年次イベントで「3年以内のスマホシェア1位」を宣言したレイ・ジュンCEO

「3年以内に世界シェア1位」シャオミの野望は実現するか|山根康宏のワールドモバイルレポート

2021年8月10日にシャオミは新製品発表を含む年次イベントを行い、同社CEOのレイ・ジュン氏が「3年以内に世界のスマートフォン市場で1位になる」と宣言した。

シャオミは今年に入ってから各調査会社のデータで、2021年6月単月のグローバル市場で1位(Counterpoint調査)、2021年第2四半期のヨーロッパ市場で1位(Strategy Analytics調査)となっており、レイCEOの公約は決して高望みや夢ではないことを証明している。

シャオミは2012年にスマートフォン市場に参入した。低価格・高性能・オンライン販売特化という大手メーカーには真似のできない戦略で瞬く間に中国国内でシェアを高め、海外へも進出していった。2018年にはスマートフォン年間出荷台数が1億台を突破、今では日本やヨーロッパでも多数の製品展開を行っている。

年次イベントで「3年以内のスマホシェア1位」を宣言したレイ・ジュンCEO
年次イベントで「3年以内のスマホシェア1位」を宣言したレイ・ジュンCEO

ここ数年、先進国ではスマートフォン需要が一巡し、買い替えユーザーが増えたことでメーカー間の販売競争はより厳しさを増している。その一方で5Gサービスが各国で始まったことにより、5Gスマートフォンへの需要が高まっている。一方で新興国ではまだまだ新規のスマートフォンユーザーも多く、消費者の購買意欲は旺盛だ。

シャオミは年次イベントで「チップセットに世界初のSnapdragon 888+」「全画面表示可能なディスプレイ埋め込みフロントカメラ」「1億800万画素のメインカメラ」「120Wの超高速充電」といったハイスペックなスマートフォン「Mi MIX 4」を発表した。また3月には折りたたみスマートフォン「Mi MIX Fold」も出しており、魅力的なハイエンドモデルも複数展開している。

しかし実際に売れているのはコストパフォーマンスを極限まで引き上げたと言える低価格な「Redmi」シリーズだ。Redmiシリーズは日本でも「Redmi Note 10 JE」が7月に発表されるなど、複数のモデルが販売されている。シャオミによるとRedmiシリーズの中でも上位モデルとなる「Redmi Note」シリーズは2021年4月末時点で全世界の販売量が2億台を超えた。RedmiおよびRedmi Noteシリーズはシャオミ躍進の立役者なのだ。

シャオミによるRedmi Noteシリーズ累計2億台突破のアナウンス
シャオミによるRedmi Noteシリーズ累計2億台突破のアナウンス

Redmi Note 10 JEは日本市場向けに「わざわざ」とも言えるカスタマイズとして、防水・おサイフ・クアルコムチップセットを搭載し、グローバル向けとは異なる独自製品に仕上げた。そのため価格は3万円弱となったものの、5G対応スマートフォンとしては安いほうだ。すでにソフトバンクから発売している「Redmi Note 9T」は同じ5Gスマートフォンながら税抜きで1万円台と、激安価格で売られている。

先進国で5Gの普及が本格化しているが、すでにスマートフォンのスペックは低価格モデルでも日常的に使う分には十分なスペックを搭載している。2Gから3G、3Gから4Gへ移行したときは、新しい世代に対応したスマートフォンは価格が高いものしかなかったが、5Gでは低価格で必要十分な性能を有するスマートフォンが次々と出てきているのだ。中でもシャオミはグローバルで低価格5Gスマートフォンを次々と出しており、先進国の5G市場で存在感を着々と高めようとしている。

新興国向けにはさらに安い4Gスマートフォンを販売している。たとえば「Redmi 9」はインドなどで約1万円で販売中だ。これよりも安いスマートフォンも地場メーカーなどが出しているが、カメラ性能や本体の仕上げ、またアフターサービスなどを総合的に考えるとシャオミに劣る製品が多い。そしてシャオミがここまで安いモデルを出してしまうと、他のメーカーはより低価格な製品で勝負しなくてはならなくなってくる。体力のないメーカーは次々と倒れ、シャオミに取って代わられていくだろう。

中小メーカーを淘汰するRedmiシリーズ(Redmi 9)
中小メーカーを淘汰するRedmiシリーズ(Redmi 9)

ではシャオミは今の戦略のままで世界シェア1位の座につくことができるのだろうか?確かに低価格モデルは世界中で大きな人気になっている。しかし価格の安い製品を出しているのはシャオミだけではない。OPPOのサブブランドから独立したrealme(リアルミー)もまた、コストパフォーマンスの高い製品を出している。

たとえばハイスペックチップセットのSnapdragon 888を搭載した「realme GT 5G」は中国で2599人民元(約4万4000円)で販売中。同じSnapdragon 888を搭載し若干だがスペックが高いシャオミの「Redmi K40 Pro」は2699人民元(約4万6000円)だ。細かいスペックを見るとシャオミRedmi K40 Proが優っているが、単純に「高速チップセット搭載スマートフォン」で比べてみるとrealmeのほうが安いのだ。

冒頭に書いたようにStrategy Analyticsの調査でシャオミはヨーロッパ1位になった。出荷量は前年比67.1%の伸びで、シェアは12.7%だ。しかしrealmeもヨーロッパで急激に伸びており、シェアは1.9%とまだ少ないものの上位5社中5位にはいり、なおかつ昨年からの成長は1800%と桁違いに高かった。ほぼゼロに近いところから存在感を一気に高め、来年以降も出荷量を増やしていくだろう。つまり価格競争、コスパ競争ではシャオミのRedmiの前に、realmeが立ちはだかろうとしているのだ。

realmeがシャオミを抜く勢いで成長している
realmeがシャオミを抜く勢いで成長している

つまりシャオミがRedmiシリーズで出荷量を稼ぐ今の状況を続けていこうとしても、realmeやもしかすると他のメーカーも低価格モデルに注力し、Redmiの勢いを止める可能性は十分にある。すでに世界最安値の5Gスマートフォンはrealmeが出しているし、サムスンは2021年になってから「Galaxy A22 5G」など低価格モデルの5G化を進めている。

シャオミが1位を目指すのであれば、アップルのiPhone、あるいはサムスンのGalaxy Sシリーズなど各社のフラッグシップモデルに並ぶ、「シャオミの顔」と呼べるハイスペックな製品展開を確立する必要があるだろう。時にはコスパを無視しても、世界中の人が「シャオミはすごい」と思うような製品を定期的に出していくことが求められる。「iPhoneにするか、シャオミにするか」と悩む消費者が増えてこそ、シャオミは名実ともに世界1位のスマートフォンメーカーになれるだろう。

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