海外で3D表示可能なタブレットが発売された。Nubiaの「nubia Pad 3D」は専用のグラスなどを不要とする、裸眼で3D表示ができるタブレットだ。しかも既存の動画をリアルタイムに3D変換して視聴することもできるという。

裸眼で3D表示が可能なデバイスはこれまでも多数のモデルが販売されてきた。日本人ならばシャープが3Dスマートフォンを一時期出していたことを覚えているかもしれない。他にもLGなどが3Dスマートフォンを発売していた。しかしそれらが投入されたのは今から10年以上も前のことだ。その後3Dスマートフォンが市場で主流にならなかった理由は単純に「実用性が全くなかった」ということだったのだろう。一番の問題はスマートフォンの小さい画面で3D表示を行っても、表示される3D画像や映像は臨場感にはほど遠いものだった。しかも画面の解像度も低く、3Dコンテンツを見ると目が疲れてしまうほどだった。さらに3Dコンテンツも思ったほど登場しなかった。

3Dの疑似表示をサービスの目玉の1つとして大失敗したスマートフォンもあった。アマゾンが2014年に発売した「Fire Phone」は、本体の前面の4隅にカメラを搭載し、スマートフォンの画面とユーザーの顔の距離を認識する「ダイナミックパースペクティブ」機能を搭載した。この機能によりFire Phoneの画面の上で手を降るだけでスクロール操作を行ったり、画面に表示されるコンテンツ(アマゾンの商品ページなど)を3D的に見せることができたのだ。
しかし4.7インチ画面で見る3Dコンテンツは商品購入意欲を湧かせるほどのものでもなく、ダイナミックパースペクティブ操作の使いにくさもありFire Phoneは全く売れなかった。発売時の定価は199ドル、それが2か月後にはわずか0.99ドルに値下げされた(要通信キャリアAT&Tとの2年契約が必要)。それでも売れず、アマゾンは2014年第3四半期に470億円の赤字を記録しているが、これはFire Phoneの失敗がもたらしたものだ。

3Dスマートフォンが売れるためには魅力的な3Dコンテンツも必要だが、前述したようにそもそも小さい画面で3D表示を行っても迫力を感じにくい。最近登場した眼鏡型で目の前に画面を表示できるスマートグラスも、100インチクラスの大画面を見ることができることから人気を高めつつある。スマートウォッチのような小さい画面の表示が便利なのは通知を表示できるからであって、メッセージの本文を全部見るならより大きいスマートフォンの画面を誰もが使うだろう。

ようやく実用的なレベルの3Dスマートフォンと思われたのは2018年に発表されたREDの「RED Hydrogen One」で、5.7インチ2560 x 1600ピクセルという高精細な3Dディスプレイを搭載。3D表示をまともに見ることができた。
ただしRED Hydrogen Oneは異業種であるカメラメーカーが手掛けたスマートフォンであることもあり製造が遅れに遅れ、製造が難しいチタンボディーの最上位モデルを予約したユーザーに、アルミニウムボディー版を無償で先に送るといった紆余曲折のリリースを経た。結果としてそれほど多くない数のモデルが市場に投入されるに留まったのだ。ちなみにアルミ版は1295ドル(当時のレートで約14万円)、チタン版は1595ドル(約17万円)とかなり高価だった。

このように3Dスマートフォンは失敗の連続続きだったが、Nubiaはタブレットの3D化を行うことで「迫力ある3Dコンテンツ」で成功を収めようと画策している。nubia Pad 3Dのディスプレイは12.4インチ、2560 x 1600ピクセルで120Hz駆動に対応する。スマートフォンよりもかなり大きい画面サイズのため、3Dで動画や写真、ゲームを表示するとたしかな奥行きを感じることができるのだ。
nubia Pad 3Dには800万画素のフロントカメラが2つあり、ユーザーの目を常にトラッキングすることで裸眼での3D表示を可能としている。また背面には1600万画素のデュアルカメラも搭載、一般的なスマートフォンのような「広角と望遠」のデュアルではなく、2つのカメラで同時撮影することで3D写真や動画を撮影できるのだ。

このnubia Pad 3DとRED Hydrogen Oneの3Dディスプレイを開発したのはLeia社。同社が開発したDLB(Diffractive Lightfield Backlighting)テクノロジーは、ハードウェアとしては一般的なスマートデバイスのディスプレイの下部に「DLBパネル」を挟み込むだけで3D表示を可能にする。さらにnubia Pad 3DはAIを使うことで自然な3D表示を実現している。
ただし3Dスマートフォンやタブレットが全く流行らなかった理由として、魅力的な3Dコンテンツが存在しない点が大きな問題だった。鶏が先か卵が先かのように、3Dタブレットを売るには3Dコンテンツが必要だ。RED Hydrogen Oneでは背面のデュアルカメラで3D写真の撮影が可能だったが、多くの人は普段から3D写真ばかりを撮ることはしないだろう。
そこでLeiaはnubia Pad 3Dに多数の3Dコンテンツ関連アプリを搭載している。まずカメラは3D写真だけではなく3D動画の撮影も可能だ。今やだれもが動画を楽しむ時代だけに、3D動画を手軽に撮影できる点は一つの強みになるだろう。また3D対応したゲームを配信するアプリストアもLeiaは提供している。
そして最も有用と思えるのがメジャーな動画配信サービスの動画をリアルタイムで3D変換して表示できる「LeiaTube」アプリだ。名前からわかるように、YouTubeの動画を再生中に、LeiaTubeアプリに「シェア」操作すると、普段見ている動画をLeiaTube上で3D表示できるのだ。12インチの大きい画面で風景や料理番組を3D表示で見てみるとかなり楽しめる。その他にも3Dコンテンツの提供など、nubia Pad 3Dを買ったその日から3Dを楽しむことができるのだ。個人用途だけではなく、たとえば店舗の店頭に設置して商品を3D表示するといった使い方や、図鑑などを3D表示する教育分野への展開も出来るだろう。

nubia Pad 3Dの欠点をあげるとすれば、フロントカメラでアイトラッキングを行うため、3D表示を見ることができるのは1度に1人だけという点だ。友人同士が集まってnubia Pad 3Dの画面を見ても、3D表示で見ることができるのは1人だけなのである。また3D表示はだいぶ自然に見れるとはいえ、まだまだ画質の荒さは目立つ。これはVRがなかなか普及しない点と似ているかもしれないが、より高精細な表示ができなければリアル感が薄れてしまう。
とはいえnubia Pad 3Dの登場で、3Dコンテンツを作ったり自分で見てみよう、と思うユーザーの数は確実に増えるだろう。昨今のメタバースの流行りと合わせ、2Dから3Dへとコンテンツのリッチ化が進む中で、ある程度実用的な3Dタブレットが市場に登場した意義は大きい。なおnubia Pad 3Dは日本の技適も取得されており、日本で発売される可能性もある。2023年はもしかすると3Dコンテンツの普及元年になるかもしれない。