リサイクルした魚網を内部パーツに使用(サムスン新製品発表会のプレゼン)

サステナブルなスマホ「Galaxy S23 Ultra」はどこまで環境にやさしいのか|山根康宏のワールドモバイルレポート

FCNTが日本で発売した「arrows N」はリサイクル素材の使用率が67%という日本で最もサステナブルなスマートフォンだ。リサイクル素材を使ったスマートフォンはヨーロッパなどでも出ているが、日本メーカーもついに環境に配慮した製品を開発する時代になったようだ。この動きはスマートフォンの世界シェア1位であるサムスンも率先して行っており、2023年2月1日に発表した「Galaxy S23 Ultra」ではリサイクル素材が様々な部分で利用されている。

サムスンのフラッグシップスマホ「Galaxy S23 Ultra」
サムスンのフラッグシップスマホ「Galaxy S23 Ultra」

サムスンはTVのパッケージに再生紙を使用し、さらにネットで図面を無料配布しパッケージに書き写せば本棚や犬小屋を作れる、といった消費者が気軽に廃材の再利用を行える取り組みもかなり前から行っている。またTVのリモコンには太陽電池やWi-Fiルーターからの微弱電波から発電するコンデンサーを搭載し乾電池を廃止、廃棄電池削減も進めている。

スマートフォンでは2022年2月に発表した「Galaxy S22 Ultra」で再生プラスチックを随所に取り入れた。使われているのは海に投棄されてしまう魚を取る網を回収し、リサイクルした素材だ。

リサイクルした魚網を内部パーツに使用(サムスン新製品発表会のプレゼン)
リサイクルした魚網を内部パーツに使用(サムスン新製品発表会のプレゼン)

Galaxy S23 Ultraでは引き続きこの海洋回収プラスチックを本体内部に採用。Galaxy S23 Ultraは本体左下に手書き入力ができるスタイラス(Sペン)を収納できるが、そのペンホルダー部分や、内部の構成パーツの一部にリサイクルプラスチックが採用されている。リサイクルプラスチックの利用量は20%とのこと。また新たに本体下部のスピーカーモジュール部分にも5%のリサイクルプラスチックが使用されている。

本体を構築するフレームはアルミニウムを主体とした合金が使われているが、ここにも28%のリサイクルアルミニウムが使用されている。本体の外装に当たる部分にリサイクル素材を使ったのはGalaxyスマートフォンで初めてとのことだが、他の大手メーカーの製品でも同様の素材利用は見当たらない。

フレーム部分にもリサイクルアルミニウムが含まれる
フレーム部分にもリサイクルアルミニウムが含まれる

さらには背面の表面のガラスを保護する透明樹脂素材もリサイクルPETを80%採用。フレーム、背面と消費者の直接目に留まる部分にリサイクル素材を使っている。フラッグシップモデルでありながらも積極的に環境配慮を行う試みは大きく評価すべきだろう。

そしてフロント側のディスプレイ表面を保護するガラス層もリサイクル素材が使われている。このガラスはサムスン製ではなくコーニングゴリラガラス。ゴリラガラスは多くのメーカーが採用しているが、最新の「Gorilla Glass Victus 2」は2メートルの高さから落としても破損しない強度を持ちながら、22%のリサイクルガラスが含まれている。
スマートフォンに無くてはならないガラス保護層素材を提供する最大手のコーニングと、サムスンが手を組むことで、他のメーカーにもリサイクル素材採用の動きは広がっていくだろう。

強度アップと環境配慮を強化したGorilla Glass Victus 2(サムスン新製品発表会のプレゼン)
強度アップと環境配慮を強化したGorilla Glass Victus 2(サムスン新製品発表会のプレゼン)

リサイクル素材の活用は、他の産業や製品ではすでにかなり進んでいるところもあるが、スマートフォンのような小型かつ精度が要求され、また電波特性を妨害しないなど素材の成分そのものにも高い品質が求められる製品にはなかなか導入しにくいところだ。さらに供給量が不安定では大量生産されるスマートフォンには使いにくい。

安定したリサイクル素材の活用はサムスンが直接行えるものではなく、その業界の専門企業と協業を行っている。魚網の回収はRoyal DSMと提携しており、同社はインド洋の海岸線に沿って海中から回収を行っている。魚網の主成分はナイロン樹脂だが、やぶれてしまった魚網をそのまま再利用=アップサイクルすることは難しい。そこでRoyal DSMは回収魚網を分離、切断、洗浄、押し出し加工して80%以上のリサイクルナイロン・リサイクルポリアミドを含むプラスチックに生まれ変わらせている。なお魚網の回収は地元の漁師も行っており、天候不順で沖合に出れないときなどに魚網の回収を行うことで、漁師の収入安定化も行えるという。

この再生樹脂はファンファコンパウンドが最終的にスマートフォンの部材として使用できる原材料に適合させ、サムスンの品質検査をクリアしたのちパーツに生まれ変わる。これだけ手間がかかることからリサイクル素材の仕様は本体コストを高めるものになるが、2016年に国際的に採用されたパリ協定で、2050年までに温室効果ガスを完全に削減する「ネットゼロ」で世界各国が合意している。サムスンは2030年のネットゼロを実現するため、今から様々な取り組みを行っているのだ。

サムスンは2030年のネットゼロを目指す(サムスン新製品発表会のプレゼン)
サムスンは2030年のネットゼロを目指す(サムスン新製品発表会のプレゼン)

アメリカ・サンフランシスコにあるGalaxy最新製品のショールーム「Galaxy Experience」でも、入り口を入ると広いフロアーの中心にあるのはGalaxy S23シリーズのリサイクル素材の利用をアピールするコーナーだ。多くの来場者はそれを気にせず新製品を触っているが、ふと目を製品から話したときに、目の前にリサイクル素材が置いてあれば「なるほどな」と来客の心の中に何らかのメッセージを残すことができるだろう。
スマートフォンの進化は機能だけではなく、環境配慮もこれから各社が取り組んでいかねばならない課題となっている。

Galaxy Experienceではリサイクル素材の現物も展示されている
Galaxy Experienceではリサイクル素材の現物も展示されている
リサイクルした魚網を内部パーツに使用(サムスン新製品発表会のプレゼン)
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