クアルコムも参戦開始、2021年には1万円台の5Gスマホが登場するか|山根康宏のワールドモバイルレポート

クアルコムも参戦開始、2021年には1万円台の5Gスマホが登場するか|山根康宏のワールドモバイルレポート

スマートフォン向けの5Gサービスが開始されたのは今から約1年前の2019年4月だった。韓国とアメリカを皮切りに、現在はアジアやヨーロッパの各国で5Gサービスが始まっている。日本も2020年3月から3社が5Gを開始したが、新型コロナウィルスの影響による経済活動の自粛もありユーザー数は増えていない。
そもそも5Gを使うためには5Gスマートフォンに買い換えが必要だが、製品の種類もまだ少ないため4Gからの移行をためらう人も多い。5G対応のiPhoneが出てくるまで5Gは様子見、という人も多いだろう。

他の国でも5Gユーザーの数はまだあまり増えていない。世界で一番最初にサービスを開始した韓国は2020年4月末で5G利用者数が634万人となったが、普及率が10%を超えるまで1年弱かかったのだ。韓国もiPhoneユーザーが多いことから、5Gへの移行が思ったよりも進んでいないのだ。

しかし世界を見ると1か国だけ5Gユーザー数が突出している国がある。2019年11月から5Gを開始した中国だ。
中国の5Gユーザー数は工業情報化部によると3月末で5000万に達しているという。もはや中国は世界一の5G大国になっているのだ。

5G利用者が毎月増える中国。年末までに「億」の大台を超えることは確実だ
5G利用者が毎月増える中国。年末までに「億」の大台を超えることは確実だ

ここまで5Gユーザーが増えたのは低価格な5Gスマートフォンが相次いで登場しているからだ。
2019年末にシャオミが2000元を切る5Gスマートフォン「Redmi K30 5G」を発表後、2020年に入り他社も次々と格安5Gスマートフォンを投入している。2020年6月時点で最安値はシャオミの「Redmi 10X 5G」で1599元、約2万4000円だ。

このRedmi 10X 5Gのスペックは決して安物ではない。スマートフォンの心臓部である統合チップセット(SoCはメディアテックのDimensity 820、ディスプレイは6.57インチ2400×1080ピクセル、カメラは4800万画素+800万画素+200万画素、フロントカメラは1600万画素、バッテリーは4520mAhだ。ちなみにシャオミは日本でも2万円台の格安4Gスマートフォン「Redmi Note 9S」を出したが、そちらも価格を考えればスペックはかなり高い。「低価格なiPhone」として人気の「iPhone SE 2020年モデル」のスペックをこれら2機種と比較してみると、シャオミのコスパの高さがよくわかるだろう。

シャオミは5Gの低価格スマホで再び注目を集めている(Redmi K30 5G)
シャオミは5Gの低価格スマホで再び注目を集めている(Redmi K30 5G)

Redmi 10X 5Gがここまで安いのはメディアテックのミッドハイレンジ向けSoCを搭載しているからだ。5G市場はまだ立ち上がったばかりだが、スマートフォン向けのSoCはハイエンド向けだけではなく低価格モデル向けのものが多数登場している。

2020年6月15日以前に中国で発売された2000元(約3万円)以下の5Gスマートフォンは9機種。それらが採用しているミッドハイレンジ向けSoCの内訳は以下のようになっている。

・クアルコム(Snapdragon 765/765G/768G):3機種
・メディアテック(Dimensity 800/820):4機種
・サムスン(Exynos 880):1機種
・ハイシリコン(Kirin 820):1機種

スマートフォンのSoCではクアルコムが高いシェアを誇っているが、5Gの2000元以下の低価格モデルではすでにメディアテックがクアルコムより存在感を高めている。中国では今後5Gスマートフォンの価格はさらに下落すると見られており、999元(約1万5000円)の製品も年内に出てくると言われている。5Gは新しい技術だが、すでに一部の先進的なユーザーだけが使う特別なものではなくなろうとしているのだ。

メディアテックの5G SoCは5GのデュアルSIMにも対応しており、ミッドハイレンジ向けのDimensity 820も5GのSIMカードを2枚入れて同時待ち受けできる。クアルコムの同スペックSoCではまだ出来ていない機能を先に搭載している。これまで機能面でクアルコムの後塵を拝していたメディアテックが、デュアルSIM機能ではクアルコムを追い抜いている。

Dimensity 820搭載のVivo iQOO Z1。5G SIMを2枚同時に使える
Dimensity 820搭載のVivo iQOO Z1。5G SIMを2枚同時に使える

メディアテックはこの低価格5Gスマートフォン市場でクアルコムの追従を振り切ろうと、中国各社に自社SoCの採用を働きかけている。ハイエンドモデルはクアルコムのSnapdragon 865が市場を制するだろうが、数が稼げる低価格スマートフォンでメディアテック製SoCの性能が認められればいずれは中国以外のメーカーも採用に踏み切るだろう。6月9日には日本市場で5G SoCを販売するとアナウンスもしている。ソニーや富士通、京セラから格安な5Gスマートフォンが出てくる可能性もあるのだ。

クアルコムも対抗策として低価格5Gスマートフォン向けの新しいSoC「Snapdragon 690」を6月17日に発表した。現在ミッドハイレンジ向けとしているSnapdragon 765/768より更に下のモデル向けのSoCとなり、スマートフォン各メーカーの5Gスマートフォンの製造コストも大きく下げることができる。クアルコムが本腰を入れたことで大手メーカーは4Gスマートフォンから撤退し5Gに特化という動きが早まりそうだ。

クアルコムの低価格5Gスマートフォン向けSoC、Snapdragon 690
クアルコムの低価格5Gスマートフォン向けSoC、Snapdragon 690

メディアテックもさらに低価格なSoC、Dimensity 600シリーズを用意していると言われ、サムスンやファーウェイも対抗するだろう。そして中国国産の低価格5G SoCを開発したUNISOCから中国家電メーカーの5Gスマートフォン「Hisense F50」も発売になる。ハイエンドスマートフォン向けのSoCはクアルコム、サムスン、ファーウェイの3社の競争が激化しているが、低価格スマートフォンのSoCでも各社の動きは激しいものになりそうだ。

中国製5G SoCを搭載するハイセンスのF50
中国製5G SoCを搭載するハイセンスのF50

新しい通信技術の導入はこれまで先進国主体で進んできた。2Gから3G、3Gから4Gへの移行は日本やアメリカ、韓国などが1番乗りにしのぎを削るなどして新技術を積極的に採用し、新興国が採用するのは先進国から数年遅れることが常だった。
しかし5Gでは中国が一気に世界のトップに躍り出ている。
先進国とは異なり、所得の低い消費者でも新技術を利用できるようにと低料金、低価格スマートフォンの導入を進める中国の動きは他の新興国の5G展開を大いに後押しする。

気が付けば1万円台で買える5Gスマートフォンがコンビニに並び、世界中どこでも5Gが使える、そんな時代は意外と早くやってくるのかもしれない。

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