最高のタイミングでiPhone SEを投入したアップル、2020年は独り勝ちなるか|山根康宏のワールドモバイルレポート

最高のタイミングでiPhone SEを投入したアップル、2020年は独り勝ちなるか|山根康宏のワールドモバイルレポート

2020年の夏を過ぎても新型コロナウィルス(COVID-19)の影響は収まっておらず、あらゆる業界に大きな影響を与えている。スマートフォン業界でも四半期ごとの出荷台数の前年比割れが続いており、各メーカーのパワーバランスにも大きな変化が生じている。

IDCの調査によると、2020年第2四半期のスマートフォン出荷台数でファーウェイが初めてサムスンを抜いて1位となった。ファーウェイは前年同期比マイナス5.1%ながら5580万台を出荷。一方サムスンはマイナス23%と大幅減となり5420万台にとどまった。歴史を変えるほどのパンデミックが両者の力関係を大きく変えたのだ。

一方、3位アップルは低価格モデル「iPhone SE 2020年版」効果もあり前年同期比でプラス11.2%、3760万台だった。また4位はシャオミで2850万台、前年同期比11.8%のマイナス。2019年第2四半期はアップル3380万台、シャオミ3230万台とシャオミがはじめてアップルを標的にとらえたが、2020年第2四半期は効果的な製品をいいタイミングで投入したアップルが出荷台数を伸ばしている。

iPhone SEの投入はアップルにパンデミックの影響を与えなかった
iPhone SEの投入はアップルにパンデミックの影響を与えなかった

この動きは世界最大のスマートフォン市場、中国でも同じ傾向が見られた。同じくIDCの調査によると2020年第2四半期の中国国内の出荷台数順位は1位がファーウェイ、2位Vivo、3位OPPO、4位シャオミ、5位Appleだった。ファーウェイは前年同期比9.5%の3970万台で国内シェアも45.2%まで伸ばしている。これに対して2位から4位メーカーは前年同期比マイナス20%前後とCOVID-19の影響を大きく受けた。

しかしアップルは前年同期比11.6%増で、上位5社のうち唯一10%以上の成長を見せた。グローバル市場同様にiPhone SEが出荷台数をけん引したと見られている。

アップルは数年前までサムスンとシェア1位争いをしていたように見えるが、アップルが好調なのは毎年新製品を発表する第4四半期(10-12月)のみで、それ以外の各四半期は出荷数を大きく落とし、サムスンに大差をつけられていた。COVID-19の影響のなかった2018年第4四半期を見ると、サムスンは7040万台、アップルは6840万台と両者の差はほとんどなかった。
ところが年明けの2019年第1四半期はサムスンが7190万台、アップルは3690万台とその差は約2倍にも開く。ちなみにファーウェイが5910万台でアップルを抜いて2位に浮上している。

2019年第3四半期にはアップルはさらに落ち込み3380万台。サムスンの7550万台に対してその差はさらに開いていた。この傾向はここ数年同じであり、アップルは毎年1度の新製品発表直後のみ出荷台数を伸ばしていたのだ。

スマートフォン各社出荷台数。アップルは第4四半期だけ突出している(出典:IDC *1)
スマートフォン各社出荷台数。アップルは第4四半期だけ突出している(出典:IDC *1)

しかし今年のように春先に低価格モデルを出したことで、アップルは出荷台数が落ち込む時期をこれからうまく乗り越えることができそうだ。

そもそもiPhone SEのターゲットユーザーは数年前からのiPhoneを使い続けているユーザーだ。古いモデルで満足しているユーザーは、9月に発表される最新モデルのiPhoneの性能に興味を持つ以前に、価格を見るだけで買い替えを躊躇してしまう。10万円も超えるスマートフォンを毎年買い替えできる消費者の数も年々減っているだろう。そもそも設計がしっかりしているiPhoneは数年前のモデルが今でも十分使い物になる。

しかし2020年4月に発表されたiPhone SEは日本円で5万円を切る低価格で購入できる。古いiPhoneを使っていたユーザーも、本体の痛みや電池の持ちの低下を考えると、この値段なら十分買い替えることができる。親のおさがりのiPhoneを使っていた学生でもなんとか手の届く価格帯だ。

COVID-19による景気後退により高価なもの、ぜいたくな物は売れにくくなる。一方でコストに見合ったリーズナブルな製品は消費マインドを盛り上げてくれる。iPhone SEはここ数年iPhoneを買い替えていなかったユーザーが購入すれば、ちょっとした贅沢気分も味わせてくれるだろう。

また2020年9月に発表される予定の新型iPhoneは5Gに対応する予定だ。5Gはまだまだ盛り上がりに欠けており、日本でも5Gに対する消費者の関心はゼロに近い。とはいえ5Gに対応するiPhoneを今年買っておけば、来年以降に利用エリアも増え高速通信をより自由に使える5Gのメリットを十分享受できる。ちょっと早い先行投資として買い替えを行うのも悪くない。
さらに通信キャリア側も、5Gの利用者拡大のため5G版iPhoneのプロモーションを強化するだろう。

5G利用者を増やすため、通信キャリアも5G版iPhoneに大きく期待している
5G利用者を増やすため、通信キャリアも5G版iPhoneに大きく期待している

このように2020年のアップルは、iPhone SEのおかげでCOVID-19の影響を受けることなく秋まで出荷数を維持し、秋冬は5Gモデルを出すことで例年通りかそれ以上の出荷台数を記録できるかもしれないのだ。うまくいけば全メーカーの中で唯一、前年より出荷台数を増やし独り勝ちをとなるかもしれない。

そして2021年以降も、毎年春に低価格モデルのiPhone SEの新製品を出し続けていけば、アップルのスマートフォン出荷台数は極端な落ち込みを記録せずに年間安定した数を出すことができるだろう。フルモデルチェンジは2年おきとし、翌年モデルはカラバリ変更程度でもいいので、アップルは2021年春以降もiPhone SEを定期的に出していくべきだろう。

スマートフォンをとりまく技術革新は急激に進んでおり、1年どころか半年、あるいは数か月という早いサイクルで動いている。たとえばクアルコムはフラッグシップとなるハイスペックチップセットを毎年12月に発表していたが、昨年から夏にはマイナーアップデートモデルを投入し年2回のサイクルで最新モデルを入れ替えている。

ハイエンドモデルは年に1度、低価格モデルは不定期に、という新機種投入サイクルでは、アップルもすべてのiPhoneユーザーの買い替え需要には対応しきれない。iPhone SEのシリーズモデル化は、他のメーカーにとっても大きな脅威となるだろう。

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