を引き留めるしか方法は無く、優良な回線品質やアフターケア、魅力あるコンテンツの提供など、よりユーザー視点の目でサービスを展開するようになると期待できるのだ。
eSIMはプラスチック片のSIMが無くなるだけではなく、スマートフォンと携帯電話契約、さらにユーザーとの関係を大きく変えるものになる。iPhone SEのeSIMが果たしてどれくらい使われるようになるのか、各国の動きが今から気になるところだ。