日本各地で展開されているフリーWi-Fiの廃止が2022年に入ってから相次いでいる。
セブン&アイ・ホールディングスの「セブンスポット」が3月末に、東京メトロの「Metro_Free_Wi-Fi」が6月末に、そして7月末にはファミリーマートの「Famima_Wi-Fi」がサービスを終了した。
元々は訪日外国人もターゲットにしていたこともあり、現在の状況では利用者見込めないからだろうか。またフリーWi-Fiの導入は集客増を狙ったものだったかもしれないが、滞在時間が短いコンビニでいちいちフリーWi-Fiに接続するのも面倒なものだ。コンビニWi-Fiの利用者数は多くなかったのかもしれない。
とはいえ今ではフリーWi-Fiはほとんどの飲食店にあるし、商業施設でも多くのところで利用できる。滞在時間の長い場所ならばフリーWi-Fiの利用者は当然のことながら多いだろう。コンビニなどのフリーWi-Fi撤退はユーザーニーズにマッチしなかったからであり、今後日本中からフリーWi-Fiが消える、なんてことにはならないだろう。

一方海外では韓国が古くからフリーWi-Fiに力を入れている。スマートフォンのデータ定額サービスが始まったころでも低所得者を中心にフリーWi-Fiの需要は高かった。また韓国を訪れる外国人にとってはフリーWi-Fiは便利なサービスであり、高価なローミング代を払わずともネットにアクセスできるとあって普及は進んでいった。
このあたりは今から10年くらい前、「日本にはフリーWi-Fiが無く旅行者が困っている」といった議論にもつながっていた。しかし今では日本でも十分な数のフリーWi-Fiが展開されている。
さてそんな韓国では2019年に5Gサービスが開始すると、通信料金は4G時代より引き上げられた。その結果高価なデータ定額プランではなく10GBなど低利用プランを利用する人がさらに増えた。また5Gの速度が不要なユーザーは安価なMVNOサービスへの加入が相次いだ。韓国のMVNO利用者数は現時点で約1100万人、韓国の全加入者数は約7300万人なのでMVNOの比率は約15%になる。ちなみに日本のMVNO率は10%弱だ。
このようにデータ通信非定額プランの利用者やMVNOの低データ容量プラン加入者にとって、街中で利用できるフリーWi-Fiは必要不可欠なサービスとなっている。そこで韓国政府は政府提供の公共フリーWi-Fiのホットスポット数拡大や通信速度の向上を開始している。

韓国政府が提供する公共Wi-Fiサービスは全国7万2000か所に展開している。現在はバックボーンに4G回線を使っているため通信速度は最大でも100Mbpsとのこと。今後順次バックボーンを5G回線に切り替えることで通信速度を今の3-4倍、すなわち300-400Mbpsに引き上げる予定だ。
それでは韓国の公共Wi-Fiはどのような場所に設置されているのだろうか?
意外なことに、全国各地の市内バスに公共Wi-Fiが設置されているのだ。通勤通学で利用するバスの車内では誰もがスマートフォンを使っており、乗車時間も長いためWi-Fiは積極的に利用されているのである。
なお韓国の地下鉄には通信キャリアがフリーWi-Fiを飛ばしている。韓国の市内バスの総台数は2万9000台で、そのうち4千200台の公共Wi-Fiのバックボーンが7月1日に5Gに切り替えられた。残りのバスも2023年中にすべてアップグレードが行われる予定だ。

またバス停や公共施設、たとえば図書館、市場などにも公共Wi-Fiが設置されている。今後は設置場所を1万か所増やし、8万2000か所に広げる予定だ。
韓国は国内ネットワークの高速化を早くから進めており、今回のアップグレードでもWi-Fi 6Eを導入している。Wi-Fi 6Eは従来の2.4GHz、5GHzに加え6GHzの電波も利用することで通信速度アップと同時多接続時の安定性向上を両立している。また公共Wi-Fiのうち2000か所は最大10Gbpsの超高速ネットワークに対応させる予定だ。接続条件が良ければスマートフォンの5G回線よりも快適な速度を無料で利用できるようになる。
公共のフリーWi-Fiを韓国政府が時代に合わせてアップグレードする理由は、既存のサービスがすでに国民の半数以上に日常的に利用されている公共インフラ化しているからである。韓国では2010年代前半に低所得者向けのMVNOサービスの拡大を行った。大手通信キャリアは自社インフラの一定容量をMVNOに割り当てることが要求されている。家計に占める通信費が年々高まる中で、MVNOや公共Wi-Fiの強化は国民のネットワーク接続を容易にし、デジタルデバイドの解消にもつながる政府の施策でもあるのだ。

さて日本の状況を見ると、教育、観光、災害時の緊急利用用途として「日本再興戦略2016」に基づき2020年までに全国3万か所への公共Wi-Fiの設置が計画された。また訪日観光客向けに「Japan.Free Wi-Fi」も整備されている。これらは国民が日常的に使うものというよりは教育や災害、そして観光客向けのものだ。
日本ではカフェや商業施設などのWi-Fiが日常的に利用されており、企業がフリーWi-Fiを敷設するのが一般的である。日本は韓国ほど国民所得の差は広くなく、フリーWi-Fiは公共インフラとしての需要は少ない。また両国の情報通信基盤整備政策の差の表れでもあるだろう。とはいえ先日のauの大規模障害の例を見るまでもなく、大規模な障害や災害時のインフラとして、今後は政府主導の公共Wi-Fiの整備も検討すべきだろう。