フィンランドの学校教育2 -日本との違いとコロナ禍における政府の対応-|上松恵理子のモバイル教育事情

フィンランドの学校教育2 -日本との違いとコロナ禍における政府の対応-|上松恵理子のモバイル教育事情

前回の記事に引き続き、今回はフィンランドの学校教育についてロミさんとのインタビューを通し、新型コロナウイルスの対応やオンライン教育、大学入試等も含めた具体的な内容を紹介する。

フィンランドと日本、教育面の違い

上松:まずはお伺いしたいのですが、色々な国がある中で日本からフィンランドに渡りお住まいになった理由を教えてください。

ロミさん:リトアニア留学中に現在の夫と出会い、結婚に伴って2001年にフィンランドに移住してきました。それ以来、ヘルシンキに住んでいます。高3の娘、9年生(日本の中3)の息子の2人の子どもがいます。

上松:なるほど、教育面で日本との違いってどんなものがありますでしょうか。

ロミさん:違いはいくつかあると思います。まず公教育は給食も含めて無償で、塾がないこと(大学入学のための民間の予備コースなどはありますが、日本の受験産業に比べれば遥かに規模の小さいものです)。先生の資格要件も異なり、小学生のクラス担任は教育学修士、中高生を中心とする科目教員は自分の専門分野の修士号を取得した上で教員養成課程を履修し、修了後は各自で求職活動をして教員となります。フィンランドの学校は9割以上が公立ですが、いわゆる公務員試験のようなものはなく、先生自身が希望しない限り転勤もありません。教科書の検定はもう数十年前に廃止されており、実際の授業で使用する教材の選択や授業の進め方もついても、先生の職務の一環として大きな裁量が任されています。

現行のコアカリキュラムに基づく大きな概念としては、教室での勉強だけに留まらない学習環境全体への配慮や、生涯を通じた学びを見据えた「学び方を学ぶ」という考え方が重視されてきているのではないかと思います。先生方の役割も、知識を伝達するだけの一方通行の授業ではなく、子どもたち一人一人が自分の適性に応じて学び、学校を離れた後も自分が納得する道を歩んでいけるように支援していくことへと変化してきていると思います。
個々の児童生徒の学習や学校生活を支援するために、先生方は日常業務の中でさまざまな手法を駆使しており、より厚い支援が必要な場合は、行政上の決定なども行った上でリソースを確保しています。また、学校には保健師、スクールサイコロジスト、スクールソーシャルワーカーが在籍し、最近は青少年指導員を雇用している学校も出てきています。

フィンランド首都圏の公立校より。ユニークな外観や近隣の自然を生かした教室づくり

コロナウイルス感染拡大時における政府の対応

上松:わー、それはとても違いますね。私が気になるのは新型コロナウイルスの対応です。
政府はどのような対応を取ったのでしょうか。たしか首相は女性ですよね、国民の信頼は厚いようにマスコミでは報道されていましたね。

ロミさん:昨年暮れに、34歳のサンナ・マリン首相が就任しました。連立政権の与党党首5名が全員女性(うち4名が30代)、内閣全体でも半分以上を女性大臣が占めるということで、世界的にも大きな話題になりました。新内閣発足早々、新型コロナウイルスの世界的流行という事態に見舞われましたが、未知の新型ウィルスに真剣に対処する姿勢を見せてきたと思いますし、ここまで何の問題もなかったとは言えないまでも、感染の第1波は巧みに乗り切ってきたのではないかと思います。人命を第一に、リーダーシップ、専門家との連携、そして高齢者や弱い立場にある人々への共感や配慮を示したことで、信頼を得たと言えるかと思います。

フィンランドでは3月中旬に歴史上初めて緊急事態宣言が出た後、4月下旬に当面の流行が一応のピークに達したとされ、現在は夏場に向けて、いろいろな制限を段階的に緩和していく方向に向かっています(5月25日現在)。
ですが、今後このパンデミックがどのように推移していくかはまだ誰も正確には予測できないと言われていますし、経済的なダメージなどもあります。これからも現在進行形で動向に注目していく必要があると思っています。

昨年秋に国会議事堂前で行われた、若者の気候変動デモ
昨年秋に国会議事堂前で行われた、若者の気候変動デモ。先生の引率でクラスぐるみで参加した保育園児や小学生などもいたようです。

学校教育に対する政策

上松:政府は学校教育についてはどんな政策をとりましたでしょうか?

ロミさん:まず、3月はフィンランドの教育制度の中で唯一の全国一斉試験である、大学入学資格試験(en: Matriculation Examinations, fi:Ylioppilastutkintokokeet)があったのですが、感染拡大を見込んで、すでに緊急事態宣言が出る前から一部の試験を1週間前倒しで実施することが発表されていました。進路や将来にも影響する、フィンランド人にとっては重大な試験なのですが、ちょうど試験を受けることになっていた高3の娘のスケジュールも直前になって変わってしまい、泣かされていました。
何とか気を取り直して準備を進め、一応は納得のいく成績が取れたようですが、今回の試験は急な変更で受験者への負担があまりにも大きかったということで、希望者には再試験も行うという措置が発表されています。

ちなみに、この試験は数年前に電子化が完了し、フィンランドの高校生は入学時からノートパソコン必携となっています(高校になると教材は自己負担となるため、ノートパソコン、関数電卓ソフト、教科書などは家庭で購入する必要があります。学費や給食は引き続き無償)。試験会場では自分のデバイスを使用しますが、試験のために開発された「Abitti[1]」というシステムを通じ、インターネットを介さない形で試験を行います。普段の定期テストでもこのシステムを使って、使い方に慣れていくそうです。
ここ数年、大学入学制度も改革が行われているところで、現在は、成績次第では大学が行う入学試験を経ずに、この大学入学資格試験の結果で入学できる枠が大きく拡大されているところです。

2019年初旬の保護者説明会で紹介された、大学入学資格試験の様子
2019年初旬の保護者説明会で紹介された、大学入学資格試験の様子

緊急事態宣言が出てからは、小学1~3年生の希望者、支援を必要とする希望者以外は、3月18日から5月13日までの間、オンラインの遠隔授業に移行しました。学校教育の実施は自治体の管轄となるため、授業に関する実際の細かい手配は、自治体や各校、現場の先生方に委ねられたことになると思います。
全体としては、遠隔授業はうまく実施できたと評価されているようです。ヘルシンキ市が子どもたちに行ったアンケート調査では、子どもたちは教員からサポートが得られ、家庭も積極的に協力し、宿題の量も適切だったという結果が出ています[2]。授業以外にも、子どもたちの在宅による家庭の負担を少しでも軽減するため、希望者には何らかの形で給食(食事のほかにも、自宅で食べられる、給食の代替になる食品や食材など)も提供できるよう、各自治体・各校で工夫して徐々に手配が進められました。

実際の授業は、すでに長らく整備されてきたICT環境を活用したもので、遠隔授業の基盤は初めから確保されていたと思います。子どもたちに普段の授業で使っているツールを聞いたところ、
・息子の中学校はGoogleベース(Google Classroom, Google Meet, Google Docs)
・娘の高校はMicrosoftベース(Office 365, Microsoft Teams)
*会議ツールではマイクを使用したものの、カメラはONにする必要なし。

また2人とも、
・学校との連絡には、「WILMA」というフィンランドの学校で広く使用されている専用アプリ
(子どもが未成年の場合は保護者にもアカウント配布)
・クラス内の情報共有にはWhatsAppを使用している
ということです。

さらに、今回は定期テストもオンラインで行ったそうで、これは2人とも初めての経験だったようです。使用したのは、教科書や教材(デジタル・紙)を作っている大手出版社が構築したオンライン試験システムとのことで、特に娘が使用したシステムは、本来は有償サービスのところ、今回のコロナ禍の影響で出版社が無償で提供したものだったとか。実際のテストは、学習内容に沿った先生の自作だったそうです。

ロミ氏の娘さんが通う高校。撮影:Sampsa Lommi
ロミ氏の娘さんが通う高校。撮影:Sampsa Lommi

家庭の通信環境ですが、インターネットがユニバーサルサービスの一つになっているフィンランドでは、ネット環境が皆無という家庭は非常に限られていると思われますし、通信インフラの国内企業もあり、通信料金もヨーロッパで最も安い国の一つです。ただ、ノートパソコン必携の高校生は別として、小中学生は普段は家庭でのオンライン学習を求められていないため、子どもが学習に使えるコンピュータが自宅にないという家庭はあったようです。その場合は自治体や学校によるデバイスの貸与や[3]、地方の篤志家が地域社会に呼びかけて、地元の小学生が使うためのパソコンを数十台寄贈したといったエピソードも聞かれました[4]。また現在も、不要になった企業のコンピュータや寄付金を募る全国規模のキャンペーンが行われています[5]。

上松:なるほど、それはすごい。日本とは違いますね。保護者はどんな反応だったのでしょうか。


次回も引き続き、インタビューの内容をお届けする。

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