ファーウェイは2021年6月2日に発表会を行い、Androidに代わる新しい自社開発のOS「HarmonyOS 2」を発表した。スマートウォッチからスマートTV、さらには家電にも対応するOSであり、HarmonyOS 2を中心にファーウェイ独自のエコシステムを拡大しようとしている。

しかしファーウェイはアメリカ政府の制裁を受け、スマートフォンを自由に製造できない状況が続いている。自社開発のチップセット「Kirin」の製造が困難となり、5Gスマートフォンの新規展開は「Kirin 9000」など昨年生産したチップセットの在庫に頼るのみとなっている。
発表会では春のフラッグシップモデル「P50」シリーズの外観が紹介されたが、発表時期、発売日、価格、スペックなどは一切公開されなかった。毎年春に登場している「P」シリーズだが、今年はすでに6月になっており、早ければ初夏に発売されるかもしれない。しかしここまで発売が遅れたとなると秋に登場する新型iPhoneへの対抗モデルとして出てくる可能性も高そうだ。

HarmonyOS 2の発表会では、ファーウェイから新しいスマートフォンも発表された。しかしいずれも既存モデルのマイナーチェンジモデル。「Mate 40 Pro」「Mate 40E」「Mate X2」「nova 8 Pro」の4機種は、現在販売中の5Gモデルに対して4Gまでの対応となり、HarmonyOS 2搭載で発売となる。5G非対応モデルを出さざるを得ないのはこれも制裁の影響だ。シャオミなどライバルの国内メーカーが次々と5Gスマートフォンを展開する中、ファーウェイは4Gスマートフォンでの戦いを強いられることになる。

HarmonyOS 2はiOSやAndroidよりも使い勝手を高めており、ファーウェイが独自に開発したユーザーインターフェース「EMUI」を大幅に進化させている。たとえ4GモデルであってもHarmonyOS 2を搭載していれば、通信速度以外の面での使い勝手は他社の5Gスマートフォンに劣らないかもしれない。ファーウェイのこれら4Gスマートフォンが中国でどれだけ売れるか気になるところだ。
さてHarmonyOS 2はすでに販売中のスマートフォンもアップグレードできる。まずは「Mate 40 Pro」など最新の5Gスマートフォンなどが対象だが、今年1年かけて古いモデルにも対応していく。その中には2018年発売の「Mate 20」シリーズなど、約3年前の製品も対象となる。
ファーウェイの旧製品を2-3年使い続けているユーザーが、そろそろ買い替えようにもファーウェイの目立った新製品が少ない中、OSをアップデートすることで最新のユーザー体験を得ることができるのだ。

ファーウェイはまたスマートフォンの修理・ケアサービスも強化した。旧モデルであっても中国国内ならば4900か所以上(これは中国の人口カバー率97%とのこと)あるピックアップステーションにスマートフォンを持ち込むことで、電池、本体背面、ディスプレイ、カメラモジュールなどを新品パーツに交換してくれるというものだ。電池は79元(約1400円)から、ディスプレイなどは定価の2割引きで交換できるとのこと。カメラモジュールは結露やレンズの傷などで綺麗な写真が撮れないユーザーにはうれしい対応だろう。そして傷のついたボディーやディスプレイも手軽に交換できる。
外装を綺麗にした旧機種にHarmonyOS 2を入れれば、最新機種より性能は劣るものの、外観上は美しくソフトウェアも使いやすく、心機一転、まるで新品を買ったような気分で使うことができるだろう。

最新モデルを自由に出せない中でどのようにユーザー離れを防ぐのか。マイナーチェンジモデルの投入は苦肉の策だが、旧モデルの救済策ともいえるアフターケアの強化は既存のファーウェイファンたちから大きな信頼を受けるだろう。特にファーウェイのハイエンドモデルは本体性能やカメラ性能が高いことから今でもユーザーは多く、他メーカーへの買い替えを躊躇しているケースが多い。
ファーウェイのスマートフォンはP50シリーズのその先のモデル展開の見通しは立っておらず、今後の展開は不透明なままだ。しかしHarmonyOS 2の開発や旧モデルを切り捨てず使い続けるようにするというユーザー本位の展開は、圧倒的なブランド力とユーザー満足度を提供しているアップルの戦略に通じるところがある。
スマートフォンだけではなくインフラビジネスも含め、ファーウェイは存続の危機に立たされているが、ユーザーファーストの展開を進めていけば復活の日が必ずやってくるのではないだろうか。