今や世界各国で販売数を伸ばしている中国メーカーのスマートフォン。「価格が安くスペックもいい」だけではなく、「高性能・高画質カメラ・高価格」な製品もよく売れている。アメリカの制裁で失速してしまったファーウェイも、最上位モデルの性能はiPhoneをはるかに超えている。もはや中国メーカーのスマートフォンを色眼鏡で見るのは間違っているのだ。
もちろん低価格モデルでも中国メーカーは存在感を高めている。2010年台の半ばころ、低価格で品質のいいスマートフォンといえば、サムスンかLG、あとはアルカテルあたりの製品なら安心して買うことができた。そのころのシャオミの製品は仕上げはまだ「安物」の域を出ていなかったのだ。しかしここ数年で中国メーカー同士が製品開発にしのぎを削るようになってから、低価格モデルの品質は一気に高まっている。
筆者は定価999元(約1万6000円)で買える、中国Realmeの「V3」という5Gスマートフォンを購入してみたが、背面の仕上げは安っぽさは無く、ケースをつけなくともすぐに傷がつくことはないようなしっかりした出来栄えだった。ディスプレイやカメラ品質は劣るものの、よく言えば価格相応であり、スマートフォンのライトユースなら十分利用できると感じられた。2万円前後のスマートフォンは、今では中国メーカーの製品も安心して選ぶことができるのである。

だがそのあおりを受け、サムスンなど大手メーカーの低価格スマートフォンは勢いをなくしていった。アルカテルやWikoはヨーロッパや東南アジアに低価格スマートフォンを出していたが、今や中国メーカーに市場をすっかり奪われてしまった。LGもハイエンドモデルは新製品が話題になるものの、低価格機はパッとした製品を出せていない。そしてサムスンは低価格機が全く売れなくなったことで、中国市場であっという間にシェア1位から圏外へと落ち込んでしまった。
しかしサムスンはここ2年かけて低価格モデルの立て直しに成功し、改めて市場に攻め入ろうとしている。しかも新興国だけではなく、先進国にも積極的に新製品を投入している。
たとえば日本では「Galaxy A21」が2万円台で販売されている。Galaxy Aシリーズはサムスンのカジュアル製品で、二ケタ台の数字が小さいほどスペックも低い。日本では他にも「Galaxy A41」「Galaxy A51 5G」が販売されているが、それぞれより性能が高くなっているわけだ。
Galaxy A21は「キャリアが販売する格安スマホ」であり、家電量販店で端末だけ買うということに慣れていない層や、「通話と適度にSNSや検索ができれば十分」というユーザーに重宝される。日本だからといって、ハイスペックなスマートフォンばかりが求められているのではないのだ。

韓国では「Galaxy A10e」が同国の子供向けアニメ「神秘アパート」のキャラクターを冠し、専用のデスクトップ画面やケースが付属した「神秘キッズフォン」として売られている。子供向けということで本体価格は約2万円、ネックストラップが付くなど使い勝手も考えられたパッケージとなっている。このように先進国でも低価格スマートフォンは十分需要があるわけだ。

一方、新興国では先進国とスマートフォンの使い方も異なるため、新しいモデル展開を行っている。
「Galaxy M」シリーズと「Galaxy F」シリーズで、大型バッテリーの搭載や高画質フロントカメラが特徴になっている。バッテリー容量でいえば2021年1月末時点で、6500mAh以上のバッテリーを積んだ大手メーカーのスマートフォンは「Galaxy M51」しか存在しない。価格は24999ルピー、約3万6000円と「格安」ではないものの、中国メーカーでも追いつけない製品をサムスンはインドに投入しているのだ。
なお6000mAh以上のバッテリーを搭載したモデルなら、「Galaxy M21」「同M21s」「同M31」「同M31s」「同M31 Prime」「同M51」もある。ここまで大容量バッテリー搭載モデルを揃えているのはサムスンだけで、このあたりは大手メーカーならではのバッテリー周りの設計ノウハウが生かされているのだろう。
大容量バッテリー搭載最新モデルとなる「Galaxy M12」は「12」の型番からわかるようにスペックを落とした低価格モデル。バッテリー容量は6000mAhだ。背面は金属製スーツケースのようなリブのあるデザインをしており、強度も増しているようだ。落下させることの多い新興国には、こんなデザインが受けるのだろう。

サムスンのスマートフォンというと、上位モデルの「Galaxy S」シリーズや「Galaxy Note」シリーズばかりが脚光を浴びているが、実は価格の安いエントリーモデルやミドルレンジモデルでもしっかりと新製品を投入し、シャオミなどの中国メーカーに対抗しようとしているのだ。ハイエンドからエントリーモデルまで、すべてにしっかり手を抜かないからこそ、サムスンは今でもスマートフォン世界シェア1位の座を守り続けることが出来ているのだ。