LGがスマートフォンビジネスから撤退することを発表した。スマートフォンを含む同社のモバイルビジネスは2015年以来赤字が続いており、ここ1-2年はその先行きを危ぶむ声が聞かれていた。2020年に巻き取り式ディスプレイを搭載する「ローラブルスマートフォン」が開発中であることを公表したが、先進的な技術を搭載する製品の登場を待たずに市場から消えていくことになる。

LGはサムスンの好敵手としてお互いに製品の開発を競い合い、欧米メーカーが力を持っていた2000年台前半から存在感をめきめきと表していった。特に携帯電話のカメラ性能はこの両社が業界をけん引していたことは間違いない。ただしそのころは日本メーカーの携帯電話の性能のほうがはるかに高かった。しかし日本で販売される携帯電話は通信キャリアと共同開発であり、キャリアが全量買い取り通信費で端末代金を回収するビジネスモデルだったため、日本メーカーの高性能携帯電話は海外市場にはほとんど投入されなかった。
iPhoneが登場する直前は、サムスンは薄型化に力を入れ、LGはデザインを強化した製品を数多く輩出した。その後スマートフォン時代が来るとサムスンは「Galaxy」、LGは「Optimus」というブランドを付けて製品を展開。しかしグローバルでシェアトップに上り詰めたGalaxyを、Optimusが追いつき抜き去ることはできなかった。LGの初期のスマートフォンは世界初の機能を搭載したモデルも多かったが、次々と製品バリエーションを増やすサムスンには勝てなかったのだ。

では直近のLGはどのような状況だったのだろうか。カウンターポイントの調査によると、LGの年間スマートフォン出荷台数は2017年が5170万台、2018年が4120万台、2019年が2840万台、2020年が2470万台だった。出荷台数の順位も2019年にレノボに抜かれ8位、2020年には日本にも参入を果たしたrealmeに抜かれ9位にまで落ちた。10位のTecnoとの差はわずかで、仮に市場から撤退していなくとも同社に抜かれることは確実だった。

とはいえここにはソニーの名前は無い。つまりLGのスマートフォンはソニーよりも売れているのだ。しかしソニーは製品種類が少ないうえに販売国も多くは無い。販売にかけるコストはソニーのほうがはるかに少ないのだろう。
LGのハイエンドモデルはサムスンやアップルの上位機種と互角の戦いはしておらず、現在のLGの主力製品「VELVET」「WING」はどちらもスペックとしてはミドルハイレンジだ。また新興国にはプリペイド向けなどの低価格モデルも多いが、それらの国でもすでにファーウェイやシャオミの格安機にシェアを奪われている。たとえローラブルスマートフォンをLGが出したとしても、それ以外のLGのスマートフォンの販売数を引き上げるだけの起死回生となる製品にはならないだろう。LGのスマートフォンビジネスは抜本的な戦略変更を行わなければ復活することは難しく、今回の撤退はLGができる唯一の解決策だったと思われる。

仮に事業を譲渡するとなれば、独自技術の流出は避けられない。また将来再びスマートフォンビジネスに参入することになっても調整が必要となる。LGは豊富な家電製品のラインナップを持っており、存在感の薄いスマートフォンがなくなったとしてもメインストリームの製品販売には影響を及ぼさないだろう。
ちなみにLGの最新の決算によると、2020年通年の営業利益は新型コロナウィルスの影響があったにも関わらず前年比31.2%増加の3兆1950億ウォン(約3134億円)だった。エアコンや白物家電の営業利益は前年比2.5倍、TVなどホームエンターテイメントは前年比2倍。自宅にこもる時間が増えたことで、家電などの買い替えが増加したことが好調の原因だった。一方、スマートフォンなどのモバイル製品は2485億ウォン(約244億円)の赤字。全利益の約8%とはいえ、ほかの部門が好調なこともあり、ここでいったんリセットするのが得策と考えたのだろう。

それではLGのスマートフォンが今後復活する可能性はあるのだろうか。まずLGは家電のスマート化を進めており、「ThinQ」というプラットフォームを製品に搭載している。ThinQ対応の家電はThinQアプリを入れたスマートフォンで操作可能で、LGだけではなくサムスンやファーウェイ、そしてアップルのiPhoneなど他社のスマートフォンからも利用できる。ちなみにLGのスマート家電はThinQだけではなく、グーグルアシスタントなど他社のスマートソリューションにも対応した製品が多い。
つまりLGの家電はスマートフォンとの連携を考えた製品展開が行われているのだ。そうであれば自社でスマートフォンを展開するほうが本来は得策だ。しかし現在の競争の激しいスマートフォン市場では生き残ることは難しかったのである。
今回LGがあえてスマートフォン事業を譲渡しなかったのも、将来的な再参入を見越してのことと考えることができる。LGはディスプレイを手掛ける子会社を持っており、そこが巻き取り式のディスプレイを開発中だ。もしもスマートフォン向けのローラブルディスプレイの商用化に成功した場合、そのディスプレイを他社に供与するのではなく、LGが自らスマートフォンを作り市場に送り出す可能性は十分にあるだろう。しかしその製品は技術力をアピールするだけではなく、本体を金属素材や革張りとし、価格も50万円といった超高級機として少数だけ投入されると思われる。高級品であればコストが高くとも購入者は必ずいるし、数を多く出す必要はない。

5Gが開始されスマートフォンの使い方も変わる中、これからスマートフォンがどう進化していくかは誰にもわからない。LGはたしかに現在の市場構造の中での負け組となったが、数年後に復活する可能性も十分ある。ローラブルスマートフォンはOPPOが試作機を発表したが、製品化はまだ1年以上かかるとも言われている。LGが次に市場に復活するときは、ぜひローラブルスマートフォンを引っ提げて世界をあっと言わせてほしいものだ。