創作活動が楽しくなるICT教育の再考-その背景とは-【後編】|上松恵理子のモバイル教育事情

創作活動が楽しくなるICT教育の再考-その背景とは-【後編】|上松恵理子のモバイル教育事情

前編では手芸とコンピュータが関係あるというお話でしたね。そこに至るきっかけも伺いました。

手芸とコンピュータグラフィックス

五十嵐:そうなんです、コンピュータを使うことで多様なデザインツールを用意することが可能なんですよね。

例えば、ステンシルは、穴の開いたシートを布や紙に重ねて、その上からインクを乗せていくことで、図形をデザインするアートです。オリジナルカードづくりなどでよく使われていますが、このシートは1枚につながっていないといけないので、自作しようとするととっても大変です。
でも、コンピュータを使うと「シートは必ず1つにつながっている」という制約をもたせながらユーザがデザインをしていくことができます。穴が抜け落ちてしまうようなデザインのときには自動的に橋渡しを作ってつなげたりもできます。

「1枚のシートにつながっている」という制約のもとでコンピュータを使ってデザインできるシステム。カッタープリンタでシートを出力できるので便利。
「1枚のシートにつながっている」という制約のもとでコンピュータを使ってデザインできるシステム。カッタープリンタでシートを出力できるので便利。

オリジナルビーズデザインのための研究では、すべてソロバン型の4mmビーズを使うことにして、ポリゴンの辺をビーズに対応させると、「すべての辺の長さが等しいポリゴンモデルをデザインする」といった問題になります。辺の長さが同じであれば、シミュレーションで構築できるので、どんなカタチをデザインしたいかといったことをジェスチャーでデザインできるシステムを作りました。

ジェスチャー入力で、ビーズモデルをデザインしていくことができる。
ジェスチャー入力で、ビーズモデルをデザインしていくことができる。

ビーズ細工の製作は1本のテグスで作っていくのですが、システム内部でオイラーグラフを作って、一筆書き理論と対応させて製作手順を計算しています。オイラーグラフは複数の解があって、一番最初に求めた解が作りやすいとは限らないので、ハミルトンパスというものを求めて、すべての面を終わらせていくようなオイラーグラフの解を採用してユーザに提示しています。

ビーズを作っている途中の不安定なビーズをなるべく減らすために、ハミルトンパスを使っている。
ビーズを作っている途中の不安定なビーズをなるべく減らすために、ハミルトンパスを使っている。
ビーズで作成した作品例
ビーズで作成した作品例

こんなふうに、手芸に数学や物理の知識を組み合わせるといろいろと面白いことができます。

上松:すごいですね。最近、手芸は高齢化していて、コミュニティの場所になってしまっている場合もありますよね。コロナでなかなか集まれないということもあるように思います。

五十嵐:そうなんです、集まれない代わりに遠隔でつなぐなど様々な方法をトライしてみたいです。最近、修士課程の学生さんと行っていたポーチデザインの研究で、子どもが形状をデザインするというものだったのですが、自分の描いた絵を印刷して、ポーチの布として使える機能をつけたところ、好評でした。布のデザインは孫、ポーチ製作はおばあちゃんといった遠隔でのコラボもできるかもしれないですね。

ポーチデザインシステムを開発していたが、布デザインのところにiPadでお絵かきした絵を取り込む機能もつけた。製作手順の画面では、その柄を反映した手順提示になっている。
ポーチデザインシステムを開発していたが、布デザインのところにiPadでお絵かきした絵を取り込む機能もつけた。製作手順の画面では、その柄を反映した手順提示になっている。

上松:楽しそうですね。世の中のためにもなりそうですね。

五十嵐:手芸や工芸はまだまだデジタル化されていないですし、なかなか継承が難しい部分もありますが、ぬいぐるみ作りや織物・編み物のノウハウを持っている人たちのやり方をうまく取り込むことで、知の継承としてもコンピュータは使えるんですよね。

私のやっている研究は、ぬいぐるみ設計士の仕事を無くすのではなく初心者ができなかったことをできるようにしたい。システムを使って自分でオリジナルデザインで作るのは楽しいということを伝えたい。と思ってやっています。

デジタルが切り拓く、オリジナルな手作り・モノづくりの時代

上松:このご研究はどう発展させていきたいですか。

五十嵐:オリジナルデザインを自分で、というのは海外の学会、シーグラフなどでとても評判が良かったんですよ。

なので、これまで作ってきたシステムは、なるべくメニューなどをアイコンにして、非言語ツールとして国や言語を問わずに使えるように実装しています。

上松:3人のお子様と研究の両立は大変だと思うのですが。

五十嵐:3人だと子どもたち同士で遊んだり、上の子が下をみてくれたりと、親の手を離れて過ごしていることも増えてきました。妹のお人形遊びのためのおうちも、段ボールと布で3人で協力して作っていますし、3人とも料理が好きなのでよく手伝ってくれたりします。3人とも全体的に色々と創作活動していることが多いですね。

家事の中ではクリエイティブな「料理」もよく子どもたちが手伝ってくれています。
家事の中ではクリエイティブな「料理」もよく子どもたちが手伝ってくれています。
子ども部屋用の本棚を協力して組み立てる3人兄弟
子ども部屋用の本棚を協力して組み立てる3人兄弟
インタビューの様子(左:五十嵐悠紀先生/右:筆者)
インタビューの様子(左:五十嵐悠紀先生/右:筆者)

インタビューを終えて、なんだかほのぼのした気持ちになった。

大量生産廃棄の時代から、地球の資源が限られて居る中、これからは手作りの時代に戻って行くようにも感じる。それこそデジタルを使って手軽にオリジナルなものを作っていく、そういった楽しい世界がICT教育から開けていくように感じた。

1人1台の端末でプログラミング教育がスタートし、学校では2020年からプログラミング教育が必修とされているが、今後はこういったモノづくりにおける創作活動が楽しくなるICT教育を再考する時期にきていると感じた。また、コンピュータとはおおよそ関係ないと思われるものと繋いでいく工学博士ママの取り組みはとても楽しみだ。

五十嵐 悠紀(いがらし ゆき)氏 プロフィール
2010年東京大学工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。
日本学術振興会DC2、PD、RPDを経て2015年より明治大学総合数理学部専任講師。2018年より同准教授。
コンピュータグラフィックス、ユーザインタフェースに関する研究に従事。情報処理推進機構(IPA)未踏事業プロジェクトマネージャー兼任。

前編はこちらから。

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