プログラミング教育の講師が思う、教育現場のリアルな課題|上松恵理子のモバイル教育事情

プログラミング教育の講師が思う、教育現場のリアルな課題|上松恵理子のモバイル教育事情

今回のコラムでは、プログラミング教育の最前線で活躍されている太田剛先生へのインタビューをお届けします。プログラミングクラブの運営に教材の開発、高校で情報科の非常勤講師を務めるなど、プログラミング教育の現場に精通する太田先生は、現在の教育をどう感じていらっしゃるのでしょうか。
まずは太田先生がプログラミング教育に興味を持ったきっかけからお尋ねしました。

プログラミング教育の様子

小学校のプログラミング教育に興味を持ったきっかけ

太田先生:2000年以降、仕事関係でロンドンへ行くようになり、時期が合えばBETT(British Educational Training and Technology = ロンドンで毎年開催されるICTの教育利用に関する展示会)にも行っていました。
2015年1月のBETTでは、特に英国のブログラング教育ということは意識せずに行ったのですが、今後の、急速なプログラミング教育の広がりを感じました。

英国の特徴として、小中高で一貫した情報教育やプログラミング教育がありますし、 高校の情報教員などの育成過程がしっかりしていると考えています。また、CASなどの支援団体での教員育成研修や教材の提供がしっかりしていて、 GCSE(中等教育修了資格試験)などに対して教材や評価基準も明確に提供されている点がありますね。

その後、放送大学の大学院で勉強するようになり、BETTで知ったコンピュテーショナル・シンキングを国内に紹介[1]するとともに、小学生のプログラミング関する発達段階・獲得過程[2]を研究テーマにしました。

プログラミング教育を始めたきっかけと現在の活動

もともと、大学では教育心理、教育工学を勉強していました。40年前に会社に入った時にパソコン担当になりましたが、社内で経験者がいないため(入社当時はIBM-PCの発売時期)、自分でプログラマーやユーザー向けのアセンブラやBASICの講習の教材の開発やインストラクターの育成を行いました。その後、教育システム(当時だとCAI)やデジタル教材の開発リーダーとしてシステム開発を行っていました。

2000年以降、別会社で海外のODAのプロジェクトとして、高校理科教育の学習者中心型授業と情報化の教員研修、情報技術の多国向けオンライン研究、高等教育の情報学科向け講座や教材の開発をしていました。また、2001~2005年に、大学で教職課程「高校情報科教育法」を担当した当時から高校の情報科の教育に関わってきました。

現在では、世界的な活動である無償の子供のプログラミングクラブCoderDojo[3]」を運営していて、そこで使用する教材を開発・公開[4]しています。また、2018年からは高校の情報科の非常勤講師を始めて、授業で使用する教材の開発や公開もしています[5]。その中で、情報Iを見据えたプログラミング教材の開発もしています。また、この新型コロナの休校期間の対応として、オンライン教育用に高校情報科用オンライン学習の動画教材の開発も行いました。

小学校のプログラミングについて思っていること

現場でいくつかの勘違いがあるかもしれないと思っています。例えば、順次/分岐/繰り返しの言葉を教えるのは中学の指導要領で、これを小学校でやろうとして逆に内容を難しくしているかもしれません。また、アンプラグだけだと、プログラミング教育ではないと考えます。

一方で、行政の側も勘違いがあり、現場の状況や教師の能力を考慮しなければならないと思います。例えば、「区分B 学習指導要領に例示されてはいないですが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの」という定義がありますが、もともと教科の内容で本質をプログラミングできる物は非常に少ないのに(多くて十数個かも)、がんばって区分Bの授業案を考えてくださいと要求しているような気もします。
また、実現可能性(feasibility)や継続可能性(sustainability)を考慮した事例/計画が少ない(だから一発屋的な事例が多くなる)のも問題です。目的だけがあって、実現方法の検討が弱いように思います。例えば、研究者の実践でも新しいハード/ソフトを作りましたで終わって、本質的な先行研究の問題点がどのように改善したとか、どうしたら良い授業になるというものが少ないですね。

プログラミング教育の様子 プログラミング教育の様子

高校のプログラミングに思っていること

基本的に、小学校、中学(技術)のプログラミングの積み上げの内容になっていますが、一番の問題は中学(技術)で行われていないので、指導要領の内容を実施するのは困難です。
また、高校でのプログラミング教育も多くの実践が行われていますが、例えばロボット制御など学習者が簡単にできるような実践教育が多く、アルゴリズムなど指導要領にそったガッチリした実践が少ないのではないかと思います。あと、多くの実践は、俗にいう偏差値の高い高校のものが多く、普通の学校で実践できるか疑問にも感じています。多分、ちょっと難しいプログラミングには、日常とは異なる認知的なギャップがあり、もっとプログラミングとはどのような認知活動なのか本質的に考える必要があるかと思います。

スマホアプリ作りの様子

最後に

プログラミング教育について日頃心がけていることは下記の3点です。

・実現可能性を考えた普及型のプログラミング教育(普通の学校/生徒でできること)の教材・教育方法の開発
・創造性を重視したプログラミング教育
・プログラミング教育に関する理論的な研究(プログラミングにおける認知過程、プログラミング関する発達段階・獲得過程および獲得の促進要因など)


これまでの豊富な知識で色々と実践されている太田先生は、インターネット上で見ることのできるYouTube動画[6]も配信されています。ぜひご覧ください。

参考URL

[1] 諸外国のプログラミング教育を含む情報教育カリキュラムに関する調査 -英国,オーストラリア,米国を中心として-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/40/3/40_40028/_pdf

[2] 子供のプログラミング能力の獲得段階に関する定量的分析:小学校4~6年生のScratchプログラミングを対象として
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=199688&item_no=1&page_id=13&block_id=8

[3] CoderDojo Japan
https://coderdojo.jp/

[4] コーダー道場市川真間のオリジナル教材
http://beyondbb.jp/CDmama/materials.html

[5] 高校「情報科」の教材・指導案作ってみました。
http://beyondbb.jp/

[6] 高校「情報科」教材ビデオ https://www.youtube.com/channel/UC2legLVNV_y62PmdjnxReRw/videos

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