中国の通信事業者3社の4Gサービス競争が本格化している。世界最大の契約者数を誇る中国移動は低価格機を中心にスマートフォンラインナップを拡充。追いかける中国聯通、中国電信に差をつけはじめている。だが中国の4Gはまだ始まったばかり。各社は来年にも開始する高速サービスでさらなる差別化を図ろうとしている。
中国移動がけん引する中国の4G
2014年6月に上海で開催されたMobile Asia Expo 2014は開催国中国での4Gサービスの開始を受けて、「4G」「LTE」の文字が中国各通信事業者のブースに目立っていた。中国では3Gサービスの開始が2008年と、日本から8年も遅れて始まった。だが4Gでは世界初のサービスが2009年12月にスウェーデンで開始されてから4年後と、世界との差を少しずつ進めている。しかも中国移動が3Gを開始した時はサービスエリアも狭く、端末種類もほとんどなく試験サービスの域を超えるものではなかったが、4Gではサービスインから数か月で国内の主要都市をカバー、端末も20機種以上が販売されている。
中国国内の4Gサービスの普及をけん引しているのは中国移動で、サービス開始から半年後の2014年5月末時点で4G加入者数は約810万に達した。同社の総加入者数は世界最大の約7億8730万、4G加入者の比率はまだ1%に過ぎない。それでも新規契約数に占める4G加入者の比率は毎月高まっており、3Gと4Gを合わせた新規加入者のうち同月は43%が4G加入者となった。このペースで進めばいずれは2Gからの乗り換え客も3Gを経由せずすべてが4Gへと移行するようになるだろう。

このように中国移動にとって4Gはすでに主力サービスになろうとしている。今後は農村部など地方のサービスエリアの拡大が必要だが、すでに2Gのインフラ投資は終了しており今後は2Gと3Gの置き換えとして4Gのカバレッジは一気に拡大される予定だ。一方では都市部の建屋内や地下はまだ非4Gのエリアであり、それらのカバーも重要となってくる。とはいえあと数年もすれば「中国のどこへ行っても4Gにつながる」という時代がやってくるだろう。
さてどこでも4Gが使えるようになるとなれば、次に求められるのは通信速度の向上だ。中国では現在3つの事業者が共にTD-LTE方式の4Gサービスを提供している。TD-LTEでは現時点では最大の下り速度は112Mbpsであり、ストリーミングサービスでの音楽や映画の視聴にも十分耐えられるだけの速度を提供している。だが諸外国では通信速度を上げるためのキャリアアグリゲーション(CA)技術が商用化されており、各国での導入が始まっている。
CAは日本でも2014年夏からauが導入を予定している。CAは簡単に言えば2つの周波数の電波を別々ではなくまとめて使うものであり、2本の道路を纏めて1本の太い道路のようにして使う技術だ。auは世界でもメジャーなもう一つのLTE方式であるFDD-LTEを採用しており、1つの周波数帯域(10MHz)での通信速度は75Mbpsとなる。CAでは2つの周波数帯域を重ねる(10MHz+10MHz)ことで、75+75=150Mbpsと倍の速度を実現できるのだ。
韓国ではすでにこの2つの周波数=2バンド利用のCAは実用化されており、2014年6月からは20MHz+10MHzを利用した225Mbpsというより高速なサービスも始まっている。3Gと比較して十分高速なLTEも、それをさらに高速化させる様々な技術が登場しているのである。

1Gbpsの超高速通信も数年内に実用化
TD-LTE方式を採用する中国移動もCA技術の開発をネットワークベンダーやチップセットベンダーと共同で行っており、現在よりも高速な通信速度を早ければ年明けにも商用化する予定だ。Mobile Asia Expo 2014の中国移動ブースでも複数のCAのデモが行われ、実用化が間近であることを体験することができた。
例えば2バンドCAは112Mpbsと112Mbpsを2本重ねることで200Mbpsを超えるライブデモを展示。こちらは早ければ来年にでも商用化される見込みだ。この速度を利用するためには対応する端末が必要となるが、その試作スマートフォンもHuaweiが展示。ネットワークの商用化に端末の商用化も間に合いそうである。

また他には開発中の1Gbpsという超高速データ通信のデモも行われた。これはさらには倍の帯域のバンドを5つ、すなわち「112Mbpsx2=224Mbps」を5つ重ね合わせることで1Gbps越えの速度を実現するとのこと。こちらの実用化はまだ先になるだろうが、そう遠くない日には有線インターネットよりもLTEのほうがはるかに高速、そんな時代がやってきそうだ。
さて中国移動に対し、加入者シェア2位の中国聯通もCAのデモを行っていた。こちらは中国移動に対抗してか、300Mbpsと1.3Gbpsとより高速なライブデモを展示。300Mbpsのほうは1-2年で商用化できるだろうとのこと。このように中国聯通が中国移動に負けじと高速化技術の開発を行うことで、中国全体の4G環境は世界でもトップクラスの充実したものになっていくだろう。

この他にはFDD-LTEとTD-LTEという、異なる2方式のLTEの電波を利用するCAのデモも随所で見られた。中国では中国聯通と中国電信がTD-LTEに加え今後FDD-LTEのサービスを開始する予定だ。またTD-LTEのみでサービスを行っている中国移動も、将来はFDD-LTEの新周波数の割り当てが行われれば免許を取得する可能性もある。そして中国以外に目を向ければ、例えば日本でもauはFDD-LTEに加えTD-LTE互換のWiMAX2+サービスを提供中だ。
このように中国のみならず、世界各国で2つのLTE方式を提供する事業者も今後増えるだろう。そうなればFDD-LTEとTD-LTE両対応のスマートフォンも増える。だがFDDだけ、TDだけと片方の通信方式だけを利用するのはもったいない。通信方式が異なっても両方式をまとめて利用できるCA技術はいずれ各国で求められるものになるだろう。
TD-LTEの普及を広めつつも、国際互換の観点からFDD-LTEとの融合も中国は視野に入れており、FDD-LTEとTD-LTEのCAは中国での商用化が世界で最も早いかもしれない。
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