6G技術の研究も続けている

スマホ撤退から1年、6Gや自動運転、ロボットに注力するLG|山根康宏のワールドモバイルレポート

LG(LGエレクトロニクス)は2021年7月31日でスマートフォン事業から完全に撤退した。
撤退直前までの累積赤字は日本円で約4500億円。家電のスマート化が進む中で、中心的存在となるはずのスマートフォンを手放さなくてはならないほどLGは競争力を失っていたのだ。

だが撤退によりリソースを主力事業に注力したことで、LG全体の事業は好調だ。2022年第1四半期の売り上げは21兆1114ウォン、営業利益は1兆8805億ウォン。第2四半期はそれぞれ19億4640億ウォン、7922億ウォンだった。
新型コロナウィルスの感染が再び拡大傾向となり、ロシア・ウクライナ問題や半導体不足など市場の先行きが見えない中で、お荷物となるスマートフォン事業を早い時期に手放したことは正解だったようだ。

LGの製品の中で好調なのが家電部門だ。特にヨーロッパなどで展開している高級家電ブランド「Signature」は高デザイン、高品質であることはもちろんのこと、性能も高くスマート機能を持つ製品も多い。Signature人気はLGの家電全体のブランドイメージも高めており、老舗メーカーやサムスンなどが争うヨーロッパ市場で高い存在感を示している。今では他の家電メーカーもプレミアム家電を投入しており、この新しい市場はLGが生み出したと言っても過言ではない。

LGの高級家電ブランド「Signature」
LGの高級家電ブランド「Signature」

世界初の巻き取り式ディスプレイを採用した「ローラブルTV」もLGはSignatureブランドで販売している。Signatureは冷蔵庫やオーブン、洗濯機などいわゆる「白物家電」を中心に展開しているが、ローラブルや8K TVなどのいわゆる「黒物」ラインナップも増やしている。
スマートフォンはこのどちらにも属さない製品だが、LGのスマートフォンはハイエンドよりもミドルレンジ以下のモデルが売れ筋であり、LG家電の高級なブランドイメージとマッチしない状況だった。ブランド力アップのためにもスマートフォン事業撤退は正解だったといえるだろう。

LGはまたデザインに特化した家電を「Object Collection」として展開を始めた。高級家電とデザイン家電という2つのラインナップのターゲットユーザーは高価な製品でも気に入れば購入するという層でもあり、このObject CollectionもLGの利益を引き上げてくれる存在になるだろう。
最新のObject CollectionはスタイリッシュなTVで、世界最大のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」(2022年6月開催)で発表された。なおLGのTVはWebOSを搭載したスマートTVであり、Netflixなどの動画サービスの利用やスマートフォンやPCの接続、そしてスマート家電のハブとしても使うことができる。

Object CollectionのTV「Easel」。絵画をたてかけるイーゼルをモチーフにした
Object CollectionのTV「Easel」。絵画をたてかけるイーゼルをモチーフにした

さてLGは他にも自動車分野へも取り組んでいる。車内でエンタメを楽しんだり情報を自在に入手できる「コネクテッドカー」や、自動運転を見越した「スマートカー」分野を強化するため、VS事業部(Vehicle component Solutions)を2018年に立ち上げている。2022年上半期にはインフォテイメントやパワートレインで8兆ウォンの受注を確保。顧客にはメルセデスベンツやルノーグループ、ゼネラルモーターズを抱えており、今後さらなる成長が期待できる。

また5月にはIEEE国際カンファレンスで6GとAiを活用したコネクテッドカーソリューションを紹介した。テラヘルツ帯を使ったSoft V2X、周波数効率を高める全二重無線送受信技術などスマートフォン事業は撤退したものの関連特許は保有したままであり、次世代通信の研究も引き続き継続しているのである。
他には未来のモビリティソリューションのコンセプトモデルである自動運転自動車の「LG OMNIPOD」を開発。車内をディスプレイで覆い、TV会議で利用したり環境ビデオを流したり、あるいはフィットネスプログラムを流して移動中に運動することもできる。移動空間を移動の場所ではなく生活やワークスペースの延長として利用できるのだ。

6G技術の研究も続けている
6G技術の研究も続けている

さらにLGが注力している分野がロボティクスだ。配膳ロボットや荷物の運搬用ロボットに加え、アシスタントサービスを行うロボットも開発。韓国の仁川国際空港でLGのロボットが多数配置されており、乗客が航空券のQRコードをかざすと出発情報や搭乗口を教えてくれるアシスタントロボットや、搭乗口でQRコードを使いスマートフォンで軽食を注文するとその場までハンバーガーやコーヒーを届けてくれるロボットが使用されている。
ロボットの開発にはAIはもちろん5G、6Gといった通信技術も必要であり、自動運転など次世代自動車と開発の方向性は類似している。

仁川空港で利用されているLGの配達ロボット
仁川空港で利用されているLGの配達ロボット

スマートフォン撤退後のリソースをこれらの分野に転換することでLGの存在感は今後ますます高まっていくだろう。また高級家電が力をつければ、Signatureの製品種類も広がっていくだろう。数年後には高級スマートフォン「Signature phone」をひっさげ再びスマートデバイス市場に再参入する、そんな夢も見たいもの。技術力は十分あるだけに、その日が来ることを期待したい。

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