インドはいまだにフィーチャーフォンも売れている。ノキアの製品の人気も高い

変革を迎える世界第二のスマホ市場、インドの今はどうなっているのか|山根康宏のワールドモバイルレポート

世界のスマートフォンの出荷台数で中国に次ぐ2位のインドでは、中国メーカーの存在感が大きく目立っている。しかしインド政府はその動きに歯止めをかけたいようだ。
サイバー メディアリサーチ (CMR)の調査によると、2022年第1四半期のインドのスマートフォン出荷量は1位がシャオミで24%、2位がサムスンの19%、以下realme 15%、vivo 14%、OPPO 8%と続く。ちなみにrealmeとOPPOはグループ企業なので両者を合わせると23%となりサムスンを抜いて2位となる。上位5社のうち中国メーカーだけで約7割のシェアだ。そしてこれら上位5社以下のシェア20%をアップルやOnePlus、地場メーカーなどが奪い合っている。

インドでシェア1位のシャオミ。4G低価格スマホ「Redmi」シリーズが受けている
インドでシェア1位のシャオミ。4G低価格スマホ「Redmi」シリーズが受けている

アップルは製品価格帯が高いためインドの高級スマートフォン市場ではシェアトップだが、全体の販売台数では全く存在感を示していない。また地元メーカーもブランド力で大手に勝てない状況だ。格安料金の通信キャリアと超激安端末を展開しているインドのコングロマリット企業、リライアンスがグーグルと協業した4499ルピー(約8000円)の格安スマホ「JioPhone Next」も市場での反応は思わしくない。価格は安いものの、あとわずかの金額でより高性能なシャオミなど中国メーカーの低価格スマートフォンが購入できるからだ。

1万円を切る格安スマホのJioPhone Next。低価格だがインドでの人気は今一つ
1万円を切る格安スマホのJioPhone Next。低価格だがインドでの人気は今一つ

実はリライアンスは2017年に無料のフィーチャーフォン「JioPhone」を発売、2018年には一気にインドのフィーチャーフォン市場でシェアトップに躍り出た。しかしスマートフォンは価格を下げてもそこまでの人気にはならなかった。通話とSMSしか使わない単機能フィーチャーフォンは価格が重要視されるが、カメラや画面サイズが重要なスマートフォンでは人々は「価格もさることながら、性能も」とコスパを求めるのだ。

JioPhoneが2017年に人気になったことからわかるように、インドではまだまだフィーチャーフォンの需要がある。とはいえ中国メーカーを中心に低価格なスマートフォンが増えてきた結果、インドのフィーチャーフォン市場も年々縮小傾向となっている。同じくCMRの調査によると、2022年第1四半期のフィーチャーフォン出荷台数は前年同期比で43%も減少したとのことだ。

インドのフィーチャーフォンのマーケットシェアは1位がItelで23%、2位がLavaの22%。そして3位がサムスンの15%、4位HDM Global(ノキア)で8%、5位Karboon 3%となっている。残りの29%はそれこそ無名メーカーなどがひしめき合っている。

インドはいまだにフィーチャーフォンも売れている。ノキアの製品の人気も高い
インドはいまだにフィーチャーフォンも売れている。ノキアの製品の人気も高い

このフィーチャーフォンの市場は縮小傾向とは言え製品の製造コストは安く、ある程度数を出せば利益の出るビジネスだ。しかしサムスンはインドのフィーチャーフォンから撤退することを決定した。今後サムスンはスマートフォンのみに絞りインドで事業展開する予定だという。なおインドで販売中のサムスンのフィーチャーフォンは地場のEMS(電子機器製造受託メーカー)、Dixonが製造しているインド製だ。

サムスンがフィーチャーフォン撤退を決めた理由は5Gスマートフォンの販売数が好調だからだ。インドはまだ5Gサービスはテスト段階だが、各メーカーはグローバルで販売している5Gモデルも投入している。まだ多くの国民が4Gスマートフォンを使っているのが実情だが、2022年の第1四半期のインドのスマートフォン出荷台数は前年比1.6%と微増であったのに対し、5Gスマートフォンだけを見ると300%と大きく伸びた。インドの消費者の関心はすでに5Gモデルに移っているのだ

そして5Gスマートフォンの出荷台数だけを見ると、サムスンが23%でシェア1位、2位シャオミの18%に5ポイントの差をつけている。サムスンとしてはここで低価格5Gスマートフォンを一気に投入し、たとえフィーチャーフォンユーザーを切り捨ててでもスマートフォン全体の出荷台数を増やしシャオミに奪われた1位の座奪回に動こうとしているわけだ。

日本で販売中のサムスン「Galaxy M23 5G」。Mシリーズも元々はインド向けの製品だ
日本で販売中のサムスン「Galaxy M23 5G」。Mシリーズも元々はインド向けの製品だ

なおインドでは低価格モデルに人気が集まっているものの、お手軽価格帯である7000ルピー(約1万2000円)以下の製品出荷量は減少している。ところがプレミアム価格帯となる2万5000ルピー(約4万2000円)以上の端末は6割増と大きく伸びているのである。つまりインドでもより高価格なスマートフォンを購入しようとする層が増えているのだ。なおサムスンは今後1万5000ルピー(約2万5000円)のスマートフォンを投入して低価格帯を拡充するとともに、より高価格なモデルも展開していく予定だ。

このサムスンの動きに対して中国メーカーは新製品の数を増やして対抗しようとしている。しかしインド政府は2022年に入ってからシャオミ、vivo、OPPOに対して脱税などを行ったとして罰金を課した。インド政府は2020年に中国のアプリ複数をセキュリティーの懸念からインドでの流通を禁止。世界的に人気のTikTokやモバイルゲームのPUBG Mobileはインドでは利用できない。中国製のサービスを禁止する次は、ハードウェアであるスマートフォンのこれ以上のシェア拡大を抑えようとしているように見える。

だがインドの国民にとって今や中国メーカーのスマートフォン無しでの生活は考えられない。そもそも代替となるべき地場メーカーの製品は品質や性能、価格で中国メーカーに敵わないのだ。

インド政府と中国メーカーの駆け引きがはじまっている
インド政府と中国メーカーの駆け引きがはじまっている

中国メディアの報道を見ると、ファーウェイから独立したHonorはインド事業を縮小・撤退する考えがあるという。同社はまだインドでのシェアは低いものの、今後同社にも脱税の疑いの目が向けられる恐れがある。
中国メーカー各社はインド政府を刺激しないようにどのように拡販を行っていくか、難しい判断や駆け引きが求められるだろう。

インドはいまだにフィーチャーフォンも売れている。ノキアの製品の人気も高い
最新情報をチェックしよう!