モトローラのコンセプトローラブルスマートフォン。縦に収縮する

再び脚光を浴びる「ローラブルスマホ」、登場は2025年?|山根康宏のワールドモバイルレポート

スマートフォンを両手で持ったまま、ディスプレイが左右または上下に伸びて大きくなるという巻き取り式のディスプレイを搭載する「ローラブルスマートフォン」が再び注目を集めている。モトローラが10月18日に海外で開催された「Lenovo Tech World 2022」でローラブルスマートフォンのコンセプトを発表したからだ。またそれに先立つ9月28日にはインテルが開催した「Intel Innovation Day 2022」でサムスンディスプレイがノートPC向けの17インチのローラブルディスプレイを披露した。なおサムスンは「スライダブルディスプレイ」と呼ぶが、伸び縮みするディスプレイは本体側に巻き取られるので、これも構造的にはローラブルディスプレイである。

サムスンディスプレイの17インチ・スライダブルディスプレイ
サムスンディスプレイの17インチ・スライダブルディスプレイ

ローラブルディスプレイが市場で話題になったのは2021年の年末年始以来だろう。2020年11月にOPPOは世界初のローラブルスマートフォンのコンセプトモデル「OPPO X 2021」を発表。2021年1月にはラスベガスで開催された「CES 2021」でLGがローラブルスマートフォンをティーザー広告で見せた。しかしLGが同年4月にスマートフォン事業からの撤退を発表、OPPOからもアップデートは無く、ローラブルスマートフォンは夢に消えたかに見えた。

その一方でLGは2021年7月に世界初のローラブルTVLG SIGNATURE OLED R」をアメリカなどで発売したが、価格は10万ドルと非常に高価でありそれほど大きな話題にはならなかった。発売時の為替レートで計算すると価格は約1100万円であり、巻き取り式のディスプレイという最新技術にここまでの金額を投資できる消費者も多くは無かっただろう。LG SIGNATURE OLED Rのディスプレイサイズは65インチとそれなりに大きいものの、高画質な80インチTVなどより大型で安価なTVと競争できるものではなかった。

世界初のローラブルTVはLGから登場した
世界初のローラブルTVはLGから登場した

ローラブルTVはタッチパネルではなく、また大型であることからディスプレイの収納部分には隙間を残して埃などが表面に付着してもモーターでスムーズにディスプレイを巻き取ることができるようにしている。一方スマートフォン用のローラブルディスプレイはタッチ操作に対応する必要がある上に、ポケットやかばんの中に入れることもあることからディスプレイのすき間に髪の毛のような細い異物でも入ってしまれば動作不良やディスプレイの表面に傷をつけてしまう。製品化は折りたたみスマートフォンのフォルダブルディスプレイよりも困難だろう。

スマートフォンのディスプレイを折り曲げることのできるフォルダブルディスプレイは2013年にサムスンがコンセプト映像を発表し、それから5年かけて2018年にようやく製品が披露された(スマートフォンとしての製品化は翌2019年)。そう考えるとローラブルスマートフォンの登場にも同じくらいの時間がかかるのかもしれない。つまりローラブルスマートフォンの登場は早くても2025年くらいになるかもしれない。

ところでモトローラはなぜ今になってローラブルスマートフォンのコンセプトを発表したのだろうか。それはスマートフォンの大型化や折りたたみスマートフォンへの注目度が高まっていることと関係していそうだ。

モトローラのコンセプトローラブルスマートフォン。縦に収縮する
モトローラのコンセプトローラブルスマートフォン。縦に収縮する

折りたたみスマートフォンと聞くと画面を左右に開いて小型タブレットにする「横折り式」の製品を思い浮かべる人が多いだろう。だが縦に開くとスマートフォンとなり、閉じると手のひらサイズの小型サイズになる「縦折り式」のスマートフォンも存在する。どちらもフォルダブルディスプレイを使っていることから同じカテゴリの製品と思えるかもしれないが、横折り式の折りたたみスマートフォンは「小型タブレット」に近い存在であり、縦折り式のスマートフォンは普通のスマートフォンの派生製品だ。

そのため横折式のスマートフォンは大型画面を必要とするユーザー向けという、ややニッチな製品と言える。一方縦折り式のスマートフォンは本体を開けば現在使っているスマートフォンと使い勝手は何ら変わらない。しかも持ち運ぶときは小型サイズになるからポケットにも入れやすい。最近のスマートフォンはディスプレイサイズがどんどん大きくなっているが、縦折り式のスマートフォンなら持ち運び時は半分の大きさにたたむことができるのである。

たとえばサムスンの「Galaxy Z Flip4」は6.7インチディスプレイを搭載し、本体の縦サイズは165.2mmである。同じ6.7インチの「iPhone 14 Pro Max」が160.7mmなので、このディスプレイサイズなら一般的な大きさと言える。
ところがGalaxy Z Flip4は折りたたむと84.9mmになる。4.9インチディスプレイの小型モデル「BALMUDA Phone」でも123mmだから、Galaxy Z Flip4がいかに小さいかわかるだろう。

縦にたたむと小さくなるGalaxy Z Flip4
縦にたたむと小さくなるGalaxy Z Flip4

これからスマートフォンで動画を見ることが当たり前になり、また動画を見ながらTwitterの画面を小さく表示するといったマルチウィンドウの使い方も普及していくだろう。そのためにはスマートフォンのディスプレイサイズを今より大きくする必要があるが、7インチを超えたスマートフォンはもはやポケットに入れるのも一苦労だ。しかし折りたたみスマートフォンならば普段は小さいサイズで持ち運び、必要な時だけ縦に開いて大きいディスプレイを使うことができる。実際にサムスンとファーウェイは横折り式、縦折り式の2つの製品を出しているが、販売比率は縦折り式のほうが多いという。

韓国では縦折り式の「Galaxy Z Flip4」の人気が高い
韓国では縦折り式の「Galaxy Z Flip4」の人気が高い

しかも縦に伸びるローラブルスマートフォンであれば、本体を縮めたときでも全画面を表示領域として使うことができる。モトローラも自社の最新折りたたみスマートフォン「moto razr 2022」に閉じたときの上蓋側に大きいディスプレイを搭載したがサイズは2.7インチと小さく、サブ用途程度にしか使うことができない。ローラブルスマートフォンなら「縮めてもスマホ、伸ばしてもスマホ」として使えるのだ。

moto razr 2022。アウトディスプレイもあるが2.7インチと大きくはない
moto razr 2022。アウトディスプレイもあるが2.7インチと大きくはない

今後スマートフォンのディスプレイサイズの大型化と共に縦折り式のスマートフォンも増えていくだろう。調査会社のレポートを見ると折りたたみスマートフォンの販売数は2026年に全体の3%程度、2030年に10%程度といったデータも見られる。
しかしフォルダブルディスプレイの価格が引き下がれば販売数は伸びていくだろう。そして縦折り式スマートフォンがある程度一般化したころ、今度は「縦に伸びるローラブルスマートフォン」が注目を集めるようになるかもしれない。モトローラはそんな10年先を視野に入れて新技術の開発を進めているに違いない。
実は縦に伸びるローラブルディスプレイはサムスンディスプレイも試作品を開発済みだ。ローラブルスマートフォンの登場時期は不明だが、必ずや市場に登場する日がやってくるだろう。

モトローラのコンセプトローラブルスマートフォン。縦に収縮する
最新情報をチェックしよう!