GIGAスクール構想で変わる授業の形-アウトプット型の学びと教員の役割とは|上松恵理子のモバイル教育事情

GIGAスクール構想で変わる授業の形-アウトプット型の学びと教員の役割とは|上松恵理子のモバイル教育事情

GIGAスクール構想により子どもたちがPCやタブレット端末を1人1台持つという時代になり、これからデジタル教科書が使われることになる。今後、全ての教科書はPDF化し、デジタル教科書のコンテンツも揃ってくる。そして、それらを支えるクラウドプラットフォームの話も出てくるだろう。

今回は、7年前に古河市のICT機器環境を整えた立役者、平井 聡一郎先生に機器整備からデジタル教科書の活用までについて話を伺った。

デジタル教科書の問題

上松:先生が関わった古河市の事例ですが、その当時はICT機器整備がまだ一般的ではなかったですから大変だったのではと感じますが、いかがでしたか?

平井:そうですね。まず、あの時はセルラータイプのタブレットの大規模導入というのが日本で初めてのことだったので、色々とクリアしなければならないことが多く、メーカーやベンダーとの交渉が大変でした。でもおかげで1人1台ずつ端末を使える環境や、クラウドプラットフォームのモデルも構築することができました。これが、今のGIGAスクール構想のベースになっています。

上松:では、そういった知見を踏まえて何か、今後のデジタル教科書の導入に向けての問題はありますでしょうか。

平井:これからは、通信環境が課題になると思います。なぜなら、デジタル教科書はクラウドベースで運用されますからね。
今回、GIGAスクール構想により各学校にWi-Fiが整備されることになりました。デジタル教科書を家庭でも活用するとなると、端末の自宅への持ち帰りが必須となり、LTEが注目されるでしょう。LTE対応の端末であれば、学校でも家でも、場所を問わず使えます。例えば図書館でも大丈夫ですね。
しかしWi-Fiの場合、設備のない家庭もある。また、日本はまだまだ公共Wi-Fiの整備が遅れています。そうなるとモバイルルーターを使用することとなり、管理面での問題が出てきます。
また、学校から外への回線が脆弱なため、校内は万全でも結局は繋がりづらい、という学校も出てくることが懸念されています。活用という本筋の点でも、先進校はともかく、普通の学校ではどう活用していくかのイメージが持てていないのが現状でしょう。

上松:先生方からは、1人1台の端末をどう授業で使ったらよいかわからないという声もありますよね。

平井:それは自治体や教育委員会の問題ですね。国は方向性の大枠は示しています。それを地域の実態や機器環境に応じて現場に落とし込むことが必要です。現状では活用を見据えた導入計画がない、つまり、なんのために使うかというビジョンのない導入計画だったということです。
結局ICT機器導入は、授業を変えるためのきっかけにすぎません。つまり、これまでの教師主導の教授型の授業から、学習者主体でアウトプットを目指す授業に変えていくことが必要になります。そのためにICT機器や授業を支援するアプリが必要になるわけです。
GIGAスクール構想は機器整備が目的ではなく、新学習指導要領による授業改革を実現するための環境整備であるということを、教育委員会や学校が認識することが重要となります。

アウトプットのイメージ

先生はあくまで能動的な学習のサポートをする立場に

上松:デバイスは調べ学習などにしか使えない、という声も聞きます。

平井:そもそも「調べ学習」という言葉がよくないですね。だって調べ学習では目的が見えません。何が目的なのか明確に示されないから、単に調べることが目標になってしまうことが一番良くないと思います。つまり対面による学びは、先生が教え込むという一方通行の授業から、探求型に転換していくということです。
もちろん、アウトプットの垂れ流しも同様に良くないと思います。垂れ流しの象徴が「はい拍手!」です。これを条件反射的に言わせている授業を見ることがあります。また、「いいですか?」、「いいです!」と一斉に言わせたりというのも同じですね。以前、答えが間違っているのに気づかず「いいです!」と一斉に言わせた先生がいて驚きました。授業を管理したがる先生にこういった傾向はあります。先生はファシリテーターであり、子どもの後ろから学習をサポートするようにしないと。

授業を見ていると、先生と発表する子どもとが1対1で対話しているような授業もあります。これではダメなんです。子どもたち同士でやりとりしないといけないですね。発表というアウトプットの後には、他の子どものフィードバックが必要です。誰かのフィードバックはアウトプットした子にとってはインプットになります。こうなると対話的な学びというのは、先生が黒板の前に立ってしゃべってるだけではできませんね。

タブレットで学習する子どものイメージ

平井:そもそも黒板の前は、子どもたちがアウトプットするステージなんです。ですから、そこには教卓とか先生の机とかいらないですね。酷い学校だと教卓の脇が先生の荷物置き場になっていることがあります。それから、窓際の前に先生の机があるのは邪魔になりますね。そこには電子黒板を置いて欲しいです。外からの光が画面に反射しづらいので、そこは電子黒板の定位置。そこから自由に動かせばいいんです。となると先生の机は後ろで十分、子どもたちが前に行かないとね。

上松:シンガポールで見た授業で、先生が教室の後ろにいて学習の様子を見守っているという光景が思い出されました。児童生徒が対話的になることを阻止せず、考えさせることが授業の中心になっていましたね。学習者同士で問題解決をしている様子が印象に残っています。他の国ではどうでしょうか?

