日本でも発売されたシャオミの「Xiaomi 12T Pro」は2億画素カメラを搭載している。1億を越える画素数(1億800万画素)カメラを世界で初めて採用したのもシャオミだったが、今度は2億画素カメラで「画素数競争」での覇権を狙おうとしている。
Xiaomi 12T Proが採用する2億画素のイメージセンサーはサムスン製だ。スマートフォンのイメージセンサーではソニーが圧倒的に強く、Strategy Analyticsによると2021年の収益シェアはソニーが45%、サムスン21%と倍以上の差をつけている。ちなみに3位は中国のOmniVisionの11%だ。
ソニーのセンサーは多くのスマートフォンメーカーが採用しており、現在主流の5000万画素クラスではほとんどのメーカーがソニー製を採用。新製品発表会でもセンサーのモデル名を明らかにするなどソニー製センサーへの性能と品質への信頼性は圧倒的に高い。

一方サムスンはメインカメラではソニーにその座を譲るものの、サブカメラである超広角カメラなどへの採用が広まっている。だが最近はハイエンドスマートフォンを中心に、サブカメラの高画質化も目立っている。たとえばvivoの「X90 Pro+」はメインカメラが5000万画素、超広角カメラが4800万画素、ポートレートカメラが5000万画素、望遠カメラが6400万画素だ。
このうちメインカメラとポートレートカメラはそれぞれソニーの「IMX989」「IMX758」搭載を明らかにしている。しかもIMX758の採用は世界初という点もアピールしている。このようにサブカメラも高画質化が進めば「オール・ソニー製センサー」という贅沢なモデルが出てくることも時間の問題だろう。

サムスンとしてはボリュームを稼げるミドルレンジやエントリー向けのセンサーを出していけばビジネスは順調かもしれない。しかし技術革新無くしてはこの業界は生き残れない。「薄利多売」ではなく、コストを掛けて最新の技術を追求していかなければ最終的なコストダウンを実現することは不可能だろう。そこでサムスンが進めているのが高画素数化だ。
画素数を高めるということは一見するといいことのように見えるが、スマートフォンのセンサーの大きさは決まっている。一定の大きさに多くの画素=イメージセンサーを搭載するということは、画素1つ1つの大きさは小さくなってしまう。つまり逆に感度は低くなってしまう。
そこで複数のイメージセンサーを1つの画素として作用させる「ピクセルビニング」という技術が使われる。たとえば1つのイメージセンサーを4個の小さい画素で構成するわけだ。これにより細かい描写も再現できる。5000万画素など高画質なカメラを搭載しながら、実際に撮影して保存される画像は1200万画素などになるのはこの技術を使っているからだ。

サムスンの2億画素センサー「ISOCELL HP1」は明るいところでは2億画素、暗いところではピクセルビニングにより4×4=16個の画素を1つのイメージセンサーとして作用させる。また8Kビデオ撮影時は2×2=4個の画素を結合して解像度を5000万画素まで下げて録画し、8Kビデオを生成するという。単純に画素数を上げるだけではなく、ピクセルビニング技術も高めることでカメラ性能を引き上げているのだ。そしてもちろんこの技術は他の画素数のイメージセンサーにも応用できる。
一方ソニーは「億画素」センサーは商用化しておらず、現時点での最高画素数は6400万画素だ。画素数ではサムスンの後塵を拝するものの、画素数だけが撮影画質を左右するものではない。ソニーはサムスンに先駆けスマートフォン用の大型センサーを開発、vivo X90 Pro+も搭載するIMX989のセンサーサイズは1インチだ。センサーの大きさとはカメラが光を受ける受光部そのものの大きさである。センサーサイズが大きければ大きいほど多くの光を受けられるから画質も高まる。ちなみに1インチセンサーはデジタルカメラでも採用されている。

しかしスマートフォンの小さいボディーサイズに搭載できるセンサーの大きさは限界がある。ソニーは1インチセンサーをぎりぎりまで小型化することに成功したわけだ。IMX989はシャープの「AQUOS R7」やライカの「Leitz Phone 2」、シャオミの「Xiaomi 12S Ultra」「Xiaomi 13 Pro」そしてvivoが採用しており、今後は他社のハイエンドスマートフォンでも採用が広がるだろう。
スマートフォン向けのカメラセンサーはデジタルカメラよりも小型化、省電力化が必要であることから、カメラを搭載するIoT機器向けにも応用展開ができる。また自動車の自動運転化に必要とされるイメージセンサーにもつながる技術となる。ソニーとサムスンのイメージセンサー開発競争は、スマートフォン以外の分野でも大きな技術革新を与えるものになるだろう。