紙を使うことを減らすペーパーレス化への動きは10年以上前から始まっているが、実際のところまだまだ紙は無くならない。しかしアマゾンがペン入力対応の電子ブックリーダー「Kindle Scribe」を発表。タブレットに押され気味の電子ペーパー端末がペン対応したことで、ペーパーレス化が一気に進むかもしれない。

すでにアップルの「iPad Pro」などはペン入力に対応しており、会議の議事録をメモしたり、PDFに修正を入れるといった用途に使われている。もちろん本格的なイラストを描くことも可能だ。
アップル以外でもサムスンやファーウェイのタブレットはペン入力対応のものも多く、Windowsタブレットからも多数のペン入力対応モデルが登場している。もはや「大きい画面の端末を紙として使う」ことは当たり前のようにできるようになった。
一方、スマートフォンの画面サイズが年々大型化していることで、アマゾンのKindleに代表される電子ブックリーダー端末は中途半端な存在になりつつある。特に電子ペーパーを採用したモノクロディスプレイの製品は、電子ブックリーダー以外の使い道は限られている。読書に特化した端末かつ安価な価格を求めるユーザーには魅力的な製品だろうが、今のスマートフォンの大きい画面サイズならば電子ブックを読むのも苦にはならない。またアマゾンもカラーディスプレイのタブレット端末を出していることからわかるように、スマートフォンにプラスしてもう1台買うならば、動画も視聴できるカラータブレットを購入したいと考える消費者も多いだろう。

とはいえモノクロの電子ペーパーにもメリットはある。最大の特徴はディスプレイが光らないため、目にやさしいという点だ。液晶にしろ有機ELにしろディスプレイが光を発するため、長時間使うと目が疲れてしまう。一方電子ペーパーは紙と同じ原理であり、ディスプレイに太陽光や室内光が当たることで、人間の眼は表示を見ることができる。暗いところでは見えなくなるがそれを補うためにフロントライトを内蔵し、ディスプレイを裏から照射するのではなく、上(実際は横)から光を当てて見えるようにしている。紙の書籍は暗闇では読めないが、電子ペーパー端末は表示を見ることができるのだ。
しかし電子ペーパーのメリットがあったとしても、多くの人はプラスアルファの性能があるカラータブレットを選ぶだろう。そうなれば電子ペーパー端末の販売数も今後は減少してしまうだろう。
そこでアマゾンが繰り出した秘策が電子ペーパー端末であるKindleのペン入力対応だ。電子ブックリーダーに過ぎなかったKindleをKindle Scribeに進化させたことで、紙のノートとして使うことができるようになる。

Kindle Scribeでは読んでいる書籍にメモを書いて付箋として貼り付ける機能も備えている。だが実際にこの機能を使う人はそれほど多くないと思われる。むしろノート機能を使い手書きで自在に文字入力できる機能に魅力を感じる人がいるのではないだろうか。またPDFやWord文書などへの書き込みも可能なので、ビジネス用途にも十分使える。もちろんiPadなどでも同じことができるが、目にやさしい画面に加え、電子ペーパーならではの電池の持ちの良さもあれば、紙のノートやメモ帳代わりにKindle Scribeをかばんに入れておくビジネスパーソンも増えるかもしれない。
すでにペン対応タブレットを販売しているファーウェイも、新たに電子ペーパーを搭載した電子ブックリーダー「MatePad Paper」を販売しているが、こちらもペン入力に対応している。ファーウェイはモバイルデバイス事業そのものに苦戦しているが、新たなユーザー層を拡大するためにビジネスツールとしてMatePad Paperを投入したのだろう。電子ブックリーダーではアマゾンに勝つことは難しいが、ペン入力できるオフィスツールなら企業への一括導入も期待できるだろう。

電子ブックリーダー大手のBOOXも上位モデルはペン入力対応だ。こうしてみると電子ペーパーの用途は「書籍を読む」から「文字を書く紙の代わり」へと進化が進んでいるのだ。
とはいえペン入力対応電子ペーパー端末の普及には大きな障壁がある。それは価格だ。アマゾンによるとKindle Scribeの価格は4万7980円。MatePad Paperは6万4800円。BOOX Note Air2は6万7800円だ。電子ブックリーダーだけの電子ペーパー端末が1万円程度で買え、また5万円も出せばペン対応タブレットが買えない価格でもない。ペン対応電子ペーパー端末は価格をあと2-3割は安くしてほしいところである。
ところでPDFに書き込みができると言っても、白黒ではなくカラーのPDFとなると電子ペーパー端末ではお手上げとなる。ところが今ではカラー対応の電子ペーパー端末も登場しており、電子ペーパーの不得意だったカラー表示もある程度できるようになってきた。BOOXの「Nova Air C」は7.8インチとやや画面サイズは小さいが、5万9800円でカラー表示とペン入力に対応している。動画の視聴には適していないものの、校正用途などオフィス作業なら対応できる。今後はカラー電子ペーパーの普及も進んでいくだろう。

来年以降、アマゾンやファーウェイから第二世代、第三世代となるペン対応の電子ペーパー端末が登場し、価格も下がっていけば紙のノート代わりに購入する人も増えるだろう。各メーカーにはぜひがんばって価格の引き下げに取り組んでもらいたい。また企業、あるいは国がSDGsの推進のために電子ペーパー端末の購入を補助する、なんて働きかけも欲しいものだ。