日本から遠く離れたインド、しかしそのインドから世界に展開されるスマートフォンが生まれている。
ITUの調査によると、2020年のインドの携帯電話総加入者数は中国の約16億9,600万に次ぐ約11億5,400万と、世界2位の数を誇る。だがスマートフォン普及率はまだ7割程度であり、今でもフィーチャーフォンからスマートフォンへ買い替える消費者の数は多い。
インドは今や世界で最もスマートフォン熱が盛り上がっている市場なのだ。
そのインドでは10月に発売になった4Gスマートフォン「Jio Phone Next」が大きな注目を集めている。それは1,999ルピー、わずか約3,060円で発売されたからだ。これだけ安ければ現在フィーチャーフォンを使っている人もスマートフォンへ買い替えようと思うだろう。
ただしこの価格にはからくりがあり、毎月最低300ルピー(約460円)のプランに24か月加入する必要がある。フィーチャーフォンなら最低プランが75ルピー(約120円)なので、スマートフォンに買い替えると基本料金は4倍になってしまう。しかしスマートフォンならTVやラジオの代わりにも使うことができるしカメラにもなる。
Jio Phone Nextはスマートフォンに手の届かなかったインドの消費者のスマートフォンシフトを一気に進めるだろう。

このJio Phone Nextはグーグルも開発に加わっている。また販売は通信キャリアのReliance Jioの独占だ。
グーグルとしてはスマートフォンユーザーが増えグーグルサービスを使ってもらえれば利益が増える。グーグルとしてもこれからスマートフォンユーザーが増える新興国向けの製品は重要と考えており、このJio Phone Nextを共同開発したわけだ。そのためJio Phone Nextは日本など先進国で発売されることはないだろう。
しかし今後アフリカなどで他のキャリアと提携し格安スマートフォンとして販売される可能性はある。日本人の知らないスマートフォンを新興国ではだれもが持っている、なんて時代がやってくるかもしれないのだ。
Jio Phone Nextのスペックは5.45インチ1440x720ピクセルディスプレイに1,300万画素カメラ+800万画素フロントカメラ、3,500mAhバッテリーと確かに価格相応の低い性能だ。とはいえフィーチャーフォンからの乗り換えには十分な性能でもあり、インドのスマートフォン市場で爆発的に売れるだろう。
事実、Reliance Jioは2017年に月額153ルピー、230円の基本料金を払うだけで使い放題となるフィーチャーフォン「Jio Phone」を無料で出し、インドのフィーチャーフォン市場でいきなりシェアトップに立った。人口の多いインドでは爆発的なヒット商品となれば、市場のパワーバランスを一気に変えるほどの数が売れるのである。

インドのスマートフォン市場はシャオミが圧倒的に強く1位であり、そのあとのサムスン、vivo、realme、OPPOが400-500万台で続いている。Jio Phone Nextは初回に500万台の発注がされたという話があり、これがすべて1四半期で売れるとは思えないものの、数百万台が売れればインド国内で存在感を一気に高めるだろう。ただし世界的な半導体不足もあり、Jio Phone Nextを一定期間にどれだけインドで販売できるかは未知数だ。

このJio Phone Nextの話題で持ちきりのインドで、別のホットな新製品が登場している。それは地場メーカーによるインド初の5Gスマートフォンだ。
インドにはMicromax、Lava、Karbonnといった地元メーカーがあるが、これまでは4Gスマートフォンしか投入していなかった。一番の理由はインドではまだ5Gサービスが始まっていないこと。またシャオミなど海外メーカーがすでにエントリークラスの5Gスマートフォンをインド国内に投入しており、すでに厳しい競争が始まっているからだ。
しかしインドでも、現在スマートフォンを使っているユーザーが次の買い替え時には5G対応モデルであることを選択肢の一つにあげており、地元メーカーが生き残るためには5Gスマートフォンを出すことは必須なのである。
Lavaが11月に発売した「Agni 5G」はインドメーカー初の5Gスマートフォンである。チップセットはメディアテックのDimensity 810、メモリ8GB、ストレージ128GB、6.78インチ2460x1080ピクセルディスプレイ、6,400万画素+500万画素+200万画素+200万画素のクワッドカメラ、1,600万画素のフロントカメラに5,000mAhのバッテリーを搭載する。価格は1万9,999ルピー、約3万6,000円だ。シャオミの5Gスマートフォンと比べても十分価格競争力はある。

Lavaは今後インドの5G開始に向けて5Gスマートフォンのラインナップを増やすとともに、現在インド以外に進出しているアフリカ市場にもそれらの製品を投入するだろう。いまやアメリカと韓国を除く世界各国で中国メーカーのスマートフォンの勢いが伸びており、インドメーカーが生き残るためにはコスパに優れた5G製品を積極的に開発し、数が取れる新興国に投入していく必要があるだろう。
さて、インドにはIT製品の製造に特化したEMS(電子機器受託生産サービス企業)やODM(開発・製造受託メーカー)がある。いずれも相手先ブランドの製品に特化したメーカーだ。そのうちの一つ、Dixson TechnologiesはアメリカのOrbicからVerizon向けミリ波対応5Gスマートフォン「Orbic Myra 5G UW」の受注を受けた。つまり5Gスマートフォンを作る技術を持ったインドの生産メーカーもすでに存在しているのだ。

エリクソンの調査によると、インドの通信市場は2026年に4G加入者が現在の6,800万人から8,300万人に増加し、5Gはゼロから3,300万人になると予想されている。つまり4Gは引き続き多くの国民に利用されるネットワークであるとともに、5Gも全体の1/3と都市部などを中心に利用者を大きく増やす。つまりインドではまだ数年4Gスマートフォンの需要が高く、しかし5Gスマートフォンを求める消費者も増加していく。
格安4Gスマートフォンはまだこれからも必要とされる一方、5Gスマートフォンを出さないメーカーは生き残れないだろう。インドのスマートフォン市場は他の国とは違った新製品投入競争がしばらくは続きそうだ。