平井:インドも行ってきたんですよ。ベンガルール。アガスティアという理数系の民間の研修センターに行ったんですが、そこに面白いポスターが貼ってありました。教師主導からの脱却って万国共通の課題なんだなあって思いました(笑)。
日本だけじゃないんです。だから、日本はだめだなんて悲観することはないんです。世界中の先生と一緒になって教育改革に取り組むんだって気持ちが大切です。確かに北欧は進んでいますが、日本より改革のスタートがちょっと早かっただけです(2、30年くらい)。でも、日本はGIGAスクール構想でICT機器環境が一躍トップクラスに躍り出ました。もともと優秀な日本の先生が、凄い武器を手に入れたんです。これは日本復活ですよ!

インド、民間研修センターのポスター
インド、民間研修センターのポスター

上松:学校では、わかっている漢字も練習させる場合もありますよね。できている計算を繰り返しやってたりもします。こんなことやってるなら本でも読んでた方がいいですよね。

平井:そこが学びの多様化だと思います。今回の中教審答申でも、「個別化」と「個性化」って示されてます。「一律の学び」からの転換期なんでしょうね。だからこその授業づくりです。
まさに毎日が研究授業ですよ。子どもたちにとってはかけがえのない1時間というけれども、先生にとってもかけがえのない授業なんです。できなかったことができるようになったり、わからなかったことがわかるようになったり、本来授業というものは楽しいものなんです。
対面の授業で、対面でやれるものに絞りこみ、習熟系のものは家で前の日にやっておいて、次の日に課題の探究をすればよい。また、家での学びは授業の復習だけではない。コロナ禍における自宅へのタブレットの持ち帰りは、学校の学びと家の学びが一体になる大きなチャンスです。

上松:では、なぜICT機器の活用は進んでこなかったのでしょうか?

平井:それはパソコン教室が原因です。30クラスある学校でもパソコン教室は1クラスしかない。これでは使いたい時に使えないから、結局は開かずの教室になりました。ですから、GIGAスクール構想のための環境整備とコロナ禍でICTを使わざるを得ない状況というのは、先生方にとっては大変なピンチですが、実は最高のチャンスという見方も出ています。

学校図書館はメディアセンター

上松:海外だとパソコン教室は同じ時期に設置されたけれども、鍵はもちろんかけないし、それどころか廊下や教室の隅にインターネットつなぎ放題のパソコンもあって今ではBYOD(Bring Your Own Device)になっているという時期でした。少なくとも図書館に何台かおいて自由に使わせるべきだったと思います。

平井:フィンランドに行ったんですが、図書館はメディアセンターになっています。

上松:これは素敵ですね。

平井:去年と一昨年、続けて2回行きました。これが公共図書館ですよ。図書館なのに工作室があってレーザーカッタ―があったりミシンがあったり。まるで実験室みたいなところもあります。

フィンランドのメディアセンター フィンランドのメディアセンター

平井:クイーンズランドの図書館もそうでしたね。音楽スタジオもあったり生物の標本があったりして。

上松:日本の図書館は変わらないとならないですね。

平井:教科をまたいだプロジェクト学習がありましたね。これからはそういう時代になるでしょう。図書館はメディアセンターとなり、これからの学びを支えるステージにならないとね。

教員の仕事の本質とは何か

上松:教務室も変わらなければならないと思います。フィンランドはとても賑やかでサロンみたいなんですよね。自分の担任の生徒が、他の教科で何をしているのか、聞いたりできるんですよね。日本だとうるさいとか叱られて(笑)。

平井:教科をまたいだ授業をすると、おのずと教務室は先生が集まって、貴重な休み時間や昼休みに教務室で情報交換する場になるんですよ。それが日本では、静かに執務する場所となっていて自分の授業の話をあまりしたがらない先生もいて文化の違いを感じました。
また、日本は学校が担うことが多すぎます。働き方改革とは言われますが、今の仕事をテクノロジーで効率化することに目が向いてます。これでは対症療法です。この点は海外を見習うべきと思います。根本治療は業務を絞り込み、そこに集中することです。では、集中すべき業務とはなにか?ということになりますよね。簡単です。「授業」こそ、教員の仕事の本質です。今こそ、ここに立ち帰り、日本の学びを変えていきましょう。

オンラインインタビューの様子
オンラインインタビューの様子
平井 聡一郎 氏
平井 聡一郎 氏

平井 聡一郎 氏

(株)情報通信総合研究所 ICTリサーチコンサルティング部 特別研究員。
茨城県の公立小中学校で教諭、教頭、校長を22年間、県市町の教育委員会指導主事を11年間務めたのち現職。現在、茨城大学非常勤講師、文部科学省ICT活用教育アドバイザー、総務省地域情報化アドバイザー及び複数の市町村の教育アドバイザーを務める。また、全国の自治体、学校におけるICT機器導入から活用までのコンサルティング、プログラミング教育、オンライン授業等の推進にも取り組んでいる。

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