スマートフォンメーカーと言えばアップル、サムスン、ファーウェイ、そしてソニーやシャープなどの名前が日本では一般的だろう。最近はシャオミやOPPOなどの中国メーカーも日本でメジャーになりつつある。だがケータイ時代から様々な製品を日本を含めグローバル投入してきたLGは、ここ数年スマホのヒット製品を出せずにいる。しかし2020年になってから意欲的な製品を次々と出し、市場での存在感をじわじわと高めつつあるのだ。
2020年はサムスンが折りたたみディスプレイのスマートフォンを2機種だし、この分野でのテクノロジーリーダーとして市場をけん引している。一方、ディスプレイメーカーでもライバルであるLGは折りたたみディスプレイを開発しているという噂が出てこない。LGは折りたたみ型ではなく別の形状をスマートフォンのこれからのデザインと考えているのだ。

LGは2019年2月にディスプレイをカバーで外付けし、2枚のディスプレイが使える「V50 ThinQ」を発表して以降、このディスプレイ搭載カバーモデルを次々と出している。2020年5月には「VELVET」を発表した。VELVETも2つのディスプレイを利用できるカバーが用意されるが、注目すべきはその製品名だ。ベルベットという名称は製品のイメージを数字やアルファベットという無機質なものではなく、その質感やイメージを直感的に伝えてくれる。
実際にVELVETは背面のカメラが上から下に向けて小さくなる配置とし、水が流れるようなイメージを表現している。ベルベットの布地の表面を指先で滑らせる触感もそんな感じだろうか。カラバリの中には太陽をイメージしたイリュージョン・サンセットもある。日本でもこの冬にVELVETは投入されたが、タレントのIKKOを使ったCMとあいまって独特の世界観をアピールしている。

また9月には「WING」を投入した。WINGとは翼を意味するが、WINGは2枚のディスプレイを重ねて配置し、上のディスプレイを回転させると本体が「T字」になるのだ。動画や写真を見る時はこのスタイルが使いやすいだろうし、手で握る側の下のディスプレイはサブ表示画面として使うことができる。「トの字」型に持つことでメイン画面に地図、サブ画面は電話を受けるといった使い方や、上下逆向きにすることでメイン画面でゲームプレイ、サブ画面はゲームの情報表示、といったデュアルビューも可能だ。ディスプレイを回転させるだけで新しい使い方ができるのである。
VELVETもWINGも数字や「Big」「Plus」といった製品名より親しみやすく、製品イメージもわかりやすい。LGは過去にも「チョコレートフォン」といった製品を出し世界的なヒットとなった。いまやどのメーカーのスマートフォンも外観デザインは似たようなものとなり、性能も価格が同等なら横並びだ。ここ数年存在感を落としているLGだけに、他社と差別化するには消費者がわかりやすい製品を出す必要がある。VELVETは「ベルベット?どんなスマホだろう」と思わせてくれるし、WINGは翼を想像させることで変形するスマートフォンであることをアピールできる。

LGは製品のネーミングについて過去に成功例があるだけに、これから出てくるスマートフォンにも大きな期待ができるだろう。
さてサムスンの折りたたみスマートフォンのライバル最有力候補と考えられているのが「巻き取り式ディスプレイ」搭載スマートフォンだ。11月にはOPPOが「OPPO X 2021」を発表。コンセプトモデルだが実際に動作する試作機が発表会では披露された。巻き取り式ディスプレイはその名の通り、スマートフォンの内部にディスプレイを巻き取っておき、本体を左右に引き延ばすと側面からディスプレイが伸びてくる構造をしている。折りたたみスマートフォン同様、「普段はスマホ、開けばタブレット」になるのだ。
LGはWINGのオンライン発表会の一番最後に、「次のスマホ」として巻き取り式ディスプレイ搭載スマートフォンのイメージをちらりと見せた。もしこれがコンセプトモデルなら、新しい時代のスマートフォンとして別の場で大きくアピールするだろう。WINGはLGの新しいスマートフォンデザインを設計する「LG Explorer Project」から生まれた製品で、これまでのスマートフォンの形状にとらわれず、新しいライフスタイルに適合したデザインとして生み出された。そのExplorer Projectの次のモデルとして、巻き取り式ディスプレイが披露されたのだ。

もちろん巻き取り式ディスプレイスマートフォンがすぐに出てくるかはわからない。しかしOPPO以外ではTCLが今年3月に同様なディスプレイを搭載したスマートフォンの開発を発表しており、すでに試作機が出来上がっている様子が中国のニュースサイトで散見される。つまり巻き取り式ディスプレイの商用化はそう遠くないと考えられる。
ただし巻き取り式ディスプレイはディスプレイを薄くすることから強度が弱くなってしまう。表面に保護フィルムは貼れないため傷もつきやすい。また収縮させる時にディスプレイに無理な力がかかってしまったり、たるんでしまう恐れもある。OPPOは本体を左右に収縮させる際にはモーターを使い、無理な力を加えず一定の速度でディスプレイを巻き取るようにしている。巻き取り式ディスプレイの実用化は最後の詰めの部分が一番困難かもしれない。
いずれにせよここ数年元気のなかったLGのスマートフォンがこれから面白い存在になることは間違いない。日本市場にも数は少ないが定期的に新製品を投入していることから、今後はWINGや巻き取り式ディスプレイスマートフォンも販売されるだろう。2021年はLGのスマートフォンの動きに注目したいところだ。