シャープの「AQUOS R7」やシャオミの「Xiaomi 12S Ultra」がデジカメサイズの1インチカメラセンサーを搭載したり、モトローラが世界初の2億画素カメラ搭載「moto Edge 30 Ultra」を出すなど、スマートフォンのカメラの進化はまだまだ止まらない。画質アップだけではなくvivoの「Xシリーズ」やASUSの「Zenfone 9」は光学手振れ補正よりも強力なジンバル機能を搭載し、手持ちでも手振れ知らずの強力な動画撮影機能を搭載している。
もはやスマートフォンのカメラはデジカメのみならず、ストリート動画などを撮影するアクションカメラの分野にまで進出しようとしているのだ。

だがスマートフォンのカメラの進化はそれだけに留まらない。誰もが背面のメインカメラの性能に注目しているが、フロントカメラの性能も急激に高まっているのだ。
スマートフォン黎明期はフロントカメラの無い製品もあったし、その後もフロントカメラはおまけ程度のものが多かった。だがOPPOやvivoなどがアジアやインドのセルフィーブームを追い風にフロントカメラ性能を次々と高めていき、製品によってはメインカメラよりフロントカメラのほうが高画質、というモデルまで出てきている。
そんなフロントカメラの進化がこの1年でさらに加速化しているのだ。
ファーウェイの「nova 10シリーズ」のフロントカメラは6000万画素で、他社が5000万画素のメインカメラを搭載するモデルを多く出す中、nova 10のフロントカメラのほうが高画質なのである。

nova 10もメインカメラは5000万画素+800万画素+200万画素で、フロントカメラのほうが性能が高い。6000万画素もあれば若干暗い室内でも明るく顔を写してくれるだろう。そしてもちろんフロントカメラでも4Kの動画撮影に対応しており、動画性能にも優れている。フロントカメラでそこまで高画質なビデオ撮影が必要なのは、TikTokのブームを受けYouTubeやインスタグラムも縦型動画に注力しているからだ。見る人も増えれば動画コンテンツを作る人も増えており、皆がこぞってフロントカメラで動画を撮影するようになった。
また一方ではリモートワークやリモート授業が増え、より自分の顔をはっきり・きれいに写したいためにスマートフォンのフロントカメラを使う人も増えている。そもそもPCのフロントカメラは今でも画質が低いものが多く、WEBカメラを接続している人も多い。だがスマートフォンならたとえば外出中や移動中でもちょっと会議に参加する、なんてことも簡単にできる。
nova 10ほどではないにせよ、5000万画素クラスのフロントカメラはHonorの「HONOR 70 Proシリーズ」やvivoの「V23 5G」などもある。V23 5Gは瞳フォーカスを備えているし、HONOR 70 ProはフロントカメラでAIによるジェスチャー対応やVlogモードを搭載。どちらもフロントカメラの動画対応を製品特徴の一つにしている。

他のメーカーはまだフロントカメラの画質が高くとも3000万画素クラスに留まっている。これはスマートフォンの開発、製造コストを考えるとフロントカメラにまで手が回らないということもあるが、メインカメラ性能を強化して最高のカメラを搭載することに注力しているという背景もある。また3000万画素クラスのフロントカメラでも現状は十分という考え方もあるだろう。
ところでフロントカメラの画質を手っ取り早く引き上げる方法として、背面のメインカメラを回転式にするなどしてそのままフロントカメラとして使う、という機構の搭載も有用だ。
ASUSは2019年にメインカメラ部分がフロント面に180度回転し4800万画素のメインカメラをフロントカメラとして使える「ZenFone 6」をリリース。2020年の「ZenFone 7」、2021年の「Zenfone 8 Flip」では6400万画素まで引き上げられ、現時点でフロント側で使えるカメラ画質としては最高の性能を有している。

一方サムスンも本体上部が引きあがり、4800万画素のメインカメラが反転してフロントカメラになる「Galaxy A80」を2019年にリリースしている。奇しくも2019年はメイン・フロントカメラ共有モデルが2社からそろい踏みしたのだった。
だがサムスンはその後A80の後継モデルは投入していない。ASUSも2022年モデルのZenfone 9は小型ボディーにジンバルカメラのスマートフォンで、カメラ回転式となるZenfone 8 Flipの後継機、「Zenfone 9 Flip」は登場しなかった。その理由の1つはどちらもカメラを共用できることを消費者にアピールしきれなかったことがあるだろう。そもそもカメラが回転するというギミックが一般的ではないため、メインカメラをフロントカメラとして使えるということをしっかりと説明しなくては理解してもらえなかったことだろう。

そしてもう1つ、実はこちらが最大の理由かもしれない。それはモーターでカメラを動かすギミックの搭載にはコストがかかるということである。さらに可動部分があることから故障率も高くなり、アフターケアコストも余計にかかる。コストを考えると回転式カメラの搭載に踏み切るメーカーは今後なかなか出てこないと思われる。そしてファーウェイやvivo、HONORが高画質フロントカメラを搭載しており、それに追従するメーカーがこれから出てくることだろう。
最後にフロントカメラの高画質化を変わった形で実現したスマートフォンもあった。nubiaの「Z20」だ。Z20は4800万画素のメインカメラを搭載しているが、フロントカメラは搭載していない。それではどうやって自分自身をフロントカメラで撮影するのかというと、本体をひっくり返せばよいのだ。実はZ20は裏側もディスプレイになっている「両面スマホ」なのだ。裏側のディスプレイをONにすればメインカメラをフロントカメラとして使うことができる。

メインカメラの最近の動向として、5000万画素カメラをメインだけではなく超広角や望遠にも搭載するなど「オール高画質カメラ」搭載モデルが増えてきた。そうなると他社品との差別化のために、いずれ各社横並びでフロントカメラの高画質化も一気に進めてくるに違いない。そしてスマートフォンの使い方も「メインカメラよりフロントカメラを使う」という若い世代が増えてくるかもしれない。そうなればフロントカメラも今の画質では物足りなくなる。スマートフォンのカメラはまだまだ進化が続くのだ。