フィンランドの学校教育3 -緊急事態宣言後の教育と家庭の変化-|上松恵理子のモバイル教育事情

フィンランドの学校教育3 -緊急事態宣言後の教育と家庭の変化-|上松恵理子のモバイル教育事情

今回も前回に引き続き、フィンランド在住のロミさんとのインタビューの続きをお届けする。新型コロナウイルス感染症の拡大に対して、オンラインの遠隔授業、定期テストのオンライン化、家庭の通信環境への手厚い整備など、様々な対応が行われたフィンランド。保護者の反応はどうだったのだろうか。第2波、第3波に向けた今後の方向性も含めてご紹介する。

フィンランド政府の学校教育方針に対する反応

遠隔授業への移行と終了、対面授業の再開

ロミさん:緊急事態宣言を出す前まで、政府はフィンランドに多い共働き家庭に配慮して学校を継続すると言っていたのですが、私の印象では、それで子どもの健康や安全が守れるのかと不安視する声も小さくなかったように思います。ちょうど北欧ではデンマークが国境封鎖や休校を決めた頃で、国内でも遠隔授業への移行を独自に決定した自治体がありました。そうした動きがどれだけ影響したかはわかりませんが、結局、大半の児童生徒が遠隔授業に移行することになりました。国の調査によると、1~3年生の登校率は約10%だったそうです[6]。

その後、感染防止対策が功を奏して状況が落ち着き始め、遠隔授業を続ける法律上の根拠がなくなったとして、5月13日で小中学校の遠隔授業は終了し、14日から対面授業が再開されました。ヘルシンキの場合、当日は9割以上が出席したとのことです[7]。小中学校以外の教育機関はそれぞれの判断で授業形態を決めてよいことになり、娘の高校では引き続き遠隔授業が続いています。

フィンランドでは6月から夏休みに入るため、遠隔授業もうまく行っている中で、たった2週間ほど登校する意味はないのではないかという声は、家庭からも、教育現場からもかなり出ていたと思います[8]。学校でいじめられていた子が遠隔授業になってむしろ生き生きとし始めた、などの報道も出ました[9]。
その一方で、問題のある家庭から出られない子どもたちに対応する必要性なども論じられました[10]。私の子どもに限っては、息子は通学できなければ先生やクラスメートにも会わないまま中学を卒業し、義務教育を終えることになっていましたので、通学することは無意味ではなかったと思いますが、子どもを通わせて大丈夫かという心配は、親としては当たり前のことだと思います。

実際、学校が再開されてわずかの間に、全国で突出して感染者が多いヘルシンキとその近郊では、子どもたちから数人の新たな感染者が出てしまいました。ウイルスは学校外から入ったものという調査結果でしたが、接触した教員や子どもたちは再び遠隔授業に戻っており、感染児童が出た学校では、出席を控える子どもも出ているようで、本当に厄介なウイルスだと思います。

第2波、第3波に向けた今後の方向性

第2波、第3波が来るかどうかは専門家の間でもはっきりわからないようですが、ウイルスが消滅する兆しがないことは確かなようです。他の多くの国々と同様、フィンランドでも強硬な制限を長く続けることは不可能ですので、検査キャパシティを拡大し、制限が緩和されて感染が出た場合でも可能な限り早期に対応できるような体制を整えようとしています。
今のところ、フィンランドでは検査や治療が受けられないという不安は少ないように思いますが、秋以降の状況によっては、再び遠隔授業を行うことも検討されているようです。

家庭における変化

上松:お子様方の学校は新型コロナウイルスでどんな変化がありましたか?

ロミさん:政府の方針や保健当局の指導に従い、自治体、学校レベルでの対応を取っていると理解しています。実は、娘の学校(小中高の総合学校)では2月下旬に全国で初めて小学生の感染者が判明し、緊急事態宣言が出る前から、小学部の校長が医療関係者と物々しい記者会見をしてテレビで放映されたり、接触のあった児童が検疫の対象になったりしていました。検疫対象者以外の児童生徒は登校しなければならず、高校生の娘は試験前で毎日登校する必要はなかったものの、親子とも正直おっかなびっくりではありました。もちろん、学校が大学病院と作成した安全に関する通知などは娘に来ていましたし、緊急事態宣言が出る頃には該当者の検疫期間も終わり、新たな感染が見つかることもありませんでした。私個人も、そんな前振りがあってから全国レベルの緊急事態に入ったので、すでにこの状況に対して多少の耐性はついていたかもしれません。

上松:普段の学校生活とは異なった生活で、保護者のロミさんからみて、お子様たちは、家でどのような様子でしたでしょうか。

ロミさん:これまでとは生活が変わり、特に娘は進路にも影響するタイミングで、ストレスや緊張感はあっただろうと思いますが、生活自体は淡々としていました。日中はそれぞれ自分の部屋でオンライン授業を受け、親も在宅勤務、小さい子どもではないので親が進み具合をチェックしなければならないような場面は一切ありませんでした。

一度、息子が家庭科の調理実習でマンゴーラッシーを作ってくれたので、先生の指示に従って保護者からのフィードバックを提出したことはありました。美味しくできたか、調理器具や食器の扱いや後片付けなどをコメントしたと思います。この課題のメニューは「世界の料理」というテーマで本人が自分で考えたものだったようで(一種の献立計画というものでしょうか)、後でクラスメートの親御さんが、また違うメニューをフェイスブックに載せていました(笑)

マンゴーラッシー

学校以外の時間はお友達とのオンラインミーティング、ジョギングやサイクリング、犬との散歩やドッグスポーツのトレーニング(フィンランドでは、緊急事態宣言下でも屋外活動は禁止されませんでした)、ゲーム、お菓子作りなど、どこにでもいるフィンランドの若者のライフスタイルを楽しんでいるようには見えます。息子は楽器を習っていますが、そのレッスンも先生とオンラインでやっていたようです。それでも、普段より家にいる時間は格段に長くなったので、夕食後などによく家族でゲームをするようになりました。親にとってはむしろ貴重な時間かもしれません。

ヘルシンキ市内の自然保護区。コロナ禍の間もにぎわっていたエリアの一つです
ヘルシンキ市内の自然保護区。コロナ禍の間もにぎわっていたエリアの一つです

学校の新型コロナウイルス対応への評価

上松:最後に、新型コロナウイルスに対応する学校や先生方に対してはどのような印象を持たれていらっしゃいますか?

ロミさん:もともとICTを利活用してきた環境があったとはいえ、学校の緊急時対応はとても迅速で、遠隔授業への移行もスムースでまったく危なげはなく、とても感謝しています。同じ学校に子どもを通わせている他の親御さんの間でも好評だったと思います。政府が対面授業の再開を決めてからも、再開に向けて、自治体の教育当局や現場の先生方が連日遅くまで計画を練っていたというニュースが出ていました。
再開日の5月14日には、たまたま息子の学校の教頭先生が公共放送のコロナ特別番組に出演し、いろいろなインタビューに答えていました。その中でも「子どもたちと再会できてうれしかった、ハグできないのだけが辛かった」とおっしゃっていたのが特に印象的でした[11]。子どもたちへの愛情と教育への熱意を感じるインタビューで、全国的にも評判がよかったようです。

ロミ氏の息子さんが通う中学校。併設されている高校部は遠隔授業を継続中。撮影:Visa Lommi
ロミ氏の息子さんが通う中学校。併設されている高校部は遠隔授業を継続中。撮影:Visa Lommi

娘は19歳ですが、フィンランドでは成人の18歳を迎えると、法律上の親の責任がなくなる代わり、高校生といえども親が子どもの学業に介入することはできなくなります。娘が未成年であれば何らかの連絡が来ていたと思いますが、今回もコロナ関連の連絡は一切ありませんでした(笑)学校に対しても、娘に対しても、何ら不安感はありませんでしたが。

上松:ありがとうございます。
以前も何回かフィンランドを調査訪問し、長い調査では一ヶ月くらい滞在しましたが、本当に今回、新型コロナウイルスの対応についてもお話を聞くことができて感謝です。これから日本で子どもたちに感染者が出ないようにICT化を進めていかなければならないと思いました。それだけでなく、ただテキスト通りに調理実習するのではなく、献立計画からという能動的に学ぶ教育スタイルも時代に沿ったものだと感じました。

Makiko Lommi(ロミ眞木子)氏
Makiko Lommi(ロミ眞木子)氏

Makiko Lommi(ロミ眞木子)氏 プロフィール
東京生まれ。大学卒業後、金融機関勤務、リトアニア留学、ビリニュス大学東洋学研究所非常勤教師を経て2001年よりフィンランド在住。2009年よりLogos Helsinki主宰、通翻訳・リサーチ業務などに携わる。フィンランド政府公認翻訳者、コミュニティ通訳者、公認ガイド。
https://www.logoshelsinki.com/
https://www.instagram.com/logoshelsinki/

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