「駅の売店で買い込んだ “電子” 新聞を持ち、電車に乗り込む。座席に座りその新聞を開くとトップニュースの動画が再生され、その横では今日の株価情報の数字がずらりと並び刻一刻と数字が変わっていく」。
数年前のSF映画の世界でよく見られた光景が実現するかもしれない。もちろん今なら誰もがタブレットを持てばいいだけのことだろう。だが大きい画面のタブレットよりも、丸めたり折りたためる大きな紙のほうが持ち運びやすい。
紙のように自在に曲げられるディスプレイなど夢のような製品に見えるが、LGディスプレイがフリーフォーム技術を採用した世界初の「Stretchable(ストレッチャブル、収縮自在)ディスプレイ」を開発した。

ストレッチャブルディスプレイはベースの基盤にコンタクトレンズなどで使われている特殊シリコンを採用し、元のサイズから20%も伸ばすことのできる柔軟性を実現している。今回発表したストレッチャブルディスプレイのサイズは12インチだが、最大14インチまで引き延ばすことができる。また映像を表示するピクセルは1つ1つが極小のLEDであるマイクロLEDを採用。LEDのピクセルピッチは40μm未満と小さく、ディスプレイは100dpiの表示化が可能だ。
ちなみによく似た技術にiPadなどが採用するミニLEDがあるが、ミニLEDの主用途はディスプレイのバックライトだ。つまりディスプレイの光源として使われるのがミニLEDである。
一方マイクロLEDは1つ1つが映像を表示する画素そのもので、1つの色を表現するためのR、G、Bと3つの極小=マイクロサイズのLEDを組み合わせている。一般的にはミニLEDのLEDサイズは100μm以上、マイクロLEDは100μm以下のものが使われる。LGのストレッチャブルディスプレイではさらに小さい40μm未満のLEDを採用することで自在に曲げることができるのだ。

ディスプレイ体験を変える製品としてはすでにFoldable(フォルダブル)=折りたたみディスプレイが開発されており、スマートフォンやノートPCの一部に採用されている。折りたたみスマートフォンは小型タブレットとスマートフォンを1台に集約することができるし、たためるノートPCは普段持ち運ぶことのできない大きさのディスプレイをかばんに入れることを可能とした。本体をL字に曲げて使うなど、スマートフォンやノートPCの使い方を大きく変えていくだろう。

だがストレッチャブルディスプレイはフォルダブルディスプレイよりもさらに可能性を広げるものになる。
例えばノートPCへ応用するなら、本体はCPUなどを搭載したキーボード側だけとして、その本体を保護する巻き取り式のカバーそのものをストレッチャブルディスプレイとし、必要な時だけ本体からディスプレイを外してスタンドなどに立てて使う、そんな応用例が期待できる。つまりノートPCの使い方だけではなく、デザインも変えてしまう可能性があるのだ。
将来の応用としては各自動車メーカーが開発を進めている自動運転車へ採用されるだろう。自動運転車は「走るコンピューター」であり、ダッシュボードには大型ディスプレイを搭載している。だが現状では自動車のダッシュボード全体を1枚で覆うディスプレイは強度面などから製品化しにくい。ストレッチャブルディスプレイならダッシュボードだけではなく、ドアの内側など複雑な曲面やでっぱりのある部分にも貼り付けることができるのだ。

身の回りを見ても「ここにディスプレイがあればいいのに」と思う場所が数多くあるだろう。「貼り付けできない場所は無い」とまでいうのは言い過ぎかもしれないが、ストレッチャブルディスプレイはあらゆるものの表面を表示画面にできるのだ。個人的には「丸められる新聞紙」のように、ストレッチャブルディスプレイを使った電子ブックリーダーが出てきたら使ってみたい。

LGはすでに世界初かつ世界で唯一のローラブルディスプレイも商用化している。ディスプレイは硬くて曲げられないものという固定概念を覆してしまう「曲がるディスプレイ」、今後どのように進化していくのか楽しみである。
