海外トップ大学の授業が学べるAsuka Academy 第4回「データドリブンの時代が来た」(深澤理事インタビュー)

海外トップ大学の授業が学べるAsuka Academy 第4回「データドリブンの時代が来た」(深澤理事インタビュー)

海外トップ大学のオープン講座をネットで日本語で、無料で学べるAsuka Academy(アスカアカデミー)。このAsuka Academyに関わっている方々のインタビューを通して全6回構成でご紹介する。
第1回はこちら。

これまでに何度か登場しているキーワード「MOOC」とは、Massive Open Online Courses(大規模公開オンライン講座)の略であり、 2012年より米国からスタートし、 世界中で約1億100万人以上が受講している。オンラインでの登録だけで、好きな講座を誰でも無料で、オンデマンド形式で受講できる。
またコース修了認定基準を満たすと修了証が交付され、近年はデジタルバッジ化されてきている。なおJMOOCとは、2013年11月に設立された「一般社団法人 日本オープンオンライン教育推進協議会」のことである。

今回は早稲田大学教授で大学ICT推進協議会の会長でもあり、日本オープンオンライン教育推進協議会副理事長の深澤良彰先生にインタビューを行った。

Asuka Academy 第4回

DXの課題とは

上松:深澤先生がAsuka Academyの理事になられたことは光栄でさらにパワーアップしたと感じております。きっかけはどんなことでしょうか。

深澤先生(以下、深澤):多くの人に小中高、大学生から社会人まできちんとした教育を安価にというのがAsuka Academyの一番の目的であり、素晴らしいと思ったことです。

上松:確かにマッシブ=多くの方々にオープン=無料で安価に届くのが一番だと感じます。これは素晴らしいことですよね。

深澤:実は、私の専門はソフトウェア作りなんです。

上松:深澤先生の専門のお立場では、こういった社会貢献に関わることでどんなことを感じていらっしゃいますか。

深澤:大学では色々な課題がありますが、最近、世の中がかなり変化してきましたよね。DXがキーワードとなって盛り上がってきました。しかしDXの定義は色々ありますし、どうも懐疑的です。
むしろこれからは「データドリブン(データ駆動)」が必要なキーワードではないかと思っています。政府もAI(人工知能)のサイエンティストの養成が大事で、これからはそのようなスキルをつけましょうということも言っています。

上松:データドリブンとはデータ駆動のことですね。

深澤:はい。大学でもデータ駆動教育や研究が大事だと言われてきています。データ駆動教育とは、LMSでデータを集めてその情報をフィードバックし、データに従って評価やアドバイスができるものです。

上松:今の日本のDXの課題は何でしょう。

深澤:DXの定義が十人十色で、皆違う意味で言っているのが問題です。

上松:そうですね。紙をPDFにしたらDX、データを取ったらDX、そのデータを使うことがDXなどと、定義が色々でなんでもかんでもDXといった風潮は確かにありますよね。DXは段階を踏むといった説明を聞いたこともあります。

深澤:そうです。あちこちで使われていますが、そのコンテクストや文脈が違います。経営での話をする人もいればテクニカルの話をする人もいる。そのために国は何を進めているかというと、データサイエンティストを養成することが必要だと言っています。
データを取れても何を抽出すればよいかわからない。データを使える人が必要だと感じます。だからデータドリブンが大事だと感じます。

深澤良彰先生
深澤良彰先生

研究の世界でも必要となっている「データドリブン」

深澤:授業だけでなく、研究の分野でもデータドリブン研究というのがあります。
オープンサイエンスとは、論文の中に「◎◎が10倍になりました」という提示をするだけではなくて、こういう元データを取れたという証拠を論文の中だけではなくオープンな場へ提出しましょうというものですね。オープンデータとなれば、次の研究をする人はそのデータをもらって、データを使って研究をするという考えです。
ある研究者が研究を辞めたけれど、必要となる人はその先の研究をする。それがデータ駆動型、データドリブン研究となるのです。

上松:日本の研究室は大勢の大学の先生がご退官されて研究室を閉じると、研究室まるごとデータを消去してしまうのがもったいないし不思議に思っていました。なぜ何十年にも渡って研究の成果となっているデータまでも消去して辞めていかれる先生方が少なくないのでしょうか。それは日本にとっても世界にとっても損失ですよね。

深澤:データをきちんと溜めて、必要となった人がいればその先の研究ができるのがデータドリブン型の研究ですよね。これが難しいのは、大学の先生の考え方かもしれません。若い頃からの研究のやり方、自分がやめたら自分もデータはいらないだろうと思う先生がまだいるのだと思います。つまり、先生方のメンタリティにもあるかもしれません。

上松:非常にもったいないですね。

深澤:教育データも同じですよね。LMSに溜まっているデータをいかに広く集めて、分析し、皆で使っていくかということが大事ですね。

研究プロセスの変革:データ駆動型研究のススメ

データサイエンティストのマインド育成も重要

上松:深澤先生の仰せのように、データありきの時代ですから政府もデータサイエンティストの必要性は感じていると思います。しかしデータの分析以前に、まずはどんなデータを抽出するか。その切り取り方法には社会を知り、社会学的な物の見方、考え方やその背景を見ることなど、色々な幅広い知識が必要なのではと感じています。

深澤:そうですね。両方が必要です。もちろん統計学を知らなければならないのでこれは手段として必要だと思いますし、広い意味では、社会的にどういう意味があってどうして分析しなければならないか、っていう方も重要です。つまり両方ないとダメだと思っています。

上松:いかに大事なデータだとわかっていても分析方法を知らなければだめですね。

深澤:はい。それと、やはり分析方法だけわかっていてもそれをどういう風に使うかわからないとダメなんです。例えば、絵心という言葉がありますよね。絵を描くときに筆や絵の具を用意するだけでなく、絵心をもって物事を見ることが必要だと思います。
それと同じように何が必要かというと、データサイエンティストマインドが必要ですね。あ、絵心に対称させると、データサイエンス心を養う必要があります。

3番目の要素としては、社会的なニーズに対してどうやって分析すればよいかということが大事なんですね。
実際、統計などは大学に行っても勉強できる。でも絵心とかデータサイエンスマインドというのは急には養成できない。子供の頃からそういうマインドを養成していかないと、片寄ったデータサイエンティストだけになってしまうことを懸念しています。Asuka Academyの講座は心を養う、マインドを養うための道具としても有効ではないかと思っています。

上松:同感です。分析するように言われたままにやってスキルだけついてもしかたないということですよね。

深澤:大学入試なども偏差値という統計的な手法を使っていますよね。マインドを見ることも大事だと思います。日本の特徴はいくつかあります。例えば、日本の場合、高等教育が簡単に受けることができる。それなりに収入もあり無償化や奨学金もあります。一方で、まだまだ終身雇用があります。

上松:定年まで右肩上がりでお給料が上がっていくという大企業もまだありますね。

深澤:はい。そうすると勉強しようとするモチベーションがあがらない。
アメリカなどは雇用の流動性があり、動こうとするとそれなりの知識が必要となってきて勉強するモチベーションが高いことがあります。日本のように1つの会社でずっと勤めるというのは違います。
MOOCなどのスキルアップに繋がる教育にとってはマイナスのファクターですが。

上松:海外ではニーズに応じて自分の知識やスキルアップとして受けていますが、日本だと教養になるといった目的での受講もありますね。AIなどの分野もそうですが、日本においても更新すべき新しい知識を必要とするので学び直しは必要ですよね。

深澤:学び直しをしようとする人はOECD諸国と比べれば少ないのが現実です。

上松:イギリスとアメリカはすごい数ですし、全体でも1億人を超しているんですね。

深澤:学校の先生方も学び直しは大事ですね。会社を移動しなくてもジョブ型人事というのがあるので、それは今後期待したいと思っています。あとはMOOCで学んだことを大学や企業が評価してくれないといけないと思います。この点は大事だと思います。

上松:Asuka Academyのオープンバッジなど、就職の時に見てもらえて有利になると良いですね。

深澤:就職した後でも見てもらえると良いですよね。

上松:就職後も給料体系に反映されるともっと良いですよね。教育学で授業に生かせる知識として博士号を取っても高校の教員の給料には反映されなかったです。

深澤:そこは変わらないとダメだと思っています。
大学のIT環境の現状も踏まえて、これからの時代の教育を考えていく必要があると思います。

上松:大学ICT推進協議会会長のお言葉、とても重みがあります。今日はどうもありがとうございました。

大学におけるIT環境の各要素の現状

深澤 良彰 氏 プロフィール
早稲田大学教授。大学ICT推進協議会(AXIES)会長のほか、日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC) 副理事長、情報処理学会 企業認定審査委員会 委員長、実務能力認定機構(ACPA) 理事長、国立情報学研究所 運営会議 副会長、CAUA 会長、文部科学省 情報委員会 主査代理 を務める。
また文部科学大臣表彰のほか、下記を受賞。
・2020 2nd International Conference on Computer Communication and the Internet (ICCCI), Best Presentation Award
・第16回日本e-Learning大賞 IT人材育成特別部門賞
・情報処理学会 コンピュータサイエンス(CS)領域功績賞
・情報処理学会 ソフトウェア工学研究会 卓越研究賞
・IMS Japan賞 特別賞
・日本工学教育協会 工学教育賞 など

Asuka Academy 理事

【会長】大久保昇(株式会社内田洋行 代表取締役社長)
【理事長】岸田徹(株式会社ネットラーニング 代表取締役会長)
【理事】青木久美子(放送大学 教授)
【理事】上松恵理子(武蔵野学院大学准教授)
【理事】加來賢一(株式会社クリエイティヴ・リンク ディレクター)
【理事】重田勝介(北海道大学情報基盤センター 准教授、OE Japan 代表幹事)
【理事】深澤良彰(早稲田大学 理工学術院 教授、大学ICT推進協議会 会長、JMOOC 副理事長)
【理事】堀田一芙(株式会社内田洋行 顧問、株式会社オフィスコロボックル 代表取締役社長)
【理事】村上憲郎(株式会社村上憲郎事務所 代表取締役 (元Google Japan 代表取締役社長))
【理事】山本忠宏(株式会社マークアイ取締役 COO)
【事務局長、常務理事】中村久哉(株式会社ネットラーニング 品質管理部 部長)
【監事】岸田敢(株式会社ネットラーニングホールディングス 代表取締役会長兼社長)

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