世界のスマートフォンの出荷台数の半数を中国メーカーが占める中、スマートフォンとペアで使うスマートウォッチでも中国メーカーの存在感が高まっている。主力のスマートフォンビジネスで苦境のファーウェイはウェアラブルデバイスの開発を強化、シャオミは低価格なリストバンド端末を中心に人気を高めている。
しかし今、その中国メーカーのスマートウォッチの存在を脅かそうとしているメーカーがある。それはインドのメーカーだ。インド市場のスマートフォンの出荷台数増加にけん引され、インド製のスマートウォッチは世界市場でもアップルやサムスンに次ぐ出荷数を記録している。

インドは中国に次ぐ人口14億を越える巨大な市場だ。Counterpointの調査によると、2022年第3四半期(7-9月)の世界のスマートウォッチ出荷台数の割合でインドが初のトップ、30%となり、2位の北米市場(25%)を上回った。なお3位は中国市場の16%で、その他の地域(アジア、ヨーロッパ、中東など)の合計は29%だった。

そのインド市場の躍進を支えているのがインドメーカーのスマートウォッチだ。1四半期前の調査になるが、Counterpointによる2022年第2四半期(4-6月)のインドのスマートウォッチのシェアは1位がFire Boltt、2位がNoise、3位がboAtで、いずれもインドメーカーだ。しかもこの3社だけで市場の約3/4を寡占、つまりインドで販売されているスマートウォッチの4台に3台はインドメーカーの製品なのだ。
3社の強さは他のメーカーのシェアを見ればさらに明らかになる。4位のサムスンのシェアは大きく引き離されてわずかに3.3%、5位Dizoは2.5%しかない。ちなみにDizoは元々スマートフォンメーカーOPPOのサブブランドとしてスタートしたrealmeが分社化し、そのrealmeのIoT関連製品を手掛ける「Realme TechLife」のブランドだ。
そしてその他22.7%の中でApple Watchなどを含む多数のメーカーが少ないパイの中で「数%ずつ」という少ないシェアの奪い合いを行っている。

インドでこれほどまでにスマートウォッチが売れているのは低価格な製品が急増したからだ。インドで販売されている製品の価格は先進国と比べて圧倒的に安く、販売中の全製品のうち半数以上が3500ルピー(約5600円)以下である。もちろん高価なApple Watchも多くの人にはあこがれの製品だろう。しかしほとんどの消費者が日用品として選んでいるのは低価格モデルなのだ。
Counterpointはスマートウォッチを「OSを搭載した高性能モデル」であるHLOS(High-Level Operating System)Watchと、基本機能(活動量系など)を中心にしたBasic Smartwatchに分けている。HLOS製品で世界シェアは言わずもがなのApple Watchであり、2位はサムスンのGalaxy Watchだ。一方Basicモデルのシェアは1位がNoise、2位Fire Boltt、3位boAt。インド市場の順位そのままに、グローバル市場でのBasicスマートウォッチの上位3社はインドメーカーなのだ。
この2つのカテゴリを合わせた総合的な順位は、1位アップル、2位サムスン、3位Noise、4位Fire Bolttとなる。スマートフォン市場でシャオミやOPPO、vivoが中国市場で莫大な数を出荷したことで世界シェア上位にランクインしているように、スマートウォッチ市場ではほぼインドだけで販売しているインドメーカーが世界シェア5位以内にランク付けされているのである。

それではインドメーカーは実際にどんな製品を販売しているのだろうか。各社はほぼ毎月のようにマイナーチェンジモデルを含む新製品を投入しており、その数は非常に多い。ディスプレイの形状もスクエアなApple Watchタイプだけではなく円形デザインのものも提供し、常時30機種前後がラインナップされている。基本機能として活動量計を搭載しており、バッテリーサイズやBluetoothでの連携機能などスペックを変えることでバリエーションを増やしているのだ。アップルやサムスンなど大手メーカーは数モデルのみしか展開していないが、インドメーカーは逆に価格を細分化し誰もが気軽に買える製品展開を行っているのである。

Noiseのスマートウォッチは円形ディスプレイのNoisefitシリーズ、スクエアディスプレイのColorfitシリーズの2つの柱があり、それぞれにEvolve、Loop、Buzzなど様々なモデルを提供。最上位モデルでも価格は4990ルピー(約8000円)だ。そして下位モデルへの価格の刻みは500ルピー(約800円)から200ルピー(約200円)と細かく、自分の予算に応じて製品を選べる。多数のモデルを価格を刻んで揃えることで、消費者の予算や好みをすべてカバーし、他メーカーに浮気されないようにしているわけだ。しかもより高機能な製品は展開しておらず、それらを求めるユーザーはアップルやサムスンを買ってもらえばいいと割り切っている。
このように格安モデルで勝負しているインドメーカーだが、このままインド国内での競争が進めば製品の品質もおのずと高まっていくだろう。それは中国のスマートフォンメーカーの低価格モデルが今や高品質な製品になったことからもわかる。
そして今後スマートウォッチに搭載できる生体センサーの小型化や低価格化が進めば、インドメーカーもそれらを積極的に採用し、大手メーカーの製品との性能差は無くなっていく。2020年にApple Watch Series 6が血中酸素濃度測定機能を搭載したとき大きな話題になったが、今やその機能はインドメーカーの製品の上位モデルでも標準搭載されている。
インドのスマートウォッチはいずれ規模の拡大を目指して周辺国へも進出するだろう。アフリカや東南アジアでは一般消費者が手軽に手を出す製品となり、先進国でもコンビニで買えるカジュアルな製品として普及が進む可能性は大いにある。2023年はインドのスマートウォッチメーカーの動きにも注目したい